- 「ワンオペ育児」で自分が体調を崩しても頼る人がいない
- 育児の責任が母親にのしかかっている
- 進学や園選びの選択肢が増える一方で、情報収集や書類準備などの仕事が増加
- 育児の悩みを共有する相手がいない孤独
- 仕事と育児の両立で燃え尽きそう。夫は長時間勤務
一昔前と比較して家庭内の男女のパワーバランスがややフラットになり、家電や便利グッズが家事の負担を軽減した一方、「子育てが失敗できない」というプレッシャーを孤独に抱えながら、他人に迷惑をかけまい、自分が全部やらねばという心理的な重圧が高まっているように思います。
外から見えない苦労が増える一方で、同じ子育て世代であっても、自分は苦労しているという自負がある人が、自分よりラクをしているように見える人をやっかむ風潮も見られます。
冒頭に取り上げた『82年生まれ、キム・ジヨン』では、手首の痛みを訴える主人公に対して、医師は「昔は砧(きぬた)で洗濯物をたたいて白くしたり、火を焚いて煮洗いしたり、はいつくばって掃いたり拭いたりしたもんだ」と鼻で笑います。
<以前はいちいち患者のカルテを探して手で記録し、処方箋も手書きしていたのに、最近の医者は何が大変なのかとか、以前は紙の書類を持って上司を追っかけて決済印をもらっていたのに、最近の会社員は何が大変なのかとか、以前は手で田植えをし、稲刈りもしていたのに、最近の農家は何が大変なのかとか、そんな乱暴なことは誰も言わない。どんな分野でも技術が発展すれば物理的な労力は減るのが普通なのに、家事労働に関してだけはそれが認められない>(『82年生まれ、キム・ジヨン』より抜粋)
育児の記事や芸能人の育児ブログは、他の記事と比較して高い割合で炎上します。それは、多くの人が「自分の体験したことがスタンダード」と感じてしまうからではないでしょうか。
時代とともに、育児や家事の方法は変わっていきます。今も昔もそれぞれに大変で、それぞれの幸せがある。そんな風にあと一歩ずつ寄り添え合えたら、世代が違うゆえに生じる人間関係の不和を減らすことができるのかもしれません。
【参考】チョ・ナムジュ著・斉藤真理子訳『82年生まれ、キム・ジヨン』2018年(筑摩書房)
北川 和子