「中国製造2025」の大きな柱として、半導体産業の急速立ち上げがある。中国政府は半導体の自給自足体制を促進すべく、とりわけ国内ファブレス半導体企業(設計や開発を行って製造を委託する企業)の育成強化を進めてきたのだ。2018年はかなりの成果を出し始め、ファブレス企業の成長率は前年比23%増となり4兆円の大台に押し上げてきた。しかし、「設計はできても作れない」というのが本当のところだ。
半導体の自給自足を目指した中国だが
今や、中国ファブレス半導体は最先端ナノレベルに近い高度な回路設計を楽々とこなすようになってきた。しかしながら、国産の半導体製造企業の実力は28nmプロセスが精一杯というところであり、中国のファブレス企業は結局のところTSMCなど台湾ファンドリーに多くを頼むことになる。もちろん韓国サムスンへのファンドリー依頼も増えている。
そこで「中国製造2025」は、中国における300mmウエハーの先端プロセス工場建設ラッシュを打ち出したが、何せ米中貿易戦争の煽りを受け、中国向けの装置輸出はあまり進まないのが現状だ。そしてトランプ米大統領は、アプライドマテリアルズ、ラムリサーチなど米国の大手半導体製造装置メーカーに対して最先端装置の輸出を禁ずるということを言い始めている。
50ヶ所以上で最先端300mm工場の建設を打ち出し、今後の世界の半導体設備投資の50%は中国に集中すると中国政府は高らかに謳い上げたが、肝心かなめの装置が手に入らない。日本においても韓国に対しフッ化水素、過酸化水素、はてはシリコンウエハーなどの輸出差し止めを自民党の外交部会が討議しているが、そうなればサムスンもSKハイニックスも半導体を作ることができない。この措置を中国に対してもやるべし、との強硬論もあり、情勢はおだやかではない。
暗礁に乗り上げた「中国製造2025」
そしてまたトランプ氏は「中国製造2025」は全く認めないと言い出し、これを引っ込めない限り、関税制裁を含めての対中囲い込みを続行すると言い出している。太陽電池にせよ、液晶にせよ、はたまた半導体にせよ、総投資額の90%を地方政府および中国政府が負担するといういわばインチキの補助金バラまきによる工場立ち上げには大きな壁が立ちふさがってきた。あろうことか、かなり弱腰の中国政府は「中国製造2025」の後退した修正案を準備中との情報も聞こえてきた。これを反映し、各企業は工場着工を一斉に見合わせている。
こうなったら、中国全土での大型半導体工場の一気立ち上げなど絵に描いた餅になってしまう。さらに台湾UMCが、中国に対する最先端メモリーの立ち上げには協力しないと言い出した。中国半導体は期待の成長エンジンであったが、まさに四面楚歌の様相を呈し始めている。
米国から輸入拡大すればさらに夢は遠ざかる
中国ファブレス半導体企業のトップであるハイシリコンは、かのファーウェイの子会社であるが、世界的なファーウェイ締め出しの影響を受け、今年は業績が大きく減速するといわれている。2番手のユニソック(清華紫光集団グループ)、3番手のオムニビジョンもかなり低めの売り上げ予想に変更せざるを得ない。2019年の中国ファブレス半導体企業の成長率は10%台に落ちることは間違いない。
一方、トランプ大統領の脅しに屈するかたちで、中国政府は米国からの半導体輸入を6年間で22兆円に拡大することを水面下で提案しているという。こうなれば、中国の半導体自給自足など加速するわけもない。世界の成長エンジン「中国」は、今や半導体で大きくつまずいているのだ。
産業タイムズ社 社長 泉谷 渉