マハティール政権誕生から1年。マレーシアは成長路線に復帰なるか?

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昨年5月の総選挙で、マレーシア国政の歴史の中では初めての政権交代が起こり、マハティール首相(現在93歳)が返り咲きました。その後、約1年が過ぎましたが、この間たびたび来日し、中国とも直接交渉するなど、外交を積極的に展開しつつ首相としての激務を遂行して、マレーシアを引っ張ってきた世界最高齢の首相には感服せざるを得ません。

マハティール首相の精力的な働きかけで外国直接投資が大幅増加

さて、マハティール政権が選挙で公約し、まず最初に実施した政策が消費税(6%)の廃止とサービス税の導入でした。これにより歳入が減少することや消費がそれほど伸びないことが懸念されましたが、国内消費は予想外に好調を維持しています。一方で物価上昇率は1%程度に留まるなど、事前の懸念は当たっておらず、案ずるより産むが易しだったといえるかもしれません。

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また、公約だった腐敗防止にも大胆に切り込みました。ナジブ前首相など前政権で要職にあった政治家や政府系企業トップの腐敗容疑を次々に起訴して、不正や腐敗に厳しい新政権とのイメージを国民に印象付けています。

そして、前政権で計画された大型公共投資の工事費の見直しも大胆に行いました。国のためにならない過剰な投資はするべきではないとの考えを表明して大型プロジェクトの見直しに着手。これにより、マレーシアへの支援を約束していた中国との関係悪化も懸念されましたが、今年4月には、マハティール首相自身が中国を訪問し習近平主席と直談判の末、一帯一路政策を支持することと引き換えに、中国からマレーシアへの大型投資継続の合意を取り付けました。

東海岸鉄道建設やシンガポールとクアラルンプールを結ぶ新幹線計画も再開に向けて動き始めています。結果として、大幅なコストダウンが図られ、470億リンギットものコスト削減に繋がったと評価されています。また、マハティール首相は就任後最初の訪問先として日本を訪れ、日本政府から円借款やマレーシアが起債する円建て外債に日本の支援を取り付けました。

積極的な対外的働きかけが奏功して、2018年のマレーシアへの外国直接投資は大幅に増加しました。中国とアメリカの貿易摩擦が強まり、世界経済の成長見通しに不透明感が強まる中、外国からの投資は減少することが懸念されましたが、マレーシアへの期待感は維持された模様です。2018年の投資額は805億リンギットと前年比約50%も増加する記録的な伸びとなりました。

ただ、公共投資の大幅削減や前政権が策定した大型プロジェクトの一時停止など、財政支出の減少も手伝って、マレーシアの経済成長率は2017年の年率5.9%から2018年は4.8%へと低下しました。2019年も、成長率は昨年度並みの4.5-4.8%と厳しい見通しです。

また、消費税撤廃による歳入減少幅ほど、公共工事の大幅削減は果たせるはずもなく、財政赤字は対GDP比で2017年の3.0%から2018年には3.7%に増加しました。今後の経済成長をどう確保していくのか、持続的な成長戦略には外国からの投資促進頼みという危うい側面も否定できません。

マレーシアは長期的視点で期待が持てる市場

マハティール政権に対する期待と信頼は、選挙から1年を経ても、なお維持されているようです。マレーシアの経済成長は足元では減速してはいますが、公共投資や政府内の無駄を削り、政府の効率化を進めることは必要不可欠なことと国民の多くが肯定的に受け止めています。経済政策を優先し、外国からのビジネス誘致にも優遇策を展開し、外国直接投資を増やすことに奔走しているマハティール政権の姿勢には、経済界も外国投資家も概ね高い評価をしています。

また、マレーシアは、長期的な政策としてクアラルンプールをイスラム金融センターにするべく政策を展開しています。国際金融特区(TRX)の建設は進展しており、クアラルンプールの街の中心地に、その一部が近々竣工します。アジアでは、インドネシアと並んでイスラム教の国であるマレーシアは、世界を席巻しつつあるイスラムマネーの受け皿として、大きな可能性を有していると感じます。

一方、93歳になるマハティール首相自身の高齢問題も気がかりです。マハティール氏はナジブ政権打倒のため、先の総選挙で、かつて確執のあったアンワル元副首相(71)と手を組みました。この1年間で、アンワル氏への禅譲の準備がそれほど進んでいるようには見えません。これをどう進めて政権を安定させるのか、マハティール首相の手腕に引き続き注目が集まります。

残念ながら、市場でのマレーシアへの評価は、まだ芳しくありません。マレーシアリンギットは1米ドル=4.12リンギットと引き続き安値圏にあり、期待されたようには反転していません(史上最安値は2016年末につけた、1米ドル=4.48リンギット)。また、マレーシアの株価も低迷から抜け出せていません。

しかし、現在進めている政策は時間はかかるものの、景気を押し上げ、マレーシアを成長軌道に回帰させると予想します。投資を始めるには、長期視点では良いエントリー機会が現在なのではないかと考えています。

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長谷川 建一
  • 長谷川 建一
  • ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク
  • 取締役兼CIO (Chief Investment Officer)

京都大学卒、MBA(神戸大学)。 シティバンクグループ日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。
2004年末、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)に移り、リテール部門マーケティング責任者として活躍。2009年からは国際部門でアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク)にてCOOに就き、2017年3月よりCIOを務める。