銀行員時代、定年退職を目前にしたお客様から「年金だけで生活できるか不安で……」というご相談をよくお受けしました。
将来の年金見込額と毎月の生活費を一緒に確認しながら、「差額をどう補うか」を一緒に考えていたものです。
最近、SNSで「年金だけでは足りない分は生活保護がもらえる」という声が話題になっていました。
物価高で生活が苦しい今、「それなら保険料を払いたくない」と考えてしまう気持ちも分からなくはありません。
しかし、老後に公的年金を受けとるには、現役時代に年金保険料を支払う必要があります。
自営業者やフリーランスなどが支払う国民年金保険料は令和8年度で月額1万7920円。会社員などの厚生年金保険料は、月給30万円の場合で自己負担は月額3万円弱が目安です。
「本当に生活保護で補填できるなら、この保険料を浮かせたい」と思うかもしれませんが、実際の制度はそれほど甘くはありません。
この記事では、元銀行員の視点から年金と生活保護の関係性を分かりやすく整理し、現役世代がいま知っておきたい「本当の備え」をお伝えします。
1. 3つのポイントの見出し
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「年金+生活保護」の併用は可能だが、受給には貯蓄や持ち家などの資産をすべて使い切る「厳しい前提条件」がある
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国民年金の平均額は月約6万円。公的年金だけでゆとりある老後を送るのが難しいという現実を知る -
現役世代は、生活費3〜6カ月分の「緊急予備資金」を確保した上で、iDeCoやNISAを早期に活用することが重要
2. 年金の平均月額、男女で大きな差があります
厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、老齢年金の平均月額は次のとおりです。
2.1 厚生年金(国民年金部分を含む)の平均月額
- 男女全体:15万289円
- 男性:16万9967円
- 女性:11万1413円
グラフを見ると、月額階級が1万円未満~30万円以上と個人差がある様子も見てとれます。
2.2 国民年金(老齢基礎年金)の平均月額
- 男女全体:5万9310円
- 男性:6万1595円
- 女性:5万7582円
令和8年度の国民年金の満額は月額7万608円です( 昭和31年4月1日以前生まれの方は月額7万408円)。
これは40年間、未納なく全ての保険料を納めた場合に受けとれる金額です。
国民年金は日本に住む20歳以上60歳未満の全ての人が加入対象となっており、会社員や公務員などは加えて厚生年金にも加入します。老後の年金も、厚生年金に加入して働いた期間がある場合は「国民年金+厚生年金」となるため、国民年金より手厚くなる仕組みです。
しかし、厚生年金部分は加入期間や収入により決まるため個人差が生じるのです。
では、年金だけで生活できない場合には本当に生活保護をもらえるのでしょうか。
3. 年金と生活保護は「併用できる」、ただし条件がある
冒頭のSNSの声にあったとおり、年金額が最低生活費に満たない場合、生活保護を受給することは可能です。
ただし、年金と生活保護が単純に足し合わされるわけではありません。
生活保護の支給額は次の計算式で決まります。
- 生活保護費 = 最低生活費 − 年金等の収入
この最低生活費は済んでいる地域(級地)により異なります。
たとえば、大阪市で65歳以上の一人暮らしの場合、最低生活費の目安は月額約11〜12万円台です。
年金が月6万円であれば、差額の約5〜6万円が生活保護費として支給される計算になります。
ただし、生活保護費を受給するには条件があります。
3.1 生活保護費を受給するには「活用できる資産をすべて使い切る」が前提
生活保護費を受給する条件
- 預貯金・生活に使っていない土地や家屋があれば売却して生活費に充てる
- 働ける状態であれば、能力に応じて働く
- 年金・手当など他の制度を先に活用する
- 親族からの援助が受けられる場合はそちらを優先する
これらをすべて活用してもなお収入が最低生活費を下回る場合に、はじめて保護が適用されます。
「年金が少ないからすぐに生活保護を受けられる」という話ではなく、手持ちの資産を使い切ることが前提になっています。
なお、厚生労働省「被保護者調査(令和8年4月分概数)」によると、生活保護の被保護実人員数は約197万人で、前年同月比で1.3万人減少しています。
申請件数は前月比で増加傾向にあり、経済的な困窮を抱える世帯の状況は依然として続いています。
なお、被保護世帯の55.4%を高齢者世帯が占めており、老後の暮らしがいかに厳しい局面にあるかが、データからも改めて浮き彫りとなっています。
4. 【筆者からのアドバイス】老後に向けて現役世代が準備しておきたいこと
公的年金だけで老後の暮らしをやりくりするのは、平均的な受給額を見ても難しいのが実情です。
生活保護という制度が最後のセーフティネットとして存在していることは確かですが、受給条件として資産を全て使い切ることが前提になっている以上、「なんとかなる」と楽観するのは少し危うい気がします。
現役世代の方にとっては、こうした現状を早めに知り、公的年金以外の老後資金を自分で準備しておくことが、やはり大切ではないでしょうか。
具体的な備えの方法はさまざまで、今の家計状況・保有資産・ライフスタイルによって、何が自分に合っているかは変わります。
ただ、共通して言えるのは、まず「生活費3〜6カ月分の緊急予備資金を確保してから、余剰資金で資産運用を始める」という順番を崩さないことです。
そのうえで、税制面での優遇も魅力となるiDeCoやNISAの活用も検討してみると良いでしょう。
- iDeCo(個人型確定拠出年金):掛金が全額所得控除になり、運用益も非課税。老後の受け取り時も税優遇あり。現役時代から少額でも積み立てておくと、将来の年金の上乗せになる。
- NISA(少額投資非課税制度):運用益が非課税で、いつでも引き出せる柔軟性が特徴。老後資金の形成と同時に、緊急時の備えとしても機能する。
そもそも自分は将来、年金をどれくらい受けとれるのか?を把握していない方は、ねんきん定期便やねんきんネットで確認してみましょう。
数字で見えると、「あとどれくらい自分で準備すれば安心か」というゴールが具体的になります。
5. まとめ
「年金が足りなければ生活保護を頼ればいい」というのは、制度の仕組み上は間違いではありません。
しかし、そのためには預貯金や持ち家などの資産をすべて使い切る必要があり、決して「手軽な老後資金の足し」にできるものではないのが実情です。
男女の年金平均額を見ても、公的年金だけでゆとりある老後を送るのが難しい現代だからこそ、現役時代からの自主的な備えが重要になります。
まずは「ねんきん定期便」を開くことから始めてみませんか。
現状の数字を直視することは少し勇気がいりますが、そこからiDeCoやNISAといった具体的な対策への第一歩が始まります。
早めの準備で、自分らしい安心できる老後を作っていきましょう。
参考資料
和田 直子



