「国内の電子デバイスの分野で異変が起きている。国内電子部品メーカー30社の2018年度設備投資計画は1兆円を超えてきた。増額修正も出てくる見通しであり、中小部品メーカーまで加えれば1兆2000億円まで行くかもしれない。何と国内半導体業界の設備投資を上回ってしまうことになる」

 こう語るのは電子デバイス産業新聞で電子部品を担当する松下晋司記者である。日本の半導体メーカーの設備投資は2017年度に前年度比60%増を記録し、10年ぶりに1兆円を突破した。しかしながら2018年度については、全体としてやや抑え気味であり、1兆1000億円程度にとどまる可能性が出てきた。こうなれば、史上初めて電子部品メーカーの投資が半導体メーカーを上回ってしまうのだ。

 各社の投資計画の内容を見れば、やはり自動車向けおよびロボットなどの産業機械向けの投資が大きく牽引していることがよくわかる。もちろん現在の柱は何と言ってもスマホだが、日本の電子部品業界は非スマホ分野のIoT向けに集中投資するという先見的な考えを持っているようだ。

電子部品メーカーの投資水準はもはや半導体メーカー並みに

 次世代エコカーの筆頭格といわれるEVは電子部品メーカーの投資加速も促す。ガソリンエンジン車では、積層セラミックコンデンサー(MLCC)はモーター駆動系を中心に1台あたり1000~2000個搭載される。ところがEVになれば、なんと10倍規模に膨れ上がり、車1台あたり1万個が使われることになる。このMLCCの世界チャンピオンが村田製作所であり、スマホから車載に軸足を動かしつつある。同社はEV向け電子部品の生産能力増強に1000億円を投じる、とアナウンス。MLCCで2番手のTDK、太陽誘電も大型投資を構える。

 アルミ電解コンデンサーの世界チャンピオンは日本ケミコンであり、やはり車載向けを強化している。パナソニックのハイブリッド型アルミ電解コンデンサーは世界屈指のシェアを獲得。フィルムコンデンサーでは京都のニチコンが車載向けに注力する。

 日本電産はベトナムで大型投資を進めており、ハノイに家電用モーターとロボット用部品の新工場を立ち上げる。アルプス電気は宮城県大崎市に車載向け電子部品の新工場を建設する。

 コネクターの増産計画も進行中で、ヒロセ電機は東北に金型棟と試験センターの増築を進行中。本多通信工業は車載用カメラコネクターを中国で増産、SMKも中国で新工場を稼働させ、第一精工はマレーシアに新工場を建設している。コネクターはまさに記録的な品不足に陥っている。

 「電子部品業界で設備投資のトップを行くのは村田製作所で3400億円、2番手はTDKで2100億円、3番手は日本電産で1500億円、4番手は京セラであり1100億円となっている。こうした上位メーカーの投資水準は、もはや半導体メーカー並みになっていることには驚くばかり」(松下記者)

各社の業績はまだら模様

 一方、各社の業績を見れば、かなりまだら模様になっていることがよくわかる。村田製作所の2018年度の純利益は1461億円であり前年度比6%減、純利益率は11%となっている。TDKの2018年度純利益は635億円で前年度に比べれば56%の大幅マイナスとなり、純利益率も5%に下がる。京セラの2018年3月期純利益も前年度比21%減の818億円にとどまり、純利益率は5%。ミネベアミツミは2018年3月期に前年度比44%増の純利益594億円を上げ、純利益率は7%を保持している。オムロンの2018年3月期実績も純利益は前年度比37%増の632億円となり、純利益率7%となっている。

 各社の純利益はマイナスとプラスに分かれているが、製品変更による設備などの特損処理をしていることを加味する必要はあるだろう。それにしても、かつて半導体業界との間に大きな差のあった電子部品業界は、じわじわと持てる力を発揮し台頭してきた。電子部品の世界市場はすでに25兆円を突破しているとみられるが、日本企業の持つシェアは約40%であり、世界最強の存在であることを強く認識する必要があるだろう。

産業タイムズ社 社長 泉谷 渉