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飼料添加剤のメチオニンが将来の人口増加に伴う食糧増産のシナリオの本命製品になるかもしれません。

本稿ではメチオニンという聞き慣れない化学製品の説明、それが鶏肉増産にいかに貢献しているか、そして世界市場規模とそのプレーヤーたちをご紹介します。食糧不足シナリオは、株式市場で定期的に話題になるテーマです。ぜひ、一読していただきたいと思います。

食糧問題を解決する解決策のひとつ、家畜の飼料添加物メチオニン

少子高齢化の進展により、日本の人口はあと十数年で1億人を割ることが避けられないと言われています。一方、世界の人口は2050年まで増え続けて約96億人(現在は約70億人)に達する見込みであり、食料問題が深刻な問題として繰り返し議論されています。

ダウケミカルとデュポンの合併や、中国化工集団による世界最大の農薬企業シンジェンタ(スイス)の買収合意なども、将来の食糧問題を意識した経済行動と考えられます。

一般には、世界の人口は新興国を中心に増加すると言われています。そして、宗教的な観点で増加地域を推定すると、ヒンズー教とイスラム教の国がそのリード役になるとも言われています。

また、こうした新興国の経済発展によって中間所得層が増えると、食肉文化が広まるため、食肉需要が飛躍的に増加することが予想されています。一方、既に食肉文化が浸透した先進国では、健康志向を背景に鶏肉への需要シフトが顕著になっています。

食肉文化の拡大における問題は、イスラム教信者が豚肉を、ヒンズー教信者が牛肉を食べられないことであり、そこに市場拡大の障壁が立ちはだかっています。

一方、鶏肉は両方の信者にとって問題がありません。この鶏肉の品質、増産(生産性)に大きく貢献しているのが、人工的に合成されるアミノ酸であるメチオニンの効果なのです。

メチオニンは鶏肉の増産に“必須“の化学製品

アミノ酸は我々の体のたんぱく質を構成する重要な栄養素で、体内で自然に合成されるアミノ酸と合成されないアミノ酸の2種類があります。メチオニンは必須アミノ酸の一種です。必須とは体の成長のために必要だと言う意味で、同類の必須アミノ酸にはL-リジン、トリプトファン、スレオニンなどがあります。

米国でこのメチオニンの製造会社を運営している三井物産の資料によると、鶏の成長促進は、飼料へのメチオニンの添加量によって決まるようです。

鶏が孵化してから出荷されるまでの期間を見ると、飼料にメチオニンを添加しない場合は120日、添加すると42日とされており、大きな違いがあることがわかります。しかも、出荷までの時間が早いだけでなく、鶏の体重も平均1.4~2.6キログラム増えると分析しています。

即ち、増産と肥育効果が劇的に改善する切り札になりうる化学製品なのです。食糧関連の本命製品かもしれません。

メチオニンの世界市場の成長性

世界的な公式統計はありませんが、製造企業からのヒアリングによると、年間需要は100~110万トン近くに達していると推定されます。

メチオニンの市況はその時の需要と供給のバランスで決まります。しかし、おしなべて価格はキログラム当り3~4ドルとみられることから、世界市場は年間5,000億円前後と推定でき、現在も年率+5%の潜在成長力をもって成長中です。

 

世界の製造会社は限られる

メチオニンの原料は、石油製品のナフサ(粗製ガソリン)の熱分解によるプロピレンが出発となります。このプロピレンから複雑な化学合成プロセスを通じて製造されるのがメチオニンなのです。石油から製造されるから危険だ、という発想はナンセンスです。なぜならば、天然と同じ化学構造をもっているからです。

この製造プロセスはとても複雑であり、世界で大量に生産することができる企業は4社程度にすぎません。

ドイツのエボニック(Evonik)、米国のノーバス・インターナショナル、Adisseo(中国の藍星集団が買収)、住友化学の4社です。生産能力は公表されていませんが、エボニックが年産58万トン程度、ノーバス・インターナショナルが同25万トン、藍星集団が同20万トン、住友化学同14万トン程度と推定されます。

日本の関連企業の動向は

米国のノーバス・インターナショナルはかつて三井物産と日本曹達がモンサント社から買収した会社です。出資比率は、三井物産が65%、日本曹達が35%となっており、日本曹達にとって重要な持分法対象の関連会社です。

一方、住友化学(4005)は、2018年まで世界の需給はひっ迫気味で推移すると判断しているようです。現在、住友化学は愛媛県新居浜工場に年産14万トンの設備を有していますが、2017年初めまでに+10%増強の同15~16万トンに引き上げることを決定しました。

さらに2020年までに同15万トンの新設備を日本または海外のどこかに建造する構想を持っています。建設費用は500億円強とも言われ、サウジアラビアでの石油化学プラント建設以来の、大型投資となります。なお、2月3日に発表された2016年3月期Q3累計決算でも、メチオニンが大きな収益貢献を果たしています。

他方、日本曹達(4041)の2016年3月期Q3累計決算(4-12月)の経常利益は大幅な増益となりました。

同社は2015年11月6日に、2016年3月期の経常利益予想をそれまでの127億円から189億円に上方修正しました。これは、営業外収益に計上される持ち分法損益が従前予想60億円から121億円へ上方修正されたことが背景にあります。メチオニンの需要、市況とも理想的な水準を維持しており、中期的にも貢献が期待されます。

食糧関連銘柄に循環がまわってきたら、ぜひ注目していただきたい銘柄を紹介いたしました。

LIMO編集部