久留米大学商学部の塚崎公義教授が卒業生に贈った「べからず集」のメッセージをご紹介します。若手サラリーマンにも読んでいただければ幸いです。

ヒナが飛び立てば辛いことも多い

卒業おめでとう。君たちは、今までは巣の中でエサをもらっていたヒナだったわけだが、これからは自分でエサを獲りに行くわけだから、これでようやく名実ともに一人前の大人になったと言えるわけだ。

自分でエサを獲るのは大変だ。危険な目にも遭うかもしれない。しかしそれが大人というものだ。頑張ってくれたまえ。

入学式の時には、「これから楽しい4年間だが、注意すべきこともあるので、べからず集を贈ろう」という明るいトーンで話ができたのだが、そうも行かないので、私もチョッと辛いが(笑)、物は考えようだと自分に言い聞かせながら聞いてほしい。

辞表を出す前に次の仕事を見つけること

仕事は辛い。職場が遊園地のように楽しかったら、給料を受け取る代わりに入場料が必要となるだろうから(笑)。

学生時代は、好きな相手とだけ付き合えば良かっただろうが、社会人は付き合う相手を選べない。アルバイト先に嫌いな人がいたら、アルバイトを変われば良いだけだったが、社会人になると簡単に仕事を変えるわけにはいかないのだ。

苦労して就職活動したことが無駄になってしまうのはもったいないから、嫌な上司や顧客がいても、できるだけ我慢しよう。しかし、物には限度がある。我慢できない時には辞めるのも選択肢の一つだ。

しかし、もしも仕事を辞めるのであれば、その前に必ず次の仕事を見つけよう。そこも、アルバイトとの大きな違いだ。アルバイトは、嫌だったら辞めて、それから次のアルバイトを探せば良いのだが、正社員はそうではないのだ。

日本企業は、他社の正社員が転職して来る場合には受け入れる場合があるが、正社員でない人(無職、アルバイト、パート等)を正社員として採用することは稀なのだ。そこで、一度仕事をやめてしまってから次の仕事を探すのは、非常に難しいのだ。

上司と大喧嘩して、辞表を叩きつけたくなることもあるかもしれないが、絶対にやめておくこと。そして、直ちに転職活動を始めよう。「転職先さえ見つかれば、上司に辞表を叩きつけることができる」と考えれば、転職活動にも熱が入るはずだ(笑)。

詐欺には、くれぐれも注意

詐欺師の最大のターゲットが高齢者であることは疑いないが、若者も重要なターゲットであるようだ。大した金額は稼げないだろうが、警戒心が薄いので簡単に騙せるからだろう。

ある程度の年齢になると、自分が騙された経験があったり、騙された知人の話を聞かされたりした経験があるので、若者と比べて警戒心が強く、騙しにくいようだ。もっとも、私もそう思って安心していると詐欺にひっかかるかもしれないので、安心しないようにするが(笑)。

詐欺の被害に遭わないための心得で重要なのは、当然であるが常に警戒心を持つことである。今ひとつ、「相手の立場に立って考える」ということも役に立つはずだ。誰かが「絶対儲かる投資話」を持ち込んで来た時には、自問自答してみよう。

「もしも自分が絶対に儲かる投資話を知っていたら、見知らぬ若者に教えてあげるだろうか」と。そうすれば、その人が世にも珍しいお人好しか、そうでなければ詐欺師である、ということに気づくであろう。

友人や知人からの紹介であっても、その友人や知人が騙されているかもしれない。誰からの紹介で友人や知人がその投資話を知っているのか、確認してみよう。

余談だが、社会人になったら「相手の立場で考える」ことが重要だ。「相手が喜ぶように」ということも重要だが、「ライバルが一番嫌がることをする」「客が衝動買いをしたくなるような店づくりをする」といったことも重要なのだ。

高金利の借金は怖い

借金は怖い。奨学金と住宅ローンは別として、それ以外の借金は極力避けることだ。特に避けるべきなのは、友人からの借金だ。友人からの借金が原因で壊れてしまった友情は非常に多いようだ。

ということは、友人に金を貸してもいけない、ということだ。心を鬼にして断るか、そうでなければ貸すのではなく、困っている友人にカンパをすることだ。「カンパした相手が将来裕福になって返してくれればラッキーだ」という程度の気持ちであれば、返ってこなくても失うものは金だけで、友情までは失わずに済むからだ。

友人以外の借金で怖いのは、金利だ。消費者金融については高金利で怖いというイメージを持っている人も多いだろうが、カードローンやクレジットカードのリボ払いも同様に金利が高いので要注意だ。

「1万円借りても、金利はたったの1日5円です」と言われると大した負担ではないように感じるかも知れないが、1年で1825円、10年で1万8250円プラス閏年分の利払いが発生する計算になるのだ。

どうしても借金をしなければならないこともあるだろうが、そうでない限り、高金利の借金は極力避けよう。「来月から倹約して、短期間で返済しよう」などと考えるのは危険である。もし仮に、君が自分自身を我慢させることが人並み外れて得意で、夏休みの宿題を毎年必ず遅れずに提出していたのであれば別だが。

保険は本当に必要なものだけ

保険は、心強い味方であるから、必要なものにはぜひとも加入すべきである。たとえば若い男性が専業主婦と幼子を養っている場合の生命保険は、絶対に必要である。加入しておかないと、万が一の時に妻子が路頭に迷いかねないからである。自動車を運転する場合の自動車保険も必ず加入しよう。

しかし、独身の新入社員にとって、生命保険は不要だろう。君に万が一のことがあっても、悲しむ人はいるだろうが、路頭に迷う人はいないからである。「一人前の社会人として、生命保険くらい加入しないと」などと言われて深く考えずに加入するとしたら、それはもったいないことだ。

なぜなら、保険は「損な取引」だからだ。客が払った保険料と客が受け取る保険金を比べれば、当然に払った金額の方が多い。その差額は保険会社のコストと利益になっているわけだ。したがって、「損得を考えれば損だが、それでも非常に困った事態に陥らないように保険に加入する」という場合にのみ保険に加入する、というのが正しいのだ。

困った時は188番に電話しよう

警察は110番、消防署は119番だが、今ひとつ覚えておくべき番号がある。188番だ。「イヤや」と覚えておこう。

これは、消費者ホットラインと呼ばれるもので、金に関するトラブルなどの際に電話をすると、身近な消費生活センターや消費生活相談窓口を紹介してくれる、頼もしい存在だ。

以上、卒業を祝うべき時にふさわしくない話をしたが、最後に今一度「卒業おめでとう」と言っておこう。名実ともに大人として独り立ちした君たちの頑張りに期待するとともに、君たちの人生が素晴らしいものであることを祈っている。乾杯!

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塚崎 公義