大学1年生に内定を出したらどうなるのか~変わる就活ルール

大学1年生に内定を出して、企業が大学生を勉強させる、という逆転の発想を久留米大学商学部の塚崎公義教授は提案しています。

採用指針の廃止で皆が苦しむことになる可能性

経団連は、新卒の採用活動に関して、加盟企業向けに「採用に関する指針」を策定しています。現在の指針は、就職広報活動は大学3年生の3月から、採用選考活動は4年生の6月から、というルールです。

経団連がこの指針を廃止することになり、とりあえず政府が21年春入社組については現行ルール維持の方針を打ち出していますが、その後については今後の議論が待たれるということのようです。

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「形骸化していて守られていない」「経団連メンバーだけが不利益を被っている」といった悪評はありますが、それでも現行の指針が一定の効果を持っていることは疑いありません。それが廃止になると、本当に大学生は4年間ずっと就職活動しなければならないかもしれません。

4年間の夏休みと春休みはずっと就職活動をするとなると、100社以上を受ける学生が一般的になるかもしれません。どうせ1社しか入社しないのに、壮大な「無駄」です。採用側も、定員の100倍の学生を面接しなければいけないのは大変なコストです。

大学生が就職活動に勤しむと、ただでさえ日本の大学生は諸外国に比べて勉強しないと言われているのに、いっそう勉強しなくなってしまうかも知れません。

時期で縛らないのであれば、「5社しか受けない」といったルールを定めることも要検討です。大学が5枚だけ学生に推薦状を渡して、それを持参しない学生は面接しない、と申し合わせるのです。

逆転の発想で、1年生に内定を出すという選択肢も

「就職活動が早まると、学生が勉強しなくなる」と言われます。内定を受け取った4年生が卒業までに勉学に励むとも思われない、というわけでしょう。しかし、そこは発想を逆転してみましょう。

大学の1年生に内定を出すのです。新卒の採用は、ポテンシャル採用(現時点での能力ではなく、入社してから鍛えれば立派な社員になる可能性に賭けて採用する)ですから、大学入試が終了した時点で採用することは、ある意味で合理的なのです。

その上で、大学から学生に指示を出すのです。「大学4年間で、こういう勉強をしなさい。真面目にやれば初任給が上がるよ」といった具合に。指示の内容は、大学の勉強だけでなくても構いません。資格を取る、海外に短期留学をする、ボランティアをする、等々の指示を会社の方針に従って出せば良いのです。

要するに、4年生に面接で「学生時代に力を入れたことは?」と聞く代わりに、1年生に「学生時代に力を入れてほしいこと」を伝えるのです。それによって学生は充実した学生生活を送れるでしょう。

筆者は、大学を卒業して銀行に入り、銀行から派遣されて留学しました。その時は勉強しましたね。留学時代の生活ぶりが人事評価に結びつくわけですから。それと同じ経験を全国の大学生にさせるような企業が増えてくれば、日本の大学生は格段に勉強するようになるかもしれませんよ。

内定者を引き抜かれない工夫が重要に

1年生に内定を出したとして、その学生が本当に自社に入社してくれるか否かは、人事担当者の悩みの種でしょう。内定を出した学生が2年生以降も第一志望の面接を受け続けるかも知れませんから。

それを阻止することは容易ではありませんが、工夫の余地はあるでしょう。「多額の奨学金を貸与して、入社して5年勤めたら返済を免除する」といった条件を出せば、内定を辞退する学生は減るでしょう。

今ひとつ、夏休みと春休みに、新入社員並みの条件で実際に働いてもらう、ということも要検討でしょう。会社の様子をわかってもらえれば、学生が安心して入社してくれるでしょうし、入社後に「こんなはずではなかった」といった退職が出ることもないでしょう。

学生としては、会社に入って求められるものが何であるかを体感でき、それに役立つようなことを学生時代に頑張ろうとするかもしれません。

裏の意図としては、春休みと夏休みに他の企業を受けることが難しくなる、といったこともあるかもしれませんが(笑)。

新卒一括採用の議論と混同しないことが重要

「就活指針の廃止」と聞くと、「新卒一括採用も変わるのか」と思う人がいるようですが、両者は別物なので、混同しないように気をつけたいものです。

今回話題になっているのは、「在学中に採用活動を行なって内定を出して、卒業と同時に就職してもらう」という新卒一括採用の是非ではなく、在学中に行う採用活動を何年生の時に行うか」というだけの話です。

「在学生に対する採用活動はせず、卒業生に対する採用活動をする」という欧米流の採用方式は、容易には導入されないと思います。1社だけが採用方式を変更しても、他社が新卒一括採用の終身雇用で優秀な学生を囲い込んでしまえば、優秀な社員を集めることができないからです。

終身雇用が変質していくとすれば、若手社員の転職が増えていく場合でしょうね。「新卒一括採用は続くけれども、若手の転職が増えるので、結果として新卒採用で入社した社員が社内に占める比率が下がっていく」といったことならば、十分あり得ると思いますが、それは本件とは無関係の話ですね。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。

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久留米大学商学部教授 塚崎 公義

ニュースレター

塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
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