「女性には子どもを産み育てる資質が備わっている」「やっぱり子どもはお母さんが好き」「父親よりも母親の方が育児に向いている」。出産を経て子育てをしていると、こうした“母親礼賛”な言葉にたびたび遭遇します。そして筆者は、こうした言葉に大きな疑問を持っています。

その理由をお話します。

母親は母性があるから努力せずに子育てできる?

「赤ちゃんは母親のことが好きだから、母親に抱っこされれば自動的に泣き止む」と思っている人、特に男性は多いでしょう。そして上記で想像されるのはおそらく、無償の愛を注ぎながら穏やかな表情を浮かべる母親に抱っこされ、スヤスヤと眠る赤ちゃんのイメージ画像のような状態。

果たしてなぜ、赤ちゃんは母親に抱っこされれば泣き止むのでしょうか。筆者の子どももそうでしたが、まだ人見知りも始まっていない時期の赤ちゃんは、自分の心地の良い抱かれ方をされれば誰が抱っこしても泣き止むことが多いもの。そしてその抱き方を、多くの母親は毎日寝不足になりながら調べたりあれこれ試したりして習得しています。

抱っこだけではありません。おっぱいの飲ませ方、げっぷの出させ方、首が座らない中での沐浴、肌の保湿、とても小さな爪の切り方…。とにかく毎日毎日必死で乗り越え、少しずつ慣れていきながら育児スキルをアップさせているのです。

母親が死に物狂いの努力によって得たこうしたスキルを、赤ちゃんの好き嫌いや“女性がもともと持っている”と決めつけるられる「母性」という便利な理由で片付けないでほしい。なぜならそれは「何もしなくても育児に必要なことは自然にこなせる」と思われていることと同義のように感じるからです。

「母性神話」が加速させるのは男性の育児離れだけじゃない

「女性は子どもを産めば自動的に母性が出る」と言うような“母性神話”は、非常に便利な考え方です。「母性が出るから、女性は育児をするべき」と性別による役割分担が簡単にできるからです。

しかし、出産できることや母乳が出ることは、女性が持つ体の単なる機能。その機能だけで育児の向き不向きや育児分担を決めるのは、あまりに女性に多くを押し付けすぎでいる感が否めません。