半導体受託製造(ファンドリー)大手の台湾TSMCが、2018年末から製造装置の発注を加速させている。最先端プロセスの7nm世代において、顧客数が拡大しており、ピークを迎える19年7~9月期に向けて生産能力の増強を図っている。
16年以来の高水準発注
TSMCをはじめとする台湾の大手企業は、台湾証券取引所に装置メーカー、関連設備メーカーに対する発注額を提出しており、これらを「MOPS(Market Observation Post System)」で閲覧することができる。
MOPSに提出されたデータによれば、18年10~12月期の発注金額は約35億ドル。16年以来の高水準となっており、製造装置メーカーへの発注を加速させている。過去を振り返ると、TSMCは16年中ごろに10/7nm世代の量産ライン構築のため、大規模な装置発注を行っており、その反動減もあって、17年以降そのペースは低調に推移していた。
足元で装置発注を加速させているのは、現行の7nmと20年から量産予定の5nmに対応したもの。現行の7nm世代では顧客数の拡大が需要増につながっている。最大顧客のアップルやファーウェイ傘下のハイシリコンに加え、新たにAMD、クアルコムが顧客企業として加わっている。
AMDはもともと、グローバルファウンドリーズ(GF)と供給契約を結んでいたが、GFとの関係見直しに伴い、7nm以降はTSMCをメーンファンドリーとして選択。クアルコムは14nm、10nmと2世代連続でサムスン電子を委託先としていたが、7nm世代を用いた「Snapdragon 855」から再びTSMCを生産パートナーとして選んでいる。
ハイシリコンの場合は、もともとTSMCの大口顧客であったが、足元では米中貿易摩擦に伴う調達リスクを考慮して、在庫を積み増す動きが顕著になってきている。TSMCへのウエハー発注も実需以上の動きを見せている。
7月からアップルの新機種向けの生産が立ち上がることから、7nmの生産ボリュームのピークは、19年7~9月期となる見通し。現状保有する7nm世代の生産キャパシティーでは一部不足感があり、足元ではこの追加投資が行われている。
アップル新機種向け需要は前年下回る水準
ただ、製造装置メーカー各社への発注額を見ていくと、ASMLなどリソグラフィー関連企業に対するものが多いのも事実。TSMCは今年量産を開始する「7nm+」からEUVリソグラフィーを導入する計画で、次世代の5nmでは適用レイヤーが大幅に増える。このため、装置投資におけるリソグラフィー工程への比率が従来に比べて増しており、エッチングや成膜などのその他のプロセス装置への発注額は、小幅な上昇にとどまる可能性もある。
TSMCにとっても、最大セグメントのスマートフォン市場がこれまでのような伸びを期待できず、良好な市場環境と言い難い。クアルコムやAMDなどの新規顧客、ハイシリコンからの発注拡大など好材料はあるものの、最大顧客であるアップルの新機種向け需要は前年を下回る水準だ。
上向きになってきたTSMCの設備投資だが、製造装置メーカーにとっては、停滞するメモリー投資をカバーしてくれるほどの存在になっていないのが実情だ。
電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳