新冷戦の“踏み絵”となったファーウェイ

世界規模で繰り広げられる米中オセロゲーム

スマホ分野では19年にアップルを抜き業界第2位に浮上する可能性が高い

本記事の3つのポイント

  • 米中貿易戦争が新たな局面を迎えようとしている。ファーウェイへの制裁が強まる中、19年のハイテク業界における最大のリスクファクターとして、その動向に注目が集まっている
  • 米国をはじめとする対中意識の強い各国でファーウェイ製の通信インフラ装置の排除が進んでいる。一方でロシアなどの親中意識の強い国では、導入に前向きなところもある
  • 中国は現状、米国の意向を受けて知的財産権の侵害などを止める方向で構造改革を進める動きを見せているが、今後も長期に及ぶ米中の覇権争いや対立構造がなくなるわけではない以上、新たな緊張関係に発展する可能性も
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 2019年3月初旬、90日間におよぶ米中貿易戦争の一時停戦(18年12月に開始)が終了する。3月に米中は和解に向かうのか? はたまた交渉は破談になって「米中新冷戦」が始まるのか? その成り行き次第で世界経済は大きく下ぶれするリスクをはらんでいる。中国ビジネスに関係する人でなくても、この結果は今春の重大な注目点となるだろう。

 米中貿易交渉の過程で、18年に中国のハイテク企業3社が米国の制裁対象となった。今回はその代表格のファーウェイ(華為技術、広東省深セン市)について注目し、現在の米中対立の構造を整理しつつ、今後について考えてみた。

アップルショックで不穏なスタートとなった1月

 2019年1月は、世界的な景気減速の懸念とともに始まった。1月2日、米アップルが18年10〜12月期の業績予想の下方修正を発表した。売上高は840億ドル(約9.1兆円)だったが、当初予想していた前年同期比1~5%増が達成できず、実際は5%減と投資家たちを落胆させた。

 スマートフォン業界の有名アナリストである台湾のミンチー・クオ氏は、アップルの19年1〜3月期のスマホ出荷台数を当初の4700万~5200万台の予測から3800万~4200万台に引き下げた。スマホ業界内では、アップルの19年の販売減速は確定路線との認識が濃厚となっている。

 アップルが収入低下を警告する異例の修正ガイダンスを発表した後にアップル株の売買は一時中断となり、その翌日にアップル株は145ドルに落ち込んだ。新型iPhoneを発売した18年10月は230ドルだったので、最近のピークから時価総額の約40%が消えたことになる。ティム・クックCEOは「中国市場でのシェア後退と米中貿易戦争の悪化による影響が原因」とコメントした。実際にiPhoneの中国販売は、17年の5000万台から18年は4200万台(前年比16%減)に落ち込んでいる。

 このアップルショックは、19年が世界的な景気後退の年になるのではないかという心理的不安を多くの人に抱かせた。アップル向けの7nmプロセスでアプリケーションプロセッサー(AP)を供給している台湾TSMCの株式にも影響(3%安)した。世界経済が減速傾向にあると受け止められ、外国為替市場で比較的な安全な金融資産と考えられている円が買われて、約9カ月ぶりに一時1ドル=104円台後半をつけた。よくも悪くもアップルの影響力は大きい。

アップルの株価の推移(Yahoo!ファイナンスをもとに加工)

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標的となった中国3社

 米中貿易戦争の渦中で米国政府の制裁を受けた中国のハイテク企業が3社ある。18年4月に事件となったZTE(中興通訊、深セン市)、10月のJHICC(晋華集成電路、福建省泉州市)、12月のファーウェイだ。

 ZTEは米国企業から今後7年間にわたり電子デバイスなどの供給が受けられなくなる制裁を課された。ただし、7月に罰金支払いなどで和解が成立し、電子デバイスなどのZTEへの輸出制裁は解除された。

 JHICCは先端DRAMの国産化を目指していた中国2社のうちの1社で、完成した工場に製造装置を搬入して生産体制を構築している最中だった。アプライド マテリアルズやラムリサーチ、KLAテンコールなどの米装置メーカーから半導体製造装置の納入がストップし、工場立ち上げが止まってしまった。蝶が繭から孵化する寸前で、無理やり冬眠させられてしまったような状態だ。今も生産開始のめどは立っていない。

 そしてファーウェイは、創業者の娘で会社幹部でもある孟晩舟CFOがカナダで拘束され、世界最多シェアになるだろうと思われていた5G通信のインフラ設備でファイブ・アイズ(米同盟5カ国)から排除宣告を受けた。

米国から制裁を受けた中国ハイテク3社

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「ハイテク中国」を代表するファーウェイ

 ファーウェイは18年に2億台のスマホを出荷し、2位のアップルとほぼ並んだ。増加傾向のファーウェイに対し、減少が予測されているアップルとの順位交代は確実なものとなった。トップのサムスンは19年にはついに3億台に届かなくなるという予測も登場し、20年にファーウェイが世界最大のスマホメーカーになる可能性が高い。

 携帯電話など移動通信の基地局通信設備分野でもファーウェイは世界首位の座にある。中国は3G通信の時は海外勢を追いかけていたが、4Gではほぼ並んだ。5Gでは先頭に躍り出ようとすらしている。この基幹技術を開発しているのがファーウェイだ。米国はファーウェイの通信設備を使用した場合に情報セキュリティー面でリスクがあると発表し、ファーウェイ外しの旗を振っている。これに賛同する国は米国と同盟関係にあるオーストラリア、ニュージーランド、日本などに広がり、カナダや英国もリスク警告を発表している。

 実はその一方で、ファーウェイの通信設備の使用を支持している国も多数ある。自国の中国をはじめ、ロシアや韓国、フィリピン、イラン、サウジアラビア、南アフリカなど親中意識の強い国が並ぶ。ファーウェイジャパンは18年の暮れに、日本の大手新聞5紙に同時に企業広告を出した。この時の新聞紙面で「ファーウェイ製の通信設備の導入予定状況をまとめた世界地図」(下の画像参照)が掲載された。これを見ると、米中両国が世界規模のオセロゲームを展開しているようなイメージが湧いてくる。

 日本では18年12月にソフトバンクの通信障害事件が起きたが、これはファーウェイの対抗馬のエリクソン(スウェーデン)製の通信設備だった。その直後に日本政府は(ファーウェイとZTEとは名指しはしなかったが)中国2社を使わないと発表した。5G通信はあらゆるモノがインターネットに接続する「IoT」の中核技術であり、どの国もどの企業の技術で通信インフラを構築すべきか難しい判断を求められている。

ファーウェイ製5G通信設備の導入 or 非導入国

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オセロゲームは地球規模に

 オセロゲームを連想させるファーウェイの企業広告のほかにも、中国が世界への影響力を拡大しようとしていると感じさせる地図がある。これは筆者が自作したものだが、測位衛星システムの導入状況をまとめたもの(下の図参照)だ。

 測位衛星システムとはいわゆる「GPS」と呼ばれているもので、「グローバル・ポジショニング・システム(Global Positioning System)」の略である。正確には、本家本元となった米国の測位情報衛星の名称を指す。GPSはもともと米軍の技術として開発されたものだったが、1983年の大韓航空機撃墜事件の時に墜落機の位置特定が難しく、十分な捜索活動ができなかった経験から、当時のレーガン大統領が商用利用を認可した。

 米国のほかには、冷戦時代に米国と宇宙開発で競っていたロシアの「グロナス(GLONASS)」、欧州が共同開発した「ガリレオ(Galileo)」、GPS傘下で日本エリアの測位精度を高めるために独自に運営している日本の「みちびき(準天頂衛星システム、QZSS)などがある。中国は2000年から測位情報衛星の打ち上げを始め、近年はその衛星を搭載したロケットの打ち上げ数を急拡大している。18年に中国の巨大経済圏構想の「一帯一路」の周辺国をカバーし、20年に地球規模を完全カバーする計画を発表していた。しかし、先ごろの報道ではすでに世界規模でも測位システムを稼働させているという情報もある。

 今後はインドが独自の測位衛星システムの拡大を計画している。これら米中欧露にインドを加えた5グループが、今後の独自経済圏を維持していく中心的な存在となっていくだろう。そして、独自の衛星システムを構築できない国は、主に米中どちらの傘下に入るかを選ばざるを得ないことになるのだろう。

 3月初旬に米中貿易戦争の一時停戦が解除される。中国は今のところ、米国の意向を受けて知的財産権の侵害や技術の移転強要、不当な補助金のばらまきなどを止める方向で構造改革を進める動きを見せている。3月に両国が具体的な妥協点を見出せれば、米中貿易戦争の悪化に起因する世界経済の減速は何とか回避されるだろう。しかし、今後も長期に及ぶ米中の覇権争いや対立構造がなくなるわけではない以上、19年の後半にはまた18年と同じような新たな緊張状態になっているかもしれない。

測位衛星システムの導入状況

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電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善

まとめにかえて

 19年のハイテク業界における最大のリスクファクターである米中貿易戦争は予測不可能な状況といえます。この状況は実需の冷え込み以上に、半導体や電子部品を調達する顧客側での「調達意欲の減退」という悪影響にもつながっており、過度な在庫圧縮を招いているという指摘も多いです。次世代通信規格「5G」の通信インフラ設備ではファーウェイは世界シェアでトップに位置しており、同社装置の世界各国で排除に追い込まれれば、5G普及が計画より遅れる可能性もありそうです。米中関係がどのような着地点を見出すのか、今後も目が離せない状況が続きそうです。

 

電子デバイス産業新聞

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