5月29日、自民党衆院議員の桜田前五輪相が同党議員の政治パーティーにおいて「結婚しなくていいという女性がみるみる増えちゃった」「お子さんやお孫さんにぜひ、子どもを最低3人くらい産むようにお願いしてもらいたい」と来場者に呼び掛け、少子化問題について言及。この発言は批判を浴び、ネット上には怒りの声が溢れました。
「あ~、またこの人か」という呆れの気持ちとともに、「安心して子どもを産み育てられる社会にしていない政治が問題だろう」と、多くの人と同じようにこの発言には怒りを覚えた筆者。それからしばらく経ち、怒りが落ち着いたタイミングで改めてこの問題と向き合った今、ニュースを知った直後とは少し違う考えを抱いています。
桜田前五輪相発言の後を追うかのように飛び出した「ViVi」の広告企画
今になって筆者がすごく気になっているのは「お子さんやお孫さんにぜひ、子どもを最低3人くらい産むように“お願いしてもらいたい”」という部分です。お願いすれば、女性は「わかりました」と頷いてその通りに子どもを産むもの、とでも言っているかのようで非常に不愉快に感じました。
この感情が芽生えたのは、女性誌「ViVi」(講談社)がWEBで展開している自民党の広告企画を知ったからです。
6月10日に始まった「ViVi」のこの企画は、「NEW GENERATION」と書かれたTシャツを着た若い女性モデルとともに、彼女たちが「こんな世の中にしたい」と考えたメッセージを発表しているもの。若い女性の政治参加を促す企画に思えますが、明らかに自民党のプロパガンダであるとの批判の声が相次ぎ、今なお大きな波紋を呼んでいます。
筆者はこの広告を見た時、「『女性誌を読むような若い女性は政治を知らないから、こういうファッションと結びつけておしゃれに見える企画をやれば簡単に支持者にできる』と思われているんだ」と感じました。女性は思慮分別や主体性を持たない存在だと思われている、と。被害妄想だと思う人もいるかもしれません。しかし、男性誌で同じような体裁の広告企画が組まれるでしょうか。
桜田前五輪相の発言の“お願いしてもらいたい”からは、「女性に『産め』と言えば産む」と本気で思っていることが透けて見えるようです。桜田前五輪相も「ViVi」の広告企画も、自分の人生を選択していく女性の意思決定や物事を判断する思考をないがしろにしていることに大きな違和感を覚えるのです。
子を産み育てる不安や悩みは十人十色、それをわかっていない
当該の発言が波紋を呼ぶと、桜田前五輪相はすぐに「子どもを安心して産み、育てやすい環境をつくることが重要との思いで発言した。誰かを傷つける意図はなかった」と釈明するコメントを発表しました。このコメントにおける“誰か”とはきっと、子どもを持ちたくても持てない人や自分の意思で未婚や子どもを持たない選択をした人を想定しているのでしょう。しかしこの発言には、子どもを産み育てている筆者も傷つきました。
妊娠や出産は誰一人として同じケースはなく、そこにはあまりにもさまざまな苦悩や思い、個々の事情が存在しています。妊娠に至るまでの経緯や妊娠してからのひどい悪阻、信じられないくらいの痛みとたたかう陣痛、子育ての不安、仕事復帰後の不安、子どもの将来への不安…。一方で悪阻や陣痛がひどくなかったり妊娠や出産に伴い退職したりといったケースもあるでしょう。
妊娠や出産、子育てには家族の数だけさまざまな事情があり、みながそれぞれの思いを抱いて悩みながら日々を乗り越えている中で「3人産んでもらいたい」と簡単に言ってほしくなかった、と心の底から思います。子を産み育てることについてすべての人を一緒くたにされたことで、人生を踏みにじられたような気持ちにすらなってしまったのです。
日本が直面する社会問題の責任を女性に押し付けている?
「老後に必要な貯蓄は2000万円」という金融庁が発表した報告書によって、年金制度の破綻が浮き彫りになっています。年金資金調達のため、労働力不足や少子化を早急に解決する必要がある。そのためには女性が子どもを産まないといけない。だから結婚をせず、子どもを産み育てない女性は身勝手だ。桜田前五輪相の一連の発言には、日本が抱えている社会問題を女性に押し付けている感が否めません。そもそも子どもは女性だけで産み育てるものではないのに。
桜田前五輪相の発言については、「またか」という思いを抱いた人は少なくなかったでしょう。しかし「ViVi」の件もそうですが、こうしたことにきちんと怒りを表明することは「女性は政治を知らない」「無知だ」とでも言うかのようなメッセージにきっぱりと「NO」をつきつけることでもあります。
そうしていくことで、こんな女性を軽視したような発言も「ViVi」のような広告企画も繰り返されないようにしたい。桜田前五輪相の発言にいま改めて向き合った時、出産や子育ての問題にとどまらない大事なことを捉えられた気がしました。
秋山 悠紀