2. 政府が「給付付き税額控除」を推進する3つの背景
物価高への対応として、手続きが簡単な一律の現金給付ではなくこの制度が検討される背景には、「国民生活を根本から支える仕組みを構築したい」という政府の考えがあります。
2.1 背景1:一過性ではない持続可能な家計支援
現金給付は迅速に実行でき、支援を実感しやすいというメリットがあります。
しかし、その多くは一度限りの一時的な対策で終わってしまうのが実情です。
また、所得が高く必ずしも支援を必要としない層へも一律に支給されるため、財源の効率的な活用や制度の持続性という点で課題が残ります。
2.2 背景2:従来の減税策では届かなかった低所得層への支援
従来の所得税減税策には、所得税を納めている人でなければ恩恵を受けられないという構造的な課題がありました。
減税はあくまで「納める税金を減らす」仕組みのため、所得が低く非課税の世帯はそのメリットを享受できませんでした。その結果、最も支援を必要とする層が対象から漏れてしまうという問題点があったのです。
前述の通り、「給付付き税額控除」は、税額控除で差し引けない分を現金で補う仕組みです。
この仕組みによって、所得税の納税額が0円の非課税世帯にも、設定された支援額が全額自動的に支給されるようになります。
これまでの減税策では困難だった低所得世帯への支援を可能にすると同時に、所得がある層にも減税のメリットをもたらす、より幅広い層を対象とした制度といえます。
2.3 背景3:消費税がもたらす「逆進性」の緩和効果
一律の現金給付は家計の一時的な助けにはなりますが、消費税が持つ「逆進性」という構造的な課題の解決にはつながりません。
「逆進性」とは、所得に関わらず一律の税率が課される消費税の特性により、所得が低い人ほど収入に対する税負担の割合が大きくなる現象を指します。
具体的な例で考えてみましょう。
- 年収1000万円の人が生活必需品に100万円を支出し、10万円の消費税を納めた場合、税負担は年収の1%になります。
- 一方で、年収300万円の人が同様に100万円を支出し10万円の消費税を納めると、税負担は年収の約3.3%となり、負担割合がより重くなります。
このように、同じ金額を支出しても、所得水準によって税負担の重さが異なってくるのです。
この「逆進性」の問題を緩和する手段として考えられているのが、給付付き税額控除です。
この制度で低所得者層に現金を支給することは、実質的に消費税として支払った金額の一部を国が返すことと同じ効果があります。これにより手取り収入(可処分所得)が増加し、生活の安定化が期待できるのです。
つまり、給付付き税額控除は税の再分配機能を高めるもので、特に所得税が非課税の世帯へ手厚い支援を届けるための仕組みといえます。
