「トヨタのハイブリッド電気自動車(HV)普及への取り組みは、世界的に見ても最も先行している。先駆けとなったプリウスは1997年の初代当時には燃費性能が28km/L程度だったが、2015年の4代目に至って40.8km/Lまで向上させてきた。HEVの累計販売台数は2018年8月末時点で1269万台に達しており、CO2削減量も9700万tにもなっている。電動車の市場開拓および実績で大きく先行している」
こう語るのはトヨタ自動車でパワートレインカンパニーの常務理事を務める安部静生氏。2018年10月31日、日本電子デバイス産業協会が開催した第5回NEDIA電子デバイスフォーラム京都の基調講演における談話だ。同フォーラムは今回1275人のセッション参加数となり、過去最大規模となったが、このトヨタのスピーチには皆真剣に耳を傾けていた。
トヨタの考えるEVのすみ分け
世の中はさかんに“EV、ひたすらEV”の大合唱が始まっているが、トヨタの考えるエコカーともいうべき電動車は、実績を持つハイブリッド車を含めての全面展開なのである。そして、プラグインハイブリッド車こそが難しいEVのハードルを下げる好適なエコカーであるとの信念がある。航続距離に不安がなく、専用の充電インフラが不要であり、何より手に届くリーズナブルな価格であることが重要と考えるトヨタは、プリウスを軸に戦ってきた。
将来的には、2030年段階で電動車比率50%以上、純正EVおよび燃料電池車比率10%以上を打ち出しているが、やはりトヨタにおける次世代エコカーの本命はプラグインハイブリッド車だ。これからの電動車のすみ分けについては、バス・トラックなどには燃料電池車が最適であり、短距離利用の一般乗用車であればプラグインハイブリッド車が良いとの判断があり、EVについては高級車需要が中心になると考えているようだ。
EVの電池容量コストはプリウスの50倍
「現在の環境では、350kWでもEVはガソリン車の利便性には全く及ばない。何故なら急速充電を使っても23分かかり、一方のガソリン補給はたったの3分で終わる。ユーザーはどちらを選ぶのだろう。また、純正のEVは充電時に30%のエネルギーも損失しており、CO2削減で言えばむしろ悪化を招いている。また、トヨタが5年間かけてビッグデータの検証をしたところ、2000台の実験車のうち一度も電欠しないEVはたったの20%でしかなかった」(安部氏)
こうした状況も把握せずに「世界は一大EVブーム、トヨタをはじめ日本企業はEV出遅れ」を喧伝するメディアには大きな責任があるだろう。何しろEVは大容量の電池を搭載するのであり、一般的EVの電池容量は40kWh、これに対してトヨタのプリウスは0.75kWhと極小であり、電池容量コストで言えばEVはプリウスに比べて50倍というとんでもない数字になるのだ。
「純正EVにせよ、HVにせよ、電動車にとって最も大切な技術はやはり電池とモーターだろう。安全性が高く低コストである全固体電池こそがリチウムイオン電池技術に取って代わると見ている。トヨタは業界ナンバーワンの車載用角型電池を作れるパナソニックと次世代電池に関して開発・生産の協業化を決めた。トヨタのみならず、日本すべての産官学連携で全固体電池を作り上げ世界に普及させていきたい」(安部氏)
今より良い車でなければ消費者は買わない
トヨタは2代目プリウスにおいて、モーターにおける優れた技術を確立している。プリウスには発電用と駆動用の2つのモーターがあるが、この2つを同時に駆動用に使えるようにしたのだ。これがデュアルモータードライブであり、EVの走行カバー率を大きく向上させることができる。
「次世代エコカーにとって半導体技術の進展も重要項目の1つだ。4代目プリウスには6インチウエハー1.18枚分の半導体を使っており、この内訳は燃費・環境に35.5%、快適性に21.5%、安心・安全に20.4%、マルチメディアに15.5%、運転支援に7%となっている。IGBT、パワーMOSFET、マイコン、メモリー、ASICなど様々な半導体の進化が必要なのだ。とりわけ、SiCやGaNなどの化合物パワー半導体の進化によって、これまで5枚必要であったパワーカードは3枚に減る。周辺のコンデンサーも小さくできる」(安部氏)。
こうした様々な次世代エコカーにおける期待と問題点を指摘した安部氏であるが、筆者の胸に強く残ったのは次の一言だ。
「今の車より良くならないのであれば、お客様は決して買ってはくれない。買い換えた方がお得であり、魅力的でなければ、お客様は手を出さない。メリットが多くあって、スマートであり、値段も手ごろ、しかも地球環境改善に貢献する。これこそが次世代エコカーのキーワードだ。48Vタイプのプラグインハイブリッドこそ、この期待に応えるものとなるだろう」
産業タイムズ社 社長 泉谷 渉