保育園では慣らし保育がいよいよ終わり、フルタイムでの職場復帰を果たすお母さんが増えてきました。しかし無事に復職できたは良いものの、家庭と仕事の両立はできるのか、出産前のようなパフォーマンスを発揮できるのか、といったさまざまな不安はつきまとうもの。
そんな中、復職する社員に対する手厚いサポートを行っている企業があります。それが農産品や加工食品、ミールキットなどの食品宅配を展開するオイシックス・ラ・大地株式会社(以下、同社)。同社が4月18日に行った「復職式」を取材しました。
社長の“期待しない”という言葉が持つ効果
同社が毎年4月に行っている復職式は、その年の春に復職する社員に向けたもの。この日の復職式には9人の女性社員が参加し、復職者代表の挨拶や、各部署の上司からそれぞれの復職者へ復職証書の授与が行われました。復職証書には復帰部署のメンバーからのメッセージが書き込まれています。
式の最後には、代表取締役社長の高島宏平さんが復職者に向けた期待の言葉を述べました。高島さんは、「育休中に向き合ってきた家族の在り方や経験は、仕事に大いに役立つ」と前置きした上で、「しかし復職後の最初2、3カ月は、そんなに期待していない」と明言。
復職後、すぐに仕事が上手くいく人もいれば苦労する人もいるのは当然のことです。まずは仕事のペースをつかみ、毎日自分自身に100点を求めてモヤモヤするのではなく、トータルで及第点を取りに行く意識を持つことを呼びかけました。そして「上手くいく人は諦め上手。家庭との両立も仕事も楽しんでください」と締めくくりました。
代表からかけられた「上手に諦めて」「100点ではなく及第点を」といった言葉。家庭も仕事も全力でやらなければいけない、と不安を抱きがちな復職者には、非常に心強く響いたはずです。育児モードから仕事モードへと切り替えること、「おかえりなさい」と迎えてくれる同僚や上司に感謝すること、力を入れることではなく上手に抜くこと。復職における不安を取り除き、新たな気持ちで仕事に向き合うことのできる復職式は、大きな意味があると感じました。
復職の壁に直面した女性社員が企画
復職式の後、HR本部 人材企画室の柴本沙恵さんにお話を伺いました。2児の母である柴本さんは、自身が出産後に復職した7年前に経験した苦労や失敗から、復職式をはじめとするさまざまなプログラムを企画。プログラムの一つである復職前研修では、復職前に復職者を集め、育休中の会社の状況を共有し、復職後に陥りやすい問題や状況を確認。そしてそれらの解決策を話し合い、事前に対策を立てておくのだとか。
「わからないでぶつかる壁とわかってぶつかる壁は全然違う」と柴本さん。復職後は多くの人が精神的にいっぱいいっぱいになってしまいますが、研修を経たことで復職者同士の共通認識が生まれ、「あなた今、研修でやったような状態になってるよ」「これがあの研修で言っていたことか」と、お互いに指摘し合えたり自分自身を客観的に捉えられたりするそうです。
また、育休によって人が抜けた後の組織改編も企業の課題の一つです。特に、残る社員に業務のしわ寄せがくる事態は最も避けたいこと。しかし同社では、「人が変わればその人に適した仕事もチームの在り方も変えるべき」というモットーのもと、産休や育休に限らず、人の入れ替わりの中でチームの全体最適は常に考えていると言います。
特に産休や育休は期間があらかじめ把握できる分、業務分散や異動、アルバイトの補充などによって対策は打ちやすいのだとか。また、会社全体で育休取得率が非常に高いこと、サービスを提供する相手が主婦や働くお母さんであることなどから、独身や子どもがいない社員も育休取得者や復職者に対する理解が深い点も挙げていました。
復職者が「復職してずっと働き続けたい」と思う企業とは
主婦や働くお母さんがメインターゲットである食品宅配事業を行っているだけあって、同社における社員(正社員、パート社員)の女性比率は65%。育休取得は100%、復帰率もほぼ100%を実現しています。
サービスのターゲット層が女性であり、女性社員も多い同社が、育休や復職に対して手厚くサポートしているのは必然のことかもしれません。しかし、同社が率先してこうした働き方改革に取り組みロールモデルになることで、ほかの男性社員が多い企業や中小企業などへの波及効果は望めるはず。
今回、復職式に参加した復職者たちの「復職できてうれしい」といった表情がなによりも印象的でした。出産後、家庭とキャリアの両立を考えた時に退職や転職という選択肢を取る女性も珍しくありません。同社が行っている取り組みは復職者にとって、復職の不安をなくすこと以上に「ずっとここで働き続けたい」と思わせることの方が大きいのでしょう。同社の復職式からは、働き方改革における一つの目指すべき形を見た気がしました。
秋山 悠紀