3つのカゴに盛り分けても落としてしまえば損は損!?

「卵はひとつのカゴに盛るな」という投資の格言を聞いたことがあるはずです。これは、『すべての卵(大切な投資資金という意味で使われます)を1つのカゴ(資産クラスという意味で使われます)に盛って万一落としてしまったらすべて割れてしまいます。それを避けるために3つのカゴに盛り分けておくと全部が壊れることがありません』という説明とともに、投資のリスク軽減措置のひとつとして挙げられる「分散投資」の必要性を訴求しています。

これを少し吟味してみましょう。9個の卵を1つのカゴに盛ってすべて落としてしまったときの損失はもちろん9個です。3つに分けて1つのカゴを落としてしまったら損失は3個になります。確かに損失の規模は違いますが、9個であろうと3個であろうと損失は損失ですから、「分散投資が投資のリスク軽減措置」といわれてもすぐにはなかなか納得いかないものです。

実際、リーマン・ショックのときは世界中で株価が急落し、為替も円高に触れたことから日本の投資家にとってはほとんどの資産クラスで損失が生まれていました。そのときよく聞かれたのが、「分散投資をしても結局、損したじゃないか」という批判でした。

分散投資は長期投資とあわせて意味を持つ

ところが、その後、分散投資をしていた人の方が早く回復したことはよく知られています。卵とカゴの例で考えてみましょう。3つのカゴに盛り分けた場合、残った2つのカゴの6個の卵はその後に雛にかえり、親鳥になって卵を産むことになります。

その卵が収益だと考えれば、新しく生まれた卵の数が当初の卵の数9個を上回っていれば、このプロセスの時間を経た結果、利益が出たということがわかります。すなわち分散投資は長期投資(この例で言えば卵が雛にかえって親鳥になり再び卵を産むという時間)を暗黙の前提として、その意味を持つことがわかります。分散投資は長期投資とあわせてその力を発揮するのです。

ここで注意しておきたいのが、この格言で使われている「卵」の意味です。卵は“孵化して将来、卵を産む”という、投資で言えば「収益を生む」という含意がなければ意味がありません。卵製品のカステラでは、3つのカゴに分散しても、時間をかけても収益はもたらしません。われわれは投資を考える際には「収益を生む」という想定ができるものを対象として選ぶ必要があるのです。

ここ数年のNISA(少額投資非課税制度)やつみたてNISA、iDeCo(個人型確定拠出年金)といった新しい制度の下で、投資を始めたばかりという人も多いと思います。そうした人にとっては、昨年末からの株式市場や為替相場の波乱は初めての経験だと思いますが、分散投資を長期投資とあわせて行うことの重要性を改めて考えてほしいところです。

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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史