定年後はみんな何をしているのか〜ボーッと家にはいられない!?

書評『定年入門 イキイキしなくちゃダメですか』

定年後は「終わった人」になる?

「人生100年時代」らしい。100年人生を提唱するベストセラー『LIFE SHIFT(ライフシフト)』によれば、「2007年に日本に生まれた子どもの50%は107歳まで生きる」とのこと。これは今の子どもだけの話ではなく、1967年生まれでも92~96歳、1957年生まれも89~94歳まで生きる確率が50%あるという。

いずれにせよ、これから超長寿社会が訪れるわけである。長生きできるのだから幸福なのかもしれないが、半面、65歳でリタイアしたとして残り約30年、いったい何をすればいいのか。お金や健康面の不安も募る。

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リタイアといえば、内館牧子氏のベストセラー小説『終わった人』が映画化され、話題になっている。定年退職した大手銀行マンが、やることがなく家でゴロゴロし、妻には距離を置かれ……という夫婦、家族のあり方をシリアスかつユーモラスに描く。ほかにも、ずばり『定年後』(楠木新著)という本が大ヒット、著者は充実した老後を送るために50代から再就職などの準備を始めることをすすめる。

定年した人に共通しているのは?

本格的な高齢社会の到来で、メディアには老後資金だの老後破綻だの熟年離婚だの不安をかきたてる言葉があふれる。定年後は確かに心配だ。でも実際のところ、定年(早期)退職した人はどんな暮らしをしているのか。イメージできそうで、なかなかできないのではないか。

本書『定年入門』は、定年とは無縁のノンフィクション作家が、一緒に仕事をしていた人たちが次々と定年で去っていくことに寂しさを感じ、いったい定年退職者は何をし、どんなことを考えているのか、そんな素朴な疑問を抱え、元会社員や公務員らに取材したもの。老後のライフプランをどう立てるかといった難しい話は出てこない。タイトルどおり気軽に読める入門書だ。

当たり前だが、定年後の生活は人それぞれ、千差万別だ。再就職する人、趣味に打ち込む人、カルチャースクールなどで勉強にはげむ人、地域活動やボランティアにいそしむ人……。共通するのは、家でゴロゴロ、ボーっとしている人はいないという点。みな何かをしている。とにかく時間だけはあるので、それをどうにかしなければいけない。

理由はそれだけではない。なにより日がな一日家にいると、妻に嫌がられる。いまや「主人在宅ストレス症候群」という心身症まで生まれているほどで、夫がずっと家にいると妻はイライラしたり、強い不安感やゆううつ感、吐き気、頭痛、不眠などさまざま症状に苦しめられるというのだ。

本書でも地域のNPO法人でボランティアをする男性が「この活動をすることで一番よろこんでいるのは奥さんですよ」と語っている。周りの仲間たちもうなずく。

ある妻の話が興味深い。元メーカー勤務の夫は定年後も仕事に趣味にと充実した毎日を送っている。掃除などの家事も積極的に手伝う。妻は「なんて問題のない夫なんだろう」と満足げだ。ところが、時どきイラッとすることがある、と吐露する。

理由は、夫が「ありがとう」と言わないから。「おいしかった」も言わないらしい。夫は感謝しないわけではない。ただ、それを「ほいほい」や「ほい」といった言葉で表現するのだとか。それが不愉快で、「『ありがとう』とだけ言ってくれれば、穏やかになれるのに……」とつぶやく。

実はこんなところに定年後の夫婦2人の生活がうまくいくヒントが隠されているのかもしれない。相手に感謝や反省の気持ちをどれだけ伝えているか。言葉にしなくてもわかるだろう、というのはやはり間違いなのだ。これは現役世代も同じ。「ありがとう」「ごめん」などきちんと言葉にすることが大切だ。

定年とは「男の自立」の時なのか

ところで、定年というと男の話になりやすいが、本書には数人、女性の事例も紹介されている。最後の第9章は女性だけだ。既婚者も独身者も女性に共通するのは、男性とは印象が異なること。なんというかジメジメしていない。悲哀感がない。定年後も趣味に、勉強に、遊びにと生きいきとしていて、前向きだ。

対照的に物悲しいのが元商社マンの話。仕事イコール人生でやってきたため、定年で生きる基盤を失った、人生のペースが変わると嘆く。一方で、妻は同じペースで生活している。家事をこなし、趣味を楽しみ、友だちと出かける。その姿を見て、「女には揺るがない幹がある」と悟る。

ならば妻に依存すればいいのではと問う著者に対して、それはできないという。「彼女は自立しているんだよね。『私は自立しているんだから、あなたも自立しなさいよ』と言われているような気がしてならないんです」とうつむく。

元信託銀行員も、「私が体を壊さず、財政破綻もなく、無事でいられるのは全部、女房のおかげです」と話す。著者はこれに同意し、「定年後の男性は例外なく、そう言う。私自身もそう思っており、これはもう『真理』といっても過言ではないだろう」と述べる。

しょせん女房あっての自分ということか。でも、定年後は頼れない。「『定年』は男の自立。ひとりの生き物として自立する旅立ち。これもひとつの定めなのだろうか」という著者。悲しいが、それが現実なのだろう。幸せな老後を送るためにも、男たちよ、自立せよ!

定年入門 イキイキしなくちゃダメですか
髙橋秀実 著(ポプラ社)
1500円(税抜き)

田之上 信

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1969年京都生まれ。ライター。業界紙記者、雑誌編集者を経てフリーに。
ビジネス、医療関連分野を中心に取材、執筆。大衆酒場好き。