冬の足音が遠のき、新年度へのカウントダウンが始まる2月中旬。この時期は、家計の「今」と「これから」を整理する絶好のタイミングです。
老後の資産について、かつては「子に遺す」のが美徳とされましたが、最近では「自分たちのために使い切る」という選択も一般的になりました。しかし、どちらの道を選ぶにせよ、無視できないのが「家計収支のリアル」です。
現在の70歳代世帯では、年金だけでは月々数万円の赤字が出るケースが珍しくありません。理想の暮らしを最後まで維持するには、「今いくらあるか」だけでなく「それをどう切り崩していくか」というシビアな視点が欠かせません。
本記事では、最新データから70代世帯の「遺産への本音」「家計の赤字額」「リアルな貯蓄額」を紐解きます。
1. 70歳代「ふたり以上世帯」《資産を使い切りたい派・子どもに遺したい派》みんなの理由
老後資金を考える上で、避けて通れないことの一つが「遺産」のゆくえかもしれません。
「人生100年時代」、今のシニア世代は自分の築いた財産をどうしたいと考えているのでしょうか。
J-FLEC(金融経済教育推進機構)が公表した最新の「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」から、70歳代・二人以上世帯のリアルな価値観を探ります。
1.1 70歳代・二人以上世帯の遺産に対する意識(単一回答)
子供に財産を残したい:52.6%
- 老後の世話をしてくれるならば、こどもに財産を残してやりたい:16.6%
- 家業を継いでくれるならば、こどもに財産を残してやりたい:1.8%
- 老後の世話をしてくれるか、家業を継ぐか等に関わらずこどもに財産を残してやりたい:34.2%
財産を使い切りたい:33.8%
- 財産を当てにして働かなくなるといけないので、社会・公共の役に立つようにしたい:0.8%
- 財産を残すこどもがいないので、社会・公共の役に立つようにしたい:1.0%
- 財産を残すこどもがいないうえ、自分たちの人生を楽しみたいので、財産を使い切りたい:8.8%
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こどもはいるが、自分たちの人生を楽しみたいので、財産を使い切りたい:23.2%
その他:13.6%
調査結果を見ると、過半数の52.6%が「子供に財産を残したい」と回答しました。その内訳は、無条件で遺したい層(34.2%)だけでなく、「老後の世話」などを条件とする層も含まれており、家族間の支え合いを前提とした考え方が根強く残っていることがわかります。
一方で注目したいのが、子供がいても「自分たちの人生を楽しみたいので使い切りたい」と考える層が23.2%にのぼる点です。「遺産=親の務め」という固定観念にとらわれず、自立した老後を全うし、自分たちのために資産を活用しようとする現代的な価値観の広がりが鮮明になっています。
2. 「年金だけで暮らせる」のは約1割!?シニアを追い詰める「家計への不安」
高齢者世帯にとって、日々の暮らしの柱となるのは「公的年金」です。しかし、その年金に対する満足度や将来への見通しには厳しい現実があります。
J-FLEC(金融経済教育推進機構)の同調査によると、70歳代世帯の年金に対する実感は以下の通りです。
2.1 年金に対する生活実感(70歳代・二人以上世帯)
- 年金でさほど不自由なく暮らせる:12.3%
- ゆとりはないが、日常生活費程度はまかなえる:61.2%
- 日常生活費程度もまかなうのが難しい:26.5%
「不自由なく暮らせる」と回答した人はわずか1割強にとどまります。
約4世帯に1世帯は、日常生活を維持すること自体に困難を感じており、多くのシニアにとって年金だけでは「ゆとりある暮らし」には程遠い実態が浮かび上がります。
2.2 なぜ「ゆとりがない」と感じるのか
「ゆとりがない」と回答した世帯に対し、その具体的な理由を尋ねた調査では、現代の経済状況が色濃く反映された結果となりました。
年金にゆとりがないと感じる理由(70歳代・二人以上世帯/複数回答)
- 物価上昇等により費用が増えていくとみているから:57.7%
- 年金が支給される年齢が引き上げられるとみているから:6.5%
- 年金が支給される金額が切り下げられるとみているから:17.2%
- 高齢者への医療費用の個人負担が増えるとみているから:30.0%
- 高齢者への介護費用の個人負担が増えるとみているから:18.7%
- その他:16.0%
不安の最大の要因は、約6割が挙げた「物価高騰」です。食費や光熱費の際限ない値上がりは、年金生活を送るシニアの家計を「やりくり」の限界まで追い込んでいます。
追い打ちをかけるのが、避けて通れない「医療・介護」の自己負担増への懸念です。
単なる「今、お金が足りない」という目先の苦しさだけでなく、いつか訪れる不測の事態への「将来への防衛本能」が、家計への焦燥感をより一層強くしている様子がうかがえます。
3. 「70歳代の夫婦世帯」ふたり暮らしなら、ひと月の生活費はいくらかかる?
ここからは、総務省統計局が公表した「家計調査報告 家計収支編 2024年(令和6年)平均結果の概要」から、70歳代の生活費の実態を見ていきましょう。
3.1 「70歳代の夫婦世帯」支出・収入・家計収支
「70歳代の夫婦世帯」の支出
- 70〜74歳:消費支出26万9015円・非消費支出3万4824円
- 75歳以上:消費支出24万2840円・非消費支出3万558円
「70歳代の夫婦世帯」の実収入
- 70〜74歳:27万5420円
- 75歳以上:25万2506円
「70歳代の夫婦世帯」の家計収支
- 70〜74歳:▲2万8419円
- 75歳以上:▲2万892円
3.2 家計赤字の正体は「無駄づかい」ではない。根性論ではどうにもならない現実
70歳代世帯の家計収支を見ると、毎月2万円台の赤字が生じていますが、その原因を単純に「無駄づかい」や「家計の緩み」と捉えるのは適切ではないでしょう。
総務省の家計調査が示すのは、高齢期の支出は「削りようのない固定費」の比重が大きいという現実です。実際に、65歳以上の無職夫婦世帯の支出内訳を見ていきましょう。
毎月の実収入:25万2818円
■うち社会保障給付(主に年金)22万5182円
毎月の支出:28万6877円
■うち消費支出:25万6521円
- 食料:7万6352円
- 住居:1万6432円
- 光熱・水道:2万1919円
- 家具・家事用品:1万2265円
- 被服及び履物:5590円
- 保健医療:1万8383円
- 交通・通信:2万7768円
- 教育:0円
- 教養娯楽:2万5377円
- その他の消費支出:5万2433円
- (うち諸雑費:2万2125円)
- (うち交際費:2万3888円)
- (うち仕送り金:1040円)
■うち非消費支出:3万356円
- 直接税:1万1162円
- 社会保険料:1万9171円
食費や光熱費といった「削れない基礎支出」に加え、月2万円弱にのぼる保健医療費が家計を重くしています。これらは現役世代以上に固定費化しやすく、節約の努力が及びにくいのが現実です。
さらに、年金から天引きされる税金や社会保険料などの「非消費支出」も、高齢期ほど重い負担となって家計をじわじわと圧迫します。
昨今の物価高騰は、まさにこうした「生活に直結する項目」を直撃しており、家計の赤字は決して浪費ではなく「避けられない支出の積み重なり」によるものです。
だからこそ、根性論の節約だけでなく、「一定の貯蓄の取り崩し」を織り込んだ冷静な生活設計が不可欠となります。
4. 70歳代の貯蓄「ふたり以上世帯」平均・中央値はそれぞれいくら?
では、J-FLECの「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」から、70歳代・二人以上世帯の貯蓄状況を見てみましょう。
4.1 【貯蓄額】70歳代二人世帯の平均値と実態
【貯蓄額】70歳代二人世帯の平均値と実態

出所:金融経済教育推進機構「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」をもとにLIMO編集部作成
- 金融資産非保有:10.9%
- 100万円未満:4.5%
- 100~200万円未満:5.1%
- 200~300万円未満:3.7%
- 300~400万円未満:3.9%
- 400~500万円未満:2.9%
- 500~700万円未満:6.4%
- 700~1000万円未満:6.7%
- 1000~1500万円未満:11.1%
- 1500~2000万円未満:6.7%
- 2000~3000万円未満:12.3%
- 3000万円以上:25.2%
- 無回答:0.6%
平均と中央値
- 平均:2416万円
- 中央値:1178万円
※上記の貯蓄額には、生活費など普通預金における日常的な出費は含まれていません。
70歳代・二人以上世帯の貯蓄額は、一部の富裕層が平均を押し上げていますが、より実態に近い中央値は1178万円です。
一見まとまった額に思えますが、日々の生活費の補填に加え、将来発生する「介護費用」や「住まいの修繕費」を考えれば、決して手放しで安心できる数字ではないでしょう。
5. まとめにかえて
今回は、70歳代のシニア世帯に焦点を当てて、平均貯蓄額や家計収支など確認していきました。
実際には、年金だけで日々の生活費をすべてまかなうのは難しく、これまでの貯蓄を計画的に取り崩していく場面が多くなることはお分かりいただけたでしょう。
また、資産を家族のために残すのか、自分たちの楽しみのために使い切るのか、意見は分かれました。その選択に正解はなく、人それぞれの価値観が大切にされるべきでしょう。
いずれにせよ、老後を迎える前までに、ある程度の資産を形成しておくことが、何よりの安心につながります。老後資金の準備には時間がかかるため、早めのうちから対策をとっていきましょう。




