「メルコ・インサイド」とも呼べる制御技術を強みとする三菱電機(6503)の株価が反発しました。8月4日の終値は前日比113円高(+2.04%)の5,649円。7月31日に発表した2027年3月期第1四半期決算が好調だったことに加え、この日は円安を追い風に電機・機械株が買い直される地合いとなり、値を上げました。時価総額は約11.9兆円です。

ココがポイント
  • 好決算と上方修正・増配で8月4日は+2.04%高
  • 1Qは営業利益24.6%増、通期予想を上方修正
  • 予想PER約23倍・実績PBR約2.5倍で割高感は薄い

1. 第1四半期は営業利益24.6%増、通期予想を上方修正

7月31日に発表された2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月期)の実績は、売上収益が前年同期比14.0%増の1兆4,971億円、営業利益が同24.6%増の1,395億円、税引前利益が同26.6%増の1,571億円、親会社株主に帰属する当期利益が同20.8%増の1,098億円でした。1株利益(EPS)は53.66円、自己資本比率は63.1%と財務も堅固です。

あわせて会社は通期の業績見通しを引き上げました。売上収益予想を従来の6兆2,000億円から6兆2,700億円へ、親会社株主に帰属する当期利益予想を4,750億円から4,950億円(1株利益241.87円)へと上方修正。さらに、前回開示から年間配当予想を前期実績の55円から60円へと増配する方針も示しています。増益・上方修正・増配がそろった好決算でした。

2. 決算後に急落、そして円安で反発——荒い数日間

株価は、決算をはさんで荒い値動きとなりました。好決算を発表した直後の8月3日には、市場全体が「好決算でも売られる」地合いだったこともあり、三菱電機も6%超の急落となりました。それが8月4日には、円安の進行を受けて電機・機械株が全般に買い直されるなかで、+2.04%と反発しています。数日の値動きだけを見ると、業績の中身よりも、相場全体の地合いと為替に振り回された格好です。

3. なぜ買われたのか——好決算の再評価と円安の追い風

8月4日に三菱電機が買われた背景は、大きく二つあります。一つは、7月31日の好決算と通期上方修正の再評価です。前日8月3日に相場全体の地合いに押されて売られた反動で、あらためて業績の堅調さが見直されました。

もう一つは為替です。この日はドル円が157円台へと円安に振れ、輸出比率の高い電機・機械セクター全体に買いが波及しました。三菱電機は海外売上比率が高く、円安は利益の押し上げ要因となります。

もっとも、8月4日の上昇は決算という新規の材料によるものではなく、あくまで前日の下げの反動と地合いの好転によるものです。

4. 「メルコ・インサイド」——制御技術を軸に稼ぐFA・インフラの雄

三菱電機は、工場の自動化(FA)から鉄道、エレベーター、空調、パワー半導体まで、幅広い産業向け製品を手がける総合電機メーカーです。同社の強みは、機械を動かすモーター、それを制御するインバーター、その中核となるパワー半導体といったキーデバイスを自社で開発・製造し、最終製品と組み合わせて提供できる点にあります。半導体を制御機器に組み込んで価値を出す姿から、その事業モデルは「メルコ・インサイド」とも呼べます。

三菱電機がソニーやシャープなどより早く業績を立て直せたのは、メモリなどの汎用デバイス事業を早い段階で切り離し、制御という自社が強い領域に経営資源を集中させてきたからです。電力システムや鉄道といったインフラ事業でも、プロジェクト全体を一括で背負うのではなく、「自分たちが最も得意なシステムや機器を納める役割に徹する」ことで、採算悪化を避けながら着実に稼いできました。規模を追わず、勝てる土俵で戦う——これが三菱電機の一貫した姿勢です。

5. 予想PER約23倍・実績PBR約2.5倍——業績の実力に見合った評価

5,649円という株価をどう評価すればよいでしょうか。会社予想の1株利益241.87円をもとにすると、予想PER(株価収益率)は約23倍です。直近の1株純資産に対する実績PBR(株価純資産倍率)は約2.5倍、年間配当予想60円をもとにした配当利回りは約1.1%、時価総額は約11.9兆円になります。

予想PER約23倍は、東証プライムの平均をやや上回る程度で、同じ電気機器のなかで高採算のキーエンスや東京エレクトロンと比べれば控えめな水準です。ここで役立つのがPBR = ROE × PERという評価式です。実績PBRが約2.5倍なのは、同社のROE(株主資本利益率)が1割前後と、総合電機としては安定的に高いことの裏返しです。つまり現在の株価は、制御技術を軸にした堅実な収益力を、過度な期待を上乗せせずに評価しているといえます。見極めるべきは、今回の上方修正が示す回復基調が、下期以降のFA・インフラ需要で裏づけられるかどうかです。

6. 元機関投資家イズミダの視点:規模を追わず「役割に徹する」ことの強さ

私が三菱電機を見るときに一番評価しているのは、規模の拡大を追わず、自分たちが勝てる土俵に徹してきたことです。かつて日本の電機メーカーの多くは、メモリや液晶パネルのような、資本力の勝負になるデバイス事業に深入りし、韓国・台湾勢との設備投資競争に敗れていきました。三菱電機はそうした汎用デバイスを早めに手放し、制御という「メルコ・インサイド」の領域に資源を集中させた。インフラ事業でもプロジェクトを丸ごと抱え込むのではなく、得意なシステムや機器を納める立場に徹し、採算を守ってきました。私がいつも言うように、戦略とは「何をしないかを決めること」です。三菱電機は、やらないことを決めてきた会社なのです。

もっとも、この「役割に徹する」戦略には裏側もあります。電力や鉄道といったインフラが垂直統合(システム一括受注)へと向かうなかで、部品・システムだけを供給する立場が続けば、事業領域が徐々に狭まっていくリスクもあります。今回の好決算と上方修正はFA・電力の底堅さを示しましたが、株価がPER約23倍と実力相応に評価されている今、次に問われるのは「制御の強みを、どこまで新しい成長領域(電動化やデータセンター向け電力など)に広げられるか」です。堅実さの先にある成長の芽をどう示すか。ここが当面の注目ポイントです。

泉田 良輔