そして、日本銀行が4月17日に発表した「金融システムリポート(2019年4月号)」では、金融機関による不動産業向け貸し出しが1980年代後半のバブル経済期並みに「過熱」していると指摘しています。
このレポートでは明確に指摘こそしていませんが、一連のスルガ銀行過剰融資問題の発覚以降も、地方金融機関を中心に、不動産向け融資の拡大が収束していないことを示唆するに十分な内容です。これは明らかに、過剰な不動産融資に対する“イエローカード”です。
悪化の一途を辿る地方銀行の収益環境
ところで、地方銀行の厳しい収益環境とはどういうことでしょうか? 銀行の業務は多様化していますが、それでも、収益の柱は貸出業務(利鞘ビジネス)であるべきです。ところが、人口減少が顕著な地方では過疎化が進み、地方銀行にとって最大の貸出先である中小企業や個人事業主がどんどん減っています。
また、既存の企業が新規の大型投資に踏み切るケースは少なく、現有設備の更新投資くらいでしょう。仮に、相応の投資案件があったとしても、手許現預金や営業キャッシュ・フローで賄うことが多くなりました。こうした状況に、長引く低金利が追い打ちを掛けたということです。特に、2016年から日銀が導入したマイナス金利が決定打となったと見ていいでしょう。
また、地方銀行はメガバンクのような海外事業がほとんどなく、なおかつ、メガバンクが注力している資産運用ビジネスのノウハウに乏しいのが実情です。これでは、地方銀行の収益力が高まるはずがありません。しかし、そんな時に、低金利のメリットを活かした不動産融資事業が絶好の好機となったとしても、ある意味では不思議ではないのです。
抜本的な地方銀行のリストラなしでは、第2のシェアハウス問題も?
ただ、スルガ銀行の問題に加え、今回の日銀による“イエローカード”提示により、今後は、この不動産融資事業が大幅に縮小する可能性は高いと考えるのが普通です。しかしながら、収益環境が好転しないとなれば、あの手この手を使って、無理な不動産融資事業が継続されるかもしれません。
こうした負のスパイラルから抜け出すためにも、地方銀行の統廃合(合併や経営統合など)を金融庁や日銀が率先して実施する時期がもう来ていると言えましょう。
スルガ銀行の過剰融資問題は例外のケースではなく、“氷山の一角”かもしれないということを、今一度肝に銘じるべきでしょう。最後に大きな負債を抱えてしまうのは、結局は一般個人になるのですから。
葛西 裕一