はじめに
労働の対価として支払われる給与の額は、ビジネスパーソンにとってモチベーションの維持にもつながる重要な要素といえます。
給与の額は、昇給によって上がっていきます。この記事では、昇給の意味を正しく理解するとともに、企業規模による昇給のあり方の差異や今後の昇給の見通しについて考えていきましょう。
目次
1. 昇給とは?昇格と昇進は昇給に関係する?
2. 企業規模によって平均昇給率は違う?
3. 学歴により昇給に差は生じる?
4. 役職がついたら昇給する?
5. 定期昇給やベアとは何?
6. 2018年の昇給の見通しはどうだった?
7. 2019年の昇給の見通しは?
1. 昇給とは?昇格と昇進は昇給に関係する?
昇給とは、一般的に「給与が上がること」を指します。給与は、基本給と各種手当から構成されていますが、どちらが上がった場合でも総額が高くなっていれば昇給と捉えることができるとされています。
さて、昇給に類似している用語として、「昇格」や「昇進」が挙げられますが、こちらについては、以下のように定義されています。
昇格
社内の職務資格制度によって定められている等級が上がることを指しています。昇格試験に合格する、大きな成果を上げるなどといったことにより、社内で評価された結果、等級が上がることが多いようです。昇給と昇格は別物ですが、昇格をすることで基本給が上乗せされ、結果的に昇給につながるというケースが多いようです。
昇進
「平社員が主任になる」「課長が部長になる」など、社内での地位が上がることを指します。会社によっては、昇進試験が実施されて任命されるという場合もありますが、どちらかというと、上の役職の人の退職などでポジションが空いたときに、役員会議などで、これまで実績を加味して選ばれた、次の担い手として注目されている人が任命されるということが多いようです。
なお、ここで注意したいのは、昇進をしたとしても、必ずしも昇格をするというわけではないという点です。このため、昇進をしても、昇格しなければ基本給があがることはありません。役職手当などで、結果的に昇給につながるという可能性はあります。
2. 企業規模によって平均昇給率は違う?
仕事を長く続けるほどに、昇給の機会に恵まれることになりますので、一般的には、勤続年数とともに、だんだんと給与が増えていくことになります。しかし、企業によって給与の増え方は異なります。
企業の給与の上がりやすさを示す指標のひとつとして「平均昇給率」が挙げられます。「昇給率」は「上がった後の給与」÷「上がる前の給与」で求めることができますが、これを数年間の平均でみたものが「平均昇給率」となります。この平均昇給率が高いほどに、給与が上がりやすい企業ということができますので、就職活動や転職活動において企業を選ぶときには、この平均昇給率にも注目しておいたほうがよいでしょう。
ちなみに、企業規模に着目してみてみた場合、大企業と中小企業では平均昇給率の傾向には、次のような違いがあるといわれています。
大企業の平均昇給率の傾向
中小企業に比べ、大企業のほうが昇給率は高めです。このため、たとえ初任給が同じであっても、継続して働いていると、大企業のほうが、生涯賃金が高くなるということが多いようです。
大企業は広範囲に事業を展開している場合が多く、景気が変化しても経営が一気に傾くことは、まずありません。そのため、長期的な視野を持って給与を決めることができるので、安定した昇給率を保つことができるというわけです。
中小企業の平均昇給率の傾向
企業間での格差があるため、一概にはいえませんが、昇給率の変化の幅が大きいのは、中小企業のほうといえます。
中小企業には、大企業に比べて財力がないことが多く、事業の幅も狭いため、収益が景気に左右されやすいという特徴があります。このため、長期的な収益の見通しを立てにくいことから、その時点での業績がよければ昇給率を大幅に上げ、悪ければ昇給率を控えめにするという対応をとる企業がよく見られるのです。
3. 学歴により昇給に差は生じる?
では、学歴によって昇給に差が生じるということはあるのでしょうか?
統計調査の結果を見ると、平均生涯賃金、昇給率ともに、高卒 < 大卒 < 修士卒 < 博士卒といった具合に、高学歴の人ほど高くなる傾向にあるようです。企業や職業による違いも大きく、たとえば、大学院で学んだ知識や技術が重視される専門職だと、大卒と院卒では、院卒のほうが、昇給率が高めに設定されているということが多いようです。さらに外資系のように、博士の学位を重視するような企業になると、修士卒と博士卒の間には、昇給率に大きな違いがあるともいわれています。
一方で、学力によって能力差が生まれにくい企業や職業になると、高卒と大卒であっても、昇給率にほとんど影響がでないということもあるようです。
4. 役職がついたら昇給する?
次に、昇進によって役職がついた場合、昇給はどうなるのでしょう。
前述しましたが、昇格によって等級が上がったことで基本給が上がることはあるものの、一般的には役職がついても基本給は上がりません。それでも役職がついたときには、毎月数千円から数万円程度の役職手当がつくことが多く、これが結果的に昇給につながるということは多いようです。ただ、役職手当の金額は、企業によってかなりの違いがあり、主任レベルでも数万円単位で役職手当が出る会社もあれば、部長クラスになってようやく1万円程度になるという会社もあるなど、ばらつきがあります。
また、役職が変わっても昇給にならないケースも見られます。たとえば、係長から課長に昇進しても役職手当の金額が同じという扱いという場合などです。さらに、経営不振などによって賃金カットをしなければならないような状況に陥ったようなときには、従業員全体の給与を減らす前に、まず役職手当が減らされてしまうということもありえます。
5. 定期昇給やベアとは何?
昇給の話題になると、よく登場する「定期昇給」と「ベア」「春闘」といった言葉ですが、これらは何を表しているのでしょうか?
定期昇給
昇給制度を取り入れている会社のほとんどが導入しているもので、年齢や勤続年数などといった時間的な経過によって、自然に昇給が行われていく昇給制度を指します。業務をこなしていれば、たとえ大きな成果を上げていなくても毎年1~2回程度の頻度で昇給になるという特徴があります。
ベア
ベアはベースアップの略で、定期昇給とは別に全社員の基本給を引き上げることを指します。社員にとっては喜ばしいことですが、企業側からみれば、入社や退社によって社員の年齢構成や人数に変化がないものとすれば定期昇給を行っても企業は人件費の総負担額は同じですが、ベアは人件費の負担を大幅に上げてしまうという問題があります。
春闘
毎年2月ごろから行われる、ベアをはじめとした労働環境の改善を求めて行われる労使交渉を指します。日本においては、労働組合は各企業別に結成されることが多いですが、その交渉力にはばらつきがあります。このことから、各企業の労働組合が団結して同時期に一斉に活動をすることで、交渉力を高めようとする狙いがあるといわれています。なお、実際の活動においては、金属労協がリード役となって交渉を行い、その妥協水準に基づいて内需型産業の賃金水準が決まるのが、例年の流れとなっています。
6. 2018年の昇給の見通しはどうだった?
なお、昇給について理解する上で役に立つのが統計的な情報です。毎年秋に、一般財団法人労務行政研究所によって、労使と専門家に対するアンケート調査が行われ、これが次の年度のはじめに、その年の賃上げの見通しとして発表されています。
たとえば、2018年の賃上げの見通しをだすために、2017年の秋に行われたアンケート調査においては、調査対象となったのは6440人の労働側、経営側、労働経済分野の専門家で、そのうちで回答があった470人のデータが集計されています。その回答結果より、2018年の昇給の見通しは全回答者の平均で6,762 円、昇給率にして2.13%。2014年から5年連続で2%台の高い昇給率になるという予測が示されました。
厚生労働省によって毎年行われている「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」調査では、2017年における主要企業の賃上げ実績は 6,570円、2.11%だったことを考慮すると、2018年にはさらなる昇給が望めることが示唆されていたことになります。
最終的には、2018年における「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」調査では、主要企業の賃上げ実績は、2.26%という結果がでました。予想はほぼ的中したということがいえるでしょう。
7. 2019年の昇給の見通しは?
では、2019年の昇給の見通しはどうでしょうか?
11月に第一生命経済研究所が提示した2019年「春闘賃上げの見通し」によれば、2019年は、前年に引き続きベアは行われるものの、春闘賃上げ率は、2018年のそれに比べて、やや鈍化した値になるであろうという予測が示されています。
これは、物価上昇や人手不足、消費税増税が控えているといった事情が賃上げ率を押し上げる要因とはなっているものの、各企業の増益率は鈍化しており、景気の先行き不透明感が高まっていることで、大幅な賃上げには踏み切りにくいという状況になっていることから、前年以上の賃上げには、各企業が慎重な姿勢を示しているためです。
一方、賃上げを要求する労働組合側も、前年同様「2%程度」という要求を示すなど、労使双方が賃上げには控えめなムードを示しており、前年を上回る賃上げ率を実現することは難しそうです。
おわりに
昇給率は、企業の規模や社員の学歴等によって異なります。生涯賃金の額にも影響することから、就職活動や転職活動においては、企業の昇給率についても着目するようにしたほうがよいでしょう。なお、中小企業のように、昇給に景気や社会情勢の影響をダイレクトにうけるようなケースでは、厚生労働省などが発表する統計情報などから、日本全体の動向を把握しておくことも大切です。
参考データ・記事
2018 年賃上げの見通し— 労使および専門家470人アンケートベース[一般財団法人労務行政研究所]
平成30年 民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況[厚生労働省]
2019年・春闘賃上げ率の見通し[第一生命経済研究所]
LIMO編集部