新年度が始まってから約3カ月が経ち、生活のリズムも落ち着いてきた頃ではないでしょうか。
この時期は、ご自身の働き方や家計について、改めて考える良い機会かもしれません。
筆者はこれまで、約2000世帯のお客様のライフプランやお金のご相談に携わってまいりましたが、特に定年退職などを経てセカンドライフを歩み始める方々にとって、「収入の変化」は最も大きな関心事であり、不安の種になりやすいと感じています。
現役時代と比べて収入が減少する傾向にある一方で、60歳以上の世代は暮らしを支えるさまざまな公的支援の対象となります。
しかし、これらの支援制度の多くは、自分で申請しなければ受け取ることができません。
この記事では、60歳以上の方が対象となる代表的な5つの給付金について詳しく解説します。
ご自身が対象になるか、また、いくら受け取れるのかを確認するための参考にしてください。
※LIMOでは、個別の相談・お問い合わせにはお答えできません。
1. 申請しないと受け取れない公的給付とは?見逃しがちな制度を解説
公的年金である老齢年金や障害年金、遺族年金は、生活を支える重要な社会保障制度です。
しかし、これらの年金は受給要件を満たしたからといって、自動的に支給が開始されるわけではありません。
年金を受け取るためには、ご自身で「年金請求書」を提出し、請求手続きを行う必要があります。
同様に、国や自治体が提供する多くの手当、給付金、補助金なども、申請手続きが前提となっています。
定められた申請期限を過ぎたり、必要な書類がそろっていなかったりすると、受け取れるはずだった給付が減額されたり、場合によっては受け取れなくなったりすることもあります。
公的な支援制度を有効に活用するためには、どのような制度が利用できるのかを把握し、正しい手順で手続きを進めることが重要です。
2. 老齢年金に上乗せで受け取れる2つの制度
老齢年金を受給している方が特定の条件を満たすと、通常の年金額に加えて支給されるお金があります。
ここでは、その代表的な2つの制度についてご紹介します。
2.1 制度1:加給年金
加給年金は、しばしば「年金の家族手当」のようなものと説明される制度です。
老齢厚生年金の受給者が、一定の条件を満たす年下の配偶者や子どもを扶養している場合に、年金額が加算されます。
加給年金の支給条件
- 厚生年金の被保険者期間が20年(※)以上ある方:65歳に到達した時点、または定額部分の支給が始まる年齢に達した時点
- 65歳到達後などに被保険者期間が20年(※)以上となった方:在職定時改定時や退職改定時、または70歳に到達した時点
(※)または、共済組合等の加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以降15年から19年
それぞれ上記のタイミングで、「65歳未満の配偶者」または「18歳到達年度の末日までの間の子、または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子」がいる場合に年金が上乗せされます。
ただし、配偶者が老齢厚生年金(被保険者期間が20年以上あるもの)、退職共済年金(組合員期間が20年以上あるもの)を受給する権利がある場合、または障害厚生年金、障害基礎年金、障害共済年金などを受給している場合、配偶者加給年金額は支給停止となります。
2026年度における加給年金の支給額
2026年度における加給年金の年額は、対象者に応じて以下のようになっています。
- 配偶者:年額24万3800円
- 1人目・2人目の子:各年額24万3800円
- 3人目以降の子:各年額8万1300円
また、老齢厚生年金受給者の生年月日に応じて、配偶者加給年金額には3万6000円から17万9900円の特別加算額が支払われます。
振替加算の仕組み
加給年金の対象であった配偶者が65歳になると、加給年金の支給は終了します。
しかし、その配偶者が自身の老齢基礎年金を受け取る際に、一定の条件を満たしていれば、その老齢基礎年金に「振替加算」として金額が上乗せされる仕組みがあります。
2.2 制度2:老齢年金生活者支援給付金
年金生活者支援給付金は、基礎年金を受給している方が一定の所得要件を満たした場合に受け取れる給付金です。
この制度には「老齢」「障害」「遺族」の3種類があり、それぞれに支給要件が定められています。
ここでは「老齢年金生活者支援給付金」に焦点を当てて解説します。
老齢年金生活者支援給付金の対象となる条件
- 65歳以上で老齢基礎年金を受給していること
- 同一世帯の全員が市町村民税非課税であること
- 前年の公的年金などの収入金額(※1)とその他の所得の合計額が、昭和31年4月2日以降生まれの方は80万9000円以下、昭和31年4月1日以前生まれの方は80万6700円以下(※2)であること
※1 障害年金・遺族年金などの非課税収入は含まれません。
※2 昭和31年4月2日以降に生まれた方で80万9000円を超え90万9000円以下の方、昭和31年4月1日以前に生まれた方で80万6700円を超え90万6700円以下の方には、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給されます。
老齢年金生活者支援給付金の基準額はいくら?
2026年度の老齢年金生活者支援給付金における給付基準額は月額5620円となり、前年度から3.2%の増額となりました。
この基準額を基に、保険料の納付状況などに応じて実際の給付金額が計算されます(下記①と②の合計額)。
老齢年金生活者支援給付金の具体的な計算方法
- ①保険料納付済期間に応じた額(月額) = 5620円 × 保険料納付済期間 / 被保険者月数480カ月
- ②保険料免除期間に応じた額(月額) = 1万1768円 × 保険料免除期間 / 被保険者月数480カ月
例えば、国民年金保険料を40年間すべて納付した場合、2026年度は月額5620円、年額で7万7440円の給付金が支給されます(ただし、昭和16年4月1日以前生まれの方は計算方法が異なります)。
なお、保険料免除期間に乗じる金額は、毎年度の老齢基礎年金額の改定に伴って変動します。
3. 就労中のシニア向け:雇用保険から支給される3つの給付金
働き続けるシニア世代にとって、就労に関連する給付金や手当も重要な情報です。
シニアの就労を支援する制度は増えていますが、国税庁の「令和6年分 民間給与実態統計調査」によると、一般的に60歳を境に収入が減少する傾向が見られます。
例えば、平均給与は50歳代後半の男性で735万円ですが、60歳代前半では604万円、60歳代後半では472万円となっています(女性はそれぞれ356万円、294万円、240万円)。
また、若い世代と同じようにスムーズに就職活動や就労継続ができるとは限りません。
ここでは、シニア世代が知っておきたい雇用保険関連の給付金を3種類ご紹介します。
3.1 給付金1:再就職手当(65歳未満対象)
再就職手当は、早期の再就職を促す目的で支給される手当です。
失業してから再就職または事業を開始するまでの期間が短いほど、支給額は多くなります。
再就職手当の支給条件
- 対象者:雇用保険の受給資格者で、基本手当の受給資格がある方
- 支給要件:対象者が雇用保険の被保険者として就職するか、事業主となって被保険者を雇用する場合で、基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あり、その他一定の要件を満たした場合に支給されます。
再就職手当の給付率について
- 手当の額:就職日の前日までに失業認定を受けた後の基本手当の支給残日数によって、給付率が変わります(1円未満の端数は切り捨て)。
- 所定給付日数の3分の1以上の支給日数を残して就職した場合:「支給残日数の60%」
- 所定給付日数の3分の2以上の支給日数を残して就職した場合:「支給残日数の70%」
なお、再就職手当を受け取った方が再就職先で6カ月以上雇用され、その6カ月間の賃金が離職前の賃金より低い場合には、「就業促進定着手当」の対象となることがあります。
3.2 給付金2:高年齢雇用継続給付(60歳以上65歳未満対象)
高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の方が働き続ける中で、賃金が60歳時点よりも低下した場合に支給される給付金です。
高年齢雇用継続給付の支給条件
- 対象者:雇用保険の被保険者期間が5年以上ある、60歳以上65歳未満の雇用保険被保険者
- 支給条件:賃金が60歳に到達した時点の75%未満の状態で就労を継続する場合
高年齢雇用継続給付の支給率について
- 支給額:最高で賃金額の10%(※)に相当する額
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たした方は15%
老齢年金を受け取りながら厚生年金に加入し、「高年齢雇用継続給付」を受給する場合、在職による年金の支給停止に加えて、最大で標準報酬月額の4%(※)相当額が支給停止となる点に注意が必要です。
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たした方は6%
3.3 給付金3:高年齢求職者給付金(65歳以上対象)
高年齢求職者給付金は、65歳以上の方が失業した場合に受け取ることができる給付金です。
高年齢求職者給付金の支給条件
- 対象者:高年齢被保険者(65歳以上の雇用保険加入者)で失業した方
- 支給要件:以下のすべての要件を満たす必要があります。
- 離職日以前1年間に、被保険者期間が通算して6カ月以上あること
- 失業の状態にあること(就職の意思と能力があり、積極的に求職活動を行っているにもかかわらず就職できない状態)
高年齢求職者給付金の支給額はいくら?
- 支給額
- 被保険者であった期間が1年未満の場合:基本手当30日分に相当する額
- 被保険者であった期間が1年以上の場合:基本手当50日分に相当する額
65歳未満の方が受け取る「失業手当」は4週間に一度の失業認定を経て給付されますが、高年齢求職者給付金は一括で支給される点が特徴です。
4. 2025年の法改正で注目される社会保険の適用拡大
2025年6月13日に「年金制度改正法」が成立し、パートタイムなどで働く方の社会保険への加入対象が拡大されることになりました。
これは、いわゆる「106万円の壁」の撤廃にもつながる重要な変更点といえます。
4.1 短時間労働者の社会保険加入要件はどう見直されるのか
2025年6月時点では、パートなどの短時間労働者が社会保険に加入するためには、以下の5つの要件をすべて満たす必要があります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 2カ月を超える雇用の見込みがある
- 学生ではない
- 所定内賃金が月額8万8000円以上(←いわゆる「106万円の壁」に関連)
- 従業員数51人以上の企業で働いている
今回の法改正では、このうちの「賃金要件」と「企業規模要件」が撤廃される方針が示されました。
これにより、全国の最低賃金の動向を見ながら、3年以内に「106万円の壁」が廃止される見込みです。
また、社会保険の加入対象となる企業規模も、10年かけて段階的に拡大され、将来的には企業の規模に関わらず加入が求められるようになります。
5. まとめ:利用できる給付金と制度変更のポイント
60歳以上の方が利用できる公的給付には、年金に上乗せされるタイプのものや、就労に関連して雇用保険から支給されるものなど、さまざまな種類があります。
しかし、これらの給付の多くは申請をしなければ受け取ることができず、制度の存在を知らないと機会を逃してしまう可能性があります。
特に、加給年金や年金生活者支援給付金は、対象者であるにもかかわらず見落としてしまうケースも少なくありません。
さらに、今後の社会保険の適用拡大によって、短時間労働者も社会保険への加入が必要になる場面が増え、手取り額や将来の年金額に影響が出てくるでしょう。
ご自身が対象となる給付制度がないかを確認し、必要な手続きを進めることをおすすめします。
あわせて、社会保険制度の変更も考慮に入れながら、ご自身の収入と働き方のバランスを考えてみてはいかがでしょうか。
早めに情報を確認し、行動することが、将来の生活設計につながります。
※当記事は再編集記事です。
参考資料
- 日本年金機構「初めて老齢年金を請求するとき」年金請求書(国民年金・厚生年金保険 老齢給付)様式第101号
- 日本年金機構「か行 加給年金額」
- 日本年金機構「加給年金額と振替加算」
- 厚生労働省「年金生活者支援給付金制度について」
- 日本年金機構「老齢(補足的老齢)年金生活者支援給付金の概要」
- 日本年金機構「令和7年4月分からの年金額等について」
- 厚生労働省「Q&A~高年齢雇用継続給付~」
- 厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」
- 日本年金機構「年金と雇用保険の高年齢雇用継続給付との調整」
- 厚生労働省「再就職手当のご案内」
- 厚生労働省「離職されたみなさまへ<高年齢求職者給付金のご案内>」
- 国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
- 政府広報オンライン「パート・アルバイトの皆さんへ 社会保険の加入対象により手厚い保障が受けられます。」
- LIMO「【2026年4月】申請しないと0円?60歳以上が年金とは別にもらえる給付5つ|対象条件と社保拡大の影響も解説」







