なぜレジ袋の有料化はコンビニにとって「一石三鳥」なのか。困るのは誰?

コンビニがレジ袋を有料化するようです。これはコンビニにとって一石三鳥のありがたい話だ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。

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コンビニ業界を含む小売業に対し、政府はレジ袋の有料化を義務付ける方針のようです※。これについて、コンビニの社長の目線で考えてみましょう。ちなみに、環境問題には全く興味が無い、金儲けのことだけを考えている社長だとしましょう。

※『レジ袋有料化、コンビニも対象 環境省が素案提示』(日本経済新聞 2018年10月18日付)

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一石三鳥の素晴らしいこと

コンビニ業界が一斉にレジ袋を有料化したとします。コンビニにとって素晴らしいことが3つあります。

第一に、マイバッグを持参する客が増えるため、無料で配布するレジ袋が減ります。これはコストの減少ですから、素晴らしいことです。

第二に、マイバッグを持参しない客に対しては、無料で配布していたレジ袋を有料で販売することができます。これは収入の増加ですから、素晴らしいことです。

第三に、コンビニ業界も環境問題に取り組んでいるというイメージアップができます。これも客商売をしている企業にとっては素晴らしいことです。

そんな素晴らしいことを、なぜ今までやってこなかったのかと言えば、理由が2つ考えられます。第一は、過当競争です。「自社だけ有料化したらライバルに客を奪われてしまう」と各社が考えて有料化できなかったということです。

第二は、何らかの誤解があったのでしょう。驚くことに、2005年に同様の話があった時には、日本フランチャイズチェーン協会が「コンビニでは来店客に買い物袋の持参を求めるのは困難だ」と反対したらしいのです。

官製カルテルは業界の利益

一社だけが値上げ(無料配布物の有料化を含む)をすると、ライバルに客を奪われてしまいかねませんが、全社が一斉に値上げをすれば、ライバルに客を奪われることがないので、全社が儲かります。そこで、皆が相談して値上げをしよう、と試みる場合があります。カルテルです。

コンビニ業界が結託して「レジ袋を有料化しよう」と決めれば、通常は独占禁止法違反のカルテル行為として処罰されますし、カルテル破りを防ぐのも容易ではありません。カルテル破りとは、値上げをすると約束して、自社だけが値上げをせず、約束通り値上げをしたライバルから客を奪ってくることです。

しかし今回は、政府の指導に従うだけですから、処罰される可能性がないのです。しかも、違反者は政府が取り締まってくれるわけです。まさに官製のカルテルです。こんな素晴らしいことはないはずです。

合成の誤謬は予想が難しいから誤解も生じやすい

合成の誤謬という言葉があります。もともとは「皆が正しいことをすると皆がヒドい目に遭う」という意味です。劇場火災の際、各人にとって正しい行為は非常口に向かって走ることですが、皆がそうすると皆がヒドい目に遭います。

そこで劇場管理人は「火災の際は走らないで」というルールを設けますが、これは不評でしょう。合成の誤謬は、実際に発生してみないと何が起きるかわからない場合が多いので、よほど想像力がたくましい人でないと予想できず、ルールができた時点で「なぜ走ってはいけないのか」という不満を皆が述べることになるでしょう。

合成の誤謬の反対で、皆が正しくないことをすると皆が儲かる、という場合もあります。値上げです。もっとも、昨今の経済情勢では各社が自発的に値上げをして全社が儲かるということは稀でしょうから、カルテルの相談や規制などが必要となります。

しかし、これも皆が一斉に値上げしたところが想像できないと、値上げの相談をする時にも反対をする人が出てくるわけです。官製カルテルにさえ反対が出かねません。上に「何らかの誤解があったのでしょう」と記したのは、このことです。

過去にもあった官製カルテルへの反対

1980年代、日本車の輸入が急増した米国から「日本車の対米輸出を減らせ」との圧力がかかり、日本政府が輸出企業に対米輸出台数を減らさせる「自主規制」が行われました。

これに対しては、自動車業界から「反対だ」「困った」という声が聞こえていましたが、結果としてはこれが官製カルテルとなり、自動車各社とも大きな利益を得ることになったのです。米国内で日本車が不足したため、「高くても日本車が買いたい」という要望が強まり、自動車各社は値上げができたのです。

もっとも、この時の反対には一理ありました。高度成長期の日本製品は、「安かろう悪かろう」と言われて、品質の悪さを価格の安さでカバーして輸出を伸ばしていたので、その時の記憶が鮮明に残っていた人々には「高くても日本車が欲しい」という米国人消費者のことが想像できなかったのかもしれませんね。

それと比べると、コンビニのレジ袋有料化は問題がはるかに少なそうです。「レジ袋が有料化されるならコンビニへは行かない」という客は少なそうですから。

日本経済としての資源配分は効率化

コンビニの視点を離れますが、日本経済としては、レジ袋の有料化で配布されるレジ袋が減るのは良いことです。消費者が「無料なら欲しいけれど、価格が5円なら不要」という物を生産するのに5円のコストがかかっているとすれば、そういう物は生産すべきではないからです。

レジ袋を生産するための材料や人件費は、もっと他の物(5円払っても欲しいと消費者が考えているもの)を生産するのに使うべきなのです。これを経済学では資源配分の適正化と呼びます。「廃棄されて海に流れ込む」といった使用後の話以外に、使用前の話としても、有料化は良いことなのです。

コンビニ店員にとっては災難であろうが・・・

上記のように、レジ袋の有料化はコンビニにとって素晴らしいことですが、コンビニ店員にとっては災難かも知れません。

「袋をご利用ですか?」と聞く手間が増えますし、「有料です」と言えば嫌な顔をする客もいるでしょう。クレーム客には「法律が変わりまして・・・」と説明しなければなりません。

大量の商品を購入しておきながら、「一つの袋に全部詰めてくれ」と言う客も出てくるかも知れません。マイバッグに無理に詰め込んでマイバッグが傷ついたら大変です。いっそのこと、コンビニもスーパーのように自分で袋詰めをしてもらっても良いかもしれませんね。

コンビニとしては上記のように大いにメリットがあるわけですから、その分は従業員の待遇改善に使いましょう。そうしないと、労働力不足で他社と労働力を奪い合っている状況下、店員が不足してしまうかもしれませんから。

本稿は以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

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久留米大学商学部教授 塚崎 公義

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塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
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