「新NISAで米国株を買っても、円で買っている以上は関係ない」——そう思っている方は少なくありません。
しかし実際には、新NISAで米国株やS&P500に投資すると、為替の変動と、日本ではあまり知られていない「税金の落とし穴」の両方に向き合うことになります。
今回は、新NISAで米国株投資をする際に知っておきたい「為替」と「税金」のリアルについて整理します。
- 円建ての投資信託でS&P500を買っても、中身は米ドル資産。為替の影響を必ず受ける
- NISA口座では米国株の配当にかかる10%の現地税を「外国税額控除」で取り戻せない
- 為替リスクは長期の積立で平準化しやすいが、税金の仕組みは商品選びと口座選びで対策できる
1. 実質ドル投資!新NISAでS&P500を買うと為替でどうなる?
1.1 円建て投資信託でも「中身は米ドル」の仕組み
新NISAのつみたて投資枠で人気の「S&P500インデックスファンド」は、日本円で購入・売却ができるため、一見すると円の商品のように感じられます。
しかし実際には、投資信託が円で受け取ったお金を米ドルに換えて米国株式を買い付けており、資産の実体は米ドルです。そのため、基準価額は「米国株式の値動き」と「米ドル/円の為替レート」という2つの要因によって決まります。
米国株式市場が休場中でも、為替レートが動けば基準価額が変動するのはこのためです。
1.2 「株高×円高」「株安×円安」で資産はどう動く?(4パターン比較)
円換算した資産額がどう動くかは、株価と為替の組み合わせによって、大きく4つのパターンに分かれます。
- 株高×円安:株価上昇と為替差益が両方プラスに働き、資産は大きく増える
- 株高×円高:株価上昇分が為替差損で相殺され、伸びが鈍る
- 株安×円安:株価下落分を為替差益がある程度打ち消してくれる
- 株安×円高:株価下落と為替差損が両方マイナスに働き、資産は大きく減る
特に警戒されやすいのが「株安×円高」の場面です。
米国株が下落する局面では、同時に「安全資産」としての円が買われて円高になりやすい傾向があるため、資産への影響が二重に出やすいパターンといえます。
1.3 長期投資なら「円高」をそこまで恐れなくていい理由
とはいえ、新NISAのように長期・積立での投資を前提とするなら、一時的な円高を過度に恐れる必要はありません。
為替レートは数年単位で見ると上下を繰り返す傾向があり、積立を続けている間に円高の時期と円安の時期の両方を経験することになります。
長期的には、株価指数そのものの成長が資産形成への影響として大きくなりやすく、短期的な為替の上下は「通過点」として捉える視点が大切です。
2. 新NISAの落とし穴!米国株・ETFで「外国税額控除」が使えない理由
2.1 米国現地で引かれる10%の税金とは?
米国企業の株式やETFから配当を受け取ると、日本に届く前に、米国側でまず10%の税金が源泉徴収されます。これは日米租税条約に基づく税率で、条約がなければ本来30%が課される配当について、日本の投資家には10%まで軽減される仕組みです(財務省「日米租税条約のポイント」)。
つまり、配当100ドルに対して、まず米国側で10ドルが差し引かれ、90ドルが手元に届く計算になります。
2.2 なぜNISA口座だと確定申告で取り戻せないのか(二重課税の仕組み)
課税口座(特定口座・一般口座)であれば、この米国側の10%について、確定申告で「外国税額控除」を使うことで、一部または全部を日本の税金から差し引くことができます。これは、同じ配当に対して米国と日本の両方で税金がかかる「二重課税」を解消するための制度です(国税庁タックスアンサーNo.1240)。
難しく聞こえますが、仕組みは「日本とアメリカで2回税金を取られすぎないようにするための調整ルール」だと考えるとわかりやすくなります。日本国内では、配当に対して所得税・住民税を合わせて20.315%の税金がかかりますが、外国税額控除を使うことで、米国で払った10%分を、この日本側の税金からある程度差し引くことができるのです。
ところが、NISA口座で受け取る配当は、日本側の税金がそもそも0%です。外国税額控除は「日本の税金から、外国で払った税金を差し引く」制度である以上、差し引く元になる日本の税金が発生しないNISA口座では、そもそもこの制度の対象になりません。
実際に、国税庁タックスアンサーNo.1240では、租税特別措置法第9条の8に規定する「非課税口座内上場株式等の配当等」に課される外国所得税額は、外国税額控除の対象にならないと明記されています。つまり、NISA口座で米国株の配当を受け取ると、米国で引かれた10%は、取り戻す手段がないまま、恒久的に負担することになります。
※NISA口座で米国株や海外ETFの配当金を非課税で受け取るには、証券口座での受取方法を「株式数比例配分方式」に設定しておく必要があります。これが「配当金領収証方式」や「登録配当金受領口座方式」になっていると、NISA口座で保有していても国内側の税金20.315%がそのまま課税されてしまいます。米国現地の10%が戻らない以前に、国内側の非課税メリット自体を取りこぼしてしまう、実務上もっとも起こりやすい落とし穴です。なお、S&P500などの株式投資信託の分配金については、この手続きは不要です。
2.3 【比較】「S&P500投信」vs「米国高配当株/ETF」税金で得するのはどっち?
この「取り戻せない10%」の影響は、実は保有する商品のタイプによって重さが変わってきます。
S&P500に連動する投資信託の多くは、配当を投資家に払い出さず、ファンドの内部で自動的に再投資する「無分配型」の商品です。この場合も、ファンドが投資先の米国株式から受け取る配当には、当然ながら米国で10%の税金がすでに引かれています。ただしこれはファンドの運用成果に組み込まれるコストであり、NISA口座か課税口座かによって差が生まれる場面(分配金として個人が受け取る場面)自体がほとんど発生しません。
一方、米国の高配当株や、配当を定期的に出すタイプのETFは、配当がそのまま個人に支払われます。課税口座であれば、確定申告での外国税額控除により、米国の10%分を取り戻せる可能性があります。また、東証に上場している投資信託・ETF・REITの分配金については、2020年以降「二重課税調整措置」という、確定申告なしで自動的に二重課税を調整する制度も導入されています(日本証券業協会等)。しかし、この調整措置もNISA口座など非課税口座は対象外とされており、NISA口座で高配当株・ETFを持つ場合は、この調整の恩恵を受けられません。
つまり、配当を積極的に出す商品ほど、NISA口座で持つことによる「取り戻せない10%」の影響が明確に表れやすく、値上がり益を中心に狙うS&P500型の投資信託は、この論点における影響が比較的小さいといえます。


