もともとウズベキスタン経済は、綿花・石油・金の輸出と海外出稼ぎ労働者からの海外送金に依存しています。

しかし2017年以降は、ミルジヨーエフ大統領が率いる新政権が市場経済化を進めるべく構造改革を行っています。 具体的には、経済システムの自由化や投資環境の改善を重視し、2017年9月に為替レート統一を行うとともに外貨兌換・持出しに対する制限を撤廃しました。

2008年から2016年までの経済データを見ると、実質経済成長率は8%前後でインフレは緩やかに低下しています。ところが、2017年には天然ガスなど輸出品価格の低下で成長率は5.3%に落ち込む一方、19.0%という急激なインフレが発生しました(出所:IMF・2018年)。為替レート統一に際して実施された現地通貨スムの切り下げと、それに伴う輸入インフレが原因です。

その後、中央銀行は政策金利を引き上げてインフレ抑制に努めていますが、しばらくは資本財輸入の増加や、貿易自由化による消費財輸入増が続くとみられますので、当分インフレ傾向は続くでしょう。

なお、外貨準備高は2018年末時点で過去最高の289億ドル(輸入の25.7カ月分)に達しており、とりあえず外貨資金繰りに心配はなさそうです。

金融制度は国家資本による寡占状態

ウズベキスタン銀行セクターは国家が一定割合の株式を保有する銀行13行が独占しており、銀行セクター全体の総資産の85%を占めています。

各銀行の株式名簿を見ると、国営銀行3行以外の株式制商業銀行10行についても国家が主要株主です。株主名簿には国家資産管理庁や復興開発基金(FRD)が登場します。国家資産管理庁は一般に社会主義国の国営企業民営化の流れの中で登場する組織で、またFRDはウズベキスタン国家財政の特別勘定です。

銀行セクターを見る限り、社会主義的システムの遺産が根深く残っていることが理解できます。ちなみに日本でも官僚が管理する財政投融資制度や政策金融機関という社会主義的な巨大システムが機能してきた歴史がありますが、金融セクターにおける政府の役割はウズベキスタンの方が圧倒的に大きいと言えます。

為替の自由化に伴う通貨切り下げで通貨への信認は下降

2017年9月4日、政府・中央銀行が現地通貨スムの為替一本化と外貨売買の自由化についての発表を行いましたが、その際、現地通貨スムの公定レートが市場レートと同水準の8,100スムに切り下げられました。直近の1ドル=4,210.35スムから92.4%も切り下げられたわけです。

「二重為替」が常態化していたので、それは避けられない政策でしたが、国民にとっては通貨への信認が揺らいだに違いありません。

国民が自国通貨を信用しなければ、銀行は預金が集められません。銀行経営者と話したところ、優遇金利の固定性預金をキャンペーンしても、なかなか預金を集められないそうです。いったん国民の通貨への信認を失うと、それを取り戻すには相当な年月を要するのではないかと推察されます。

久しぶりの未知の国で典型的な途上国金融と向き合う

久しぶりに未知の国ウズベキスタンに出張しましたが、海外業務経験約20年超の中で体感した中国・ベトナム(社会主義システム)とマレーシア・インドネシア(イスラム圏)を感じ、あらためて発展途上の金融に対する好奇心が呼び起こされました。

ウズベキスタン経済はまだ夜明け前です。私の領域である銀行を概観すると、世銀・ADBによる援助案件や周辺国からの支援などを通じてかなり近代化しているようには見えますが、データ※からは国内の資金需要に全く追いついていないという実態がうかがえます。

私にとっては、今後、この国との付き合いは長くなりそうな予感がしています。

※マイクロ・中小企業の資金不足は118億ドルでGDP比18%(出所:IFC・2018年、MSME Finance Gap・2017年)

大場 由幸