本記事の3つのポイント

  • iPhoneの不振により、プリント配線板メーカーも厳しい状況に立たされている。日系ではFPCメーカーを中心に業績予想の引き下げが相次いでいる
  • 台湾勢も年間通じて最も繁忙期であるはずの12月に2割近いマイナスを記録、「XR」を中心とするiPhoneの最新モデルの減産が大きく影響
  • 特定分野・特定顧客に依存するかたちが限界を迎えている。リスク分散に向け顧客の多様化に真剣に着手する時を迎えている

 

 2019年の年明け、アップル・ショックが再発した。16年早々に起こったアップル・ショックでは、15年のスマートフォン旗艦モデルであったiPhone 6Sの販売不振から、国内外の部品メーカーに当初より3割前後の部品調達削減を打ち出したことで、プリント配線板などの電子部品業界が大混乱に陥った。それが再び起ころうとしている。アップルは最新液晶モデルiPhone XRの生産台数の大幅削減を大手EMS企業に通達しているのだ。

 主力の有機ELモデルも端末価格が10万円を超えるため、先進諸国でも販売台数が伸び悩んでいる。ここに米中貿易戦争の煽りで、主力市場である中国でアップル製品の不買運動が起きた。もともと中国の景気が停滞していたこともあって、同社の19年1~3月期の業績見通しに暗い影を落としつつある。

 実際にアップルが発表した18年10~12月期の四半期業績は、売上高が前年同期比5%減の843億ドル、営業利益も同11%減の233億ドルと大幅減益となった。この最大の理由は、売上高の6割強を占める主力のiPhoneの販売不振だ。iPhoneの売り上げだけで見ると、1年前に比較して15%も落ちている。端末の単価を引き上げているにも関わらず、ここまでの業績悪化に陥ったのは、いかに販売台数が低迷しているかという証左でもある。そして、この最大の理由は先述の中国での販売不振だ。

 アップルは、少しでもダメージを抑制しようと端末の値下げを実施するが、即効性は期待できそうもない。おかげで在庫がたまる一方の最新型iPhoneの減産により、国内外の電子部品などの主要サプライヤーは戦々恐々となっている。ある部品メーカーの担当者によれば、19年1~3月の受注量は前四半期(18年10~12月)の6割減というショッキングな数値が上っているという。いくらスマホの不需要期といえども、関係者にとっては背筋の凍る数値だ。

日系FPC勢が苦境に

 アップルと取引する電子部品メーカーのなかには、日系プリント配線板メーカーも数多い。18年度通期の業績見通しにも大きく影響が出てこよう。

 日系FPC最大手であるNOKの18年度通期業績のうち、FPCで構成される電子部品事業は営業赤字に転落する見通しだ。主要顧客のスマホ向けの販売数量減少や、新製品立ち上げ時の歩留まり悪化などが影響する。車載用途を積極的に開拓中だが、スマホ向けのダメージをカバーできる規模にまでは育っていない。18年4~9月決算発表にあわせて、電子部品事業の通期予想を売上高3183億円(従来予想3750億円)、営業損失31億円(同70億円の黒字予想)に下方修正したが、足元の状況を見る限りはFPCの通期業績はさらに下ぶれする可能性が高い。

 住友電工もFPC製品を含むエレクトロニクス事業の18年4~9月の営業利益が18億円にとどまっており、年間予想の80億円を達成するのは厳しいとみられる。スマホ向けが不振で、売上減少に歯止めがかからない。国内では高付加価値の高精細品にシフトするなど、収益力向上に躍起となっている。

 フジクラも上期にFPCの売上高が7%増となったが、通期ではスマホの減産を織り込み、当初よりも216億円引き下げて1255億円にとどまる見込みだ。しかし同社のFPC事業も事実上、アップル向けが中心とみられるため、通期業績予想はさらに下降トレンドに向かうと予想される。

台湾勢も“異常事態”に

 台湾の配線板業界も混乱に陥っている。台湾にはいわゆるアップル銘柄と言われる基板メーカーが日本以上に多数おり、これまではアップルの事業拡大にあわせて自分たちの社業を大きく発展させてきた。

 しかし、台湾プリント回路工業界(TPCA)が発表した18年12月単月の基板出荷額は、前年同月比2割近いマイナスの491億台湾ドルとなり、前月比でも2割強の落ち込みを記録した。例年だと台湾基板業界の10~12月期は1年の最盛期に当たり、出荷額もピークを迎えるのだが、今年は明らかに大きな異変が起きている。iPhoneの販売不振の影響を如実に物語っているといえる。

 特に最新の端末には数多くのFPCが採用されるようになり、最新モデルでは30点前後にも上るようだ。このため、端末台数の伸び悩みはFPC業界を直撃する。とりわけ台湾勢最大で、世界でもトップの基板メーカーとなったZDテックの不振ぶりには驚かせられる。12月の出荷額は前年同月比で4割強の落ち込みとなり、前月比では4割弱と深刻さの度合いが増している。ほかにもフレクシウムやコンペックなどのアップル銘柄企業の落ち込みが突出しているのだ。

 台湾のFPCマーケットは、全体では12月だけ見れば前年同月比4割弱のマイナスとなり、市場は急降下している。もちろんすべてがスマートフォン向けではないので、断定するわけではないが、アップルの業績低迷に振り回されていることに違いはない。

アプリケーションの多様化を

 FPCではないが、アップル向けのメーン基板でMSAPの高精細基板のトップサプライヤーであるオーストリアのAT&Sも、足元の業績を突如下方修正している。当初は年間売上高を前年度比6~8%増としていたものを、年明け早々に3%成長へと引き下げた。すべてがアップルのスマホのせいというわけではないが、MSAP基板の生産調整に追い込まれている可能性が高い。また、同様に米国の大手基板メーカーのTTMテクノロジーズもアップル向けにMSAP基板を提供しているもようだが、アップルの最新機種の減産報道に見るとおり、スマホの減速に18年秋口から言及していた。

 ただし、最新iPhone向けMSAP基板のメーンサプライヤーとみられる、これら欧米系大手基板メーカーは、業績の赤字転落は免れそうだ。業績悪化に苦しむ日系や台湾などのFPCメーカーとの決定的な違いは、アップルへの依存度である。NOKにしろ、フジクラにしろ、アップルとの取引が多い企業が業績の足を引っ張られている。台湾もアップルと心中する傾向が強い。アップルという特定顧客への依存度が高すぎるのである。やはり、特定業種やメーカーへの依存度をいかに減らすかが、こうした企業の中長期的な経営課題として突き付けられている。

 AT&Sは、スマホのハイエンド基板の量産に特化するだけではなく、PC向けなどのハイエンドパッケージ基板などの先端製品に数年前から投資を行い、実績を積み上げている。車載用途でも欧州車向けなどに安定して納入している。医療機器や産業機器向けの高多層基板も得意としており、スマホ向けへの過度な依存をうまく排除している。

 TTMもスマホ向けの売上規模は平均して全社の2割前後で推移している。しかし、TTMは車や医療、産業機器、宇宙・防衛と実に幅広い領域・業種に有力顧客を抱えているため、今回のアップル・ショックでも大きな痛手を被るまでには至っていない。顧客やアプリケーションの多様化により、急変時における経営のリスクをうまく分散しているのだ。

 日系の基板メーカーもすぐには無理かもしれないが、主要顧客の多様化に早急に着手すべきである。もはやある特定の顧客に過度に頼るのはリスクが高すぎることを、今回も身をもって学んでいるのだから。

電子デバイス産業新聞 副編集長 野村和広

まとめにかえて

 スマホ依存が高かったFPCはプリント配線板業界のなかでも、足元の苦境が際立っています。FPCは今後もスマホが主要分野であることに変わりはありませんが、車載分野でもハーネスの代替など新しい市場が育ちつつあります、FPC国内最大手の日本メクトロン(親会社はNOK)も数年前から車載分野の開拓に本格着手。すでに一定の効果を見せており、少しずつですが、事業構造改革が進んでいる印象です。

電子デバイス産業新聞