街にはいろんな人が集まって住んでいる以上、他人とのトラブルは絶えません。ちょっと思いつくだけでも、隣人同士のいざこざやゴミ出しのトラブル、町内会やマンション管理組合の紛糾、早朝や深夜の生活騒音など、さまざまなものがあります。しかし、人が誰も住んでいない「空き家」にも、大きな問題の種が潜んでいます。

みなさんの身近なところにも意外とある空き家。放っておくと、思わぬ事態を引き起こしてしまうかもしれません。

すでに820万戸もの空き家が

空き家の軒数は、増加の一途をたどっています。「増えているのはなんとなく知ってる」という人は多いと思いますが、では、どのくらい空き家があるのでしょうか?

総務省統計局では5年ごとに住宅・土地調査を公表していて、最新の調査である2013年のものによると、空き家の総数は820万戸、すべての住居の中での空き家率が13.5%ということですから、7.4軒に1軒が空き家ということになります。それまでの5年間では、63万戸も空き家が増えたという結果でした。1年あたりにならすと12万戸以上の空き家が生まれているということになります。

さらには、野村総合研究所が2015年6月に発表した資料によると、いまから15年後の2033年には空き家は約2150万戸、空き家率はなんと30.2%にものぼると予測されています。

人口減少と高齢化の影響

空き家にも種類があり、借り手の見つからないマンションや賃貸住宅、別荘も広義では「空き家」に入ります。

しかし、最も問題視されているのは、居住者や管理者のいない空き家です。その増加の原因は、「人口減少」と「高齢化」にあります。

過疎化の進む地域では、住む人がいなくなり、管理する人のいない家が増えています。また、高齢者は入院や老人ホームなどの施設で暮らすことで自宅を空けてしまうようになりますし、特に身寄りのないお年寄りの場合、亡くなったあとに結果的に家が放置されることになります。さらに、解体するときに少なからず費用が掛かることも、空き家の増加問題の一因となっています。

空き家が近隣にもたらす問題

みなさんがお住まいの街にも、「あばら家」「幽霊屋敷」と呼ばれるような建物がないでしょうか。こうした廃墟のような空き家が放置されていると、その家だけではなく、周辺にも被害を及ぼす可能性があります。

被害の中では、特に美観・衛生面での悪影響が大きいといわれています。管理者のいない空き家では、雑草や立ち木などが伸び放題になって道路に出てきたり、持ち主が住んでいたときのゴミが放置されたり、場合によっては「誰もいないし」ということで、第三者によるゴミの違法投棄の温床になったりします。

そうした状況は景観を悪化させるだけでなく、悪臭や害虫・害獣発生の原因にもなってしまいます。

はがれ落ちた壁や屋根瓦で被害も

加えて、安全面や保安面の問題も無視できません。空き家のおよそ7割が木造戸建だという調査結果もありますが、木造の家は人が住まなくなって窓を閉め切ったままになると、湿気が溜まって急速に劣化しやすいともいわれます。老朽化が進んで安全対策も十分ではない空き家が、地震や大雪・台風などに見舞われると、あっけなく倒壊してしまうこともあります。

特に1981年に家屋の耐震基準が大きく改正される前に建てられた古い家は、実際の地震に耐えきれないこともあるといわれます。空き家の倒壊に巻き込まれたり、そこまでいかなくとも、落下した壁や塀、屋根瓦などで近隣の家が損傷を受けたり住民がケガをしたりしてしまう場合もあります。

自分の責任じゃなくても資産価値が落ちる!?

付け加えると、空き家は放火の標的になることが多く、加えて不法侵入も容易です。結果として、さまざまな犯罪の温床になってしまうことさえあるのです。

2015年に施行された「空家等対策特別措置法」によって、倒壊の危険のある空き家については、自治体の立ち入り調査や持ち主照会などがより効率的にできるようになったり、自治体で独自の対策条例を設けたりするところも出てきていますが、とはいえ限度はあります。持ち主が亡くなって身寄りもない場合や、持ち主がいても支払能力がない場合などは、治療費や修繕費を実質的に被害者が自腹で払わなければいけなくなったりもします。

しかも、空き家問題は、こうした物理的な被害だけにとどまりません。読者のみなさんが購入した家やマンションの隣近所に、もし上記のような問題のある空き家があった場合、資産価値が落ちる危険もあります。つまり、まったく自分の責任ではないにもかかわらず、みなさんの自宅の資産価値が下がってしまうという場合もあるのです。

空き家の活用に工夫をこらす

このように、多くの問題を引き起こすかもしれない空き家。そうした事態を未然に防ぐために、空き家を活用しようという動きはあらゆるところで進んでいます。特に地方では、空き家を体験施設やコミュニティスペースに活用する事業が行われているところもあります。

さらに、都市部での空き家活用にも注目が集まっています。4大都市圏それぞれの中心である東京都・神奈川県・愛知県・大阪府の4都府県における空き家数は、実に全国の約3割を占めていて、その対策が重要視されています。たとえば東京都では、2020年のオリンピックに向けて、整備された空き家を宿泊施設として提供する取り組みが始まっています。さらに、空き家を再生させたカフェなども生まれています。

そもそもは、人口減少の時代になっても住宅供給が過剰に続けられていることが大きな原因なのですが、年々、深刻度を増してきている空き家問題については、「被害への対策」と「斬新な活用方法」の両方に注目していきたいところです。

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