「おじいちゃんがゲーム買ってくれたよ」と嬉しそうに話す息子。おじいちゃん・おばあちゃんには、ゲームは買い与えない教育方針と話してあるのに……。でも「可愛くて仕方のない孫」に、祖父母にあたる両親・義両親はさまざまなものを買ってあげたい、何かをプレゼントしたいという気持ちでいっぱいだ。そのため、孫の家の教育方針とは合わないものをプレゼントしてしまう祖父母の方も少なくないだろう。
そうした場合でも、その後の関係を気にしてしまって「うまく断れない」とお困りのお父さん・お母さんも多いはずだ。実際に、両親・義両親との仲が悪くなってしまったり、彼らからのプレゼントがきっかけで夫婦間の関係まで悪くなってしまったりすることもあるかもしれない。
ここでは、『まるわかり! もしもの時の手続き・相続 完全ガイド』著者の野谷邦宏氏に、おじいちゃん・おばあちゃんの「孫のためにお金を使ってあげたい」気持ちもふまえつつ、額が大きい場合に経済的にもメリットがあり、解決策になるかもしれない方法を聞いた。
「贈与」という形で孫にプレゼントしてもらう
あなたにお子さんがいるとして、両親・義両親(以下、まとめて「両親」とする)からあなたのお子さんへプレゼントとして、「生前贈与」を行うという方法があります。生前贈与とは、存命のうちに財産を渡す方法です。年間110万円までの贈与は非課税になるので(暦年課税制度)、節税効果がありますし、ご両親にとっても悪い話ではありません。
しかし、この場合に、「贈与したつもりになってしまっている状況」には気をつけなくてはいけません。
贈与は双方が合意の上で成立するものです。たとえば、祖父母が孫の口座に毎年内緒で贈与税のかからない限度額である110万円を振り込んでいたとしても、孫に「祖父母から贈与を受けた」という認識がなく、また通帳や印鑑も親や祖父母が管理していた場合、通帳に使った形跡が見られない場合には、贈与が成立しない可能性もあります。
孫の名義であっても実際は親が管理しているという預金は「名義預金」といい、親の預金とみなされてしまいます。名義預金は相続財産に含まれてしまうため、課税対象となってしまうのです。おじいちゃん・おばあちゃんが孫のために贈与してくれるという場合には、少し注意が必要です。
教育のためにお金を使ってもらう
生前贈与である「教育資金の非課税の特例」を使って、孫に教育のための資金を贈与するという方法もあります。
「教育資金の非課税の特例」は、2013年4月1日から2021年3月31日の期間限定の特例です。通常は、1年間に贈与を受けた財産の合計金額が110万円を超えてしまうと課税されますが、この特例を利用すると、孫や子などの直系尊属への教育目的の一括贈与が合計1500万円まで非課税になります。
教育を目的にした贈与にも2種類があります。1つ目は、幼稚園・保育園から専修学校・大学・大学院までの教育機関に対して支払われる金銭のことで、授業料や学用品費、留学費用なども含めることができます。
2つ目は、学校以外で社会的通念上、教育を受けるために支払われるものとして相当と認められる金銭のことです。学習塾や予備校、スポーツ・文化芸術教室などのレッスン代のことを指します。この2種目に関しては、非課税になるのは総額500万円までと決まっているので、注意が必要です。
特例を使う場合の注意点
この「教育資金の非課税の特例」にはいくつか注意点があります。贈与を受ける側の人を「受贈者」と呼びますが、受贈者の前年の所得金額が1000万円を超える場合はこの特例を受けることができません。また受贈者の年齢が23歳を超えると教育資金の一部が非課税の対象になってしまうので、注意が必要です。加えて「教育費用に利用した」という証明が必要なため、使った費用には領収書をもらうのを忘れないでください。
さらに、もしも贈与をした人が教育資金の贈与を行ってから3年以内に亡くなってしまった場合には、贈与した金額のうち、死亡時に使いきれてない金額に関しては、相続財産に持ち戻して、相続税が課税されてしまいます。
「教育資金の非課税の特例」を利用する場合には、金融機関を通して行います。銀行や信託銀行などで「教育資金口座」を開設し、金融機関経由で税務署へ「教育資金非課税申告書」の提出を行います。方法の詳細に関しては、ご利用の金融機関にプランがあると思いますので、そちらを参照してください。
また、お孫さんがすでに20歳を超えているおじいちゃん・おばあちゃんには、住宅購入費用やリフォーム資金を贈与してもらう方法もあります。自分が住むための住宅の購入費用・リフォーム資金を贈与してもらう場合には、最大3000万円までの贈与が非課税になります(住宅所得等資金の贈与税の非課税)。
ただし、取得する家屋の購入先の制限など、適切な要件は個人によって異なります。この制度の利用を検討する際には、税理士など専門家に相談するとよいでしょう。
まとめにかえて
このように、あなたのご両親が一定の資産をお持ちで、「孫に何かしてあげたい」と思っていらっしゃる場合は、「孫への贈与」をおすすめしてみましょう。先にも述べたように、両親にとっても大きく節税効果もあり、相続にも活用することができます。
また、あなたがすでにお孫さんをお持ちの場合に、お孫さんの将来や教育のことを考える機会があれば、できれば一緒にご自身の相続や終活についても考えてみてください。
■野谷 邦宏(のや・くにひろ)
司法書士・行政書士・1級ファイナンシャルプランニング技能士・相続士・遺品整理士。一般社団法人しあわせほうむネットワーク代表、司法書士法人リーガルサービス代表。資産管理会社勤務を経て、2000年より司法書士・1級ファイナンシャルプランニング技能士として活動開始。現在、非営利団体一般社団法人しあわせほうむネットワーク東京相談室・横浜相談室を拠点とし、生活に密接な法律手続きを得意とする「街の専門家」として活動している。
野谷氏の著書:
『まるわかり! もしもの時の手続き・相続 完全ガイド」』