採用難から、学生にアピールする材料を企業が作ろうと頑張るかもしれません。それが「給料が高いこと」であれば、社員たちは「給料が高いので、残業してまで残業代を稼ぐ必要は無い」と思うようになるかもしれません。

あるいは、「残業が少ない、定時で帰れる会社」であることを就活生にアピールするために社員の残業を減らす会社が出てくるかもしれません。

いずれの場合も、社員の残業が減った分は社員数を増やす必要が出てくるため、労働力不足を一層深刻にしかねません。

給料の上がった労働者が消費を増やすかも

また、労働者の消費が増えるかも知れません。「労働力不足で時給が上がって懐が豊かになった分だけ消費を増やす」「残業が減って余暇が増えたので飲み会の回数が増えた」ということに加えて、「不況期にはリストラを恐れて倹約していたが、どうやらリストラされるリスクはなさそうだから、少しは財布の紐を弛めよう」という労働者もいるでしょうから。

それにより企業は売り上げが増えるので、さらに労働者を雇って生産を増やそうとするでしょう。それが一層の労働力不足を招く、ということもありそうです。

給料が増えた分だけ物価も上がっているならば、消費量は増えず、企業は生産量を増やさず、労働者を雇うこともないでしょうが、実際には賃金上昇ほどは物価は上がらないでしょう。

理由の第一は、企業のコストの中で、人件費以外のものが上がらないとすれば、人件費上昇を売値に転嫁したとしても、売値の上昇率は人件費の上昇率より低くなるはずだからです。

理由の第二は、企業間の競争が激しいので、人件費の上昇分をすべて売値に転嫁することは容易ではなく、人件費上昇の一部は企業が収益を削ることで売値の上昇を抑えることになるから、です。

以上、いろいろと理屈を示してきました。現在までのところ、賃金の上昇幅がそれほど大きく無いので、上記のうちで明らかになっているのはパート労働者の労働時間の短縮くらいかも知れませんが、今後は様々な動きが広がるかもしれません。要注目です。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

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塚崎 公義