2. 繰下げ受給の損益分岐年齢
公的年金は生きている限り受け取れます。
そこで、何歳まで生きれば65歳時点で受け取った場合よりも得をするのかを表した「損益分岐年齢表」をみてみましょう。
損益分岐年齢は、この年齢以上生きれば、65歳からもらった場合よりも受給額で得をするという年齢のラインです。
70歳まで繰下げた場合は、81歳11か月後に、65歳での受給よりも受け取る年金が多くなります。
厚生労働省の「令和4年簡易生命表」によると、65歳の男性の平均余命は 19.44年、65歳の女性の平均余命は24.30年です。
つまり、平均的に65歳の男性は約84歳まで生きる、65歳の女性は約89歳まで生きるということです。
それを念頭に置いてこの表をみると、男性は72歳か73歳くらいまでは繰下げてもよく、それ以上繰下げると損をする可能性が高い、女性は75歳まで繰下げても得をする可能性が高いと考えられるでしょう。
しかし、損益分岐年齢だけでは、実際に何歳での受け取りが一番得なのかはわかりません。
そこで、もう少し具体的な数字を出して検証してみたいと思います。
3. 繰下げ受給と平均余命
65歳時点の平均余命を使って、生涯に受給できる年金額の総額を出してみたいと思います。
繰下げ受給によって増額した年金額に、65歳時点の平均余命から繰下げた年数を引いた余命年数をかけて、生涯に受給できる年金額の総額を計算します。
※計算を簡単にするために、余命の1年未満は切り捨てています。
3.1 <繰下げ受給による男性の生涯受給総額(84歳まで生きると仮定)>
男性の場合、84歳まで生きた場合の生涯受給総額は、69歳までは右肩上がりに増えていますが、69歳をピークに70歳以降は徐々に減っています。
75歳では1987万2000円と、65歳受給よりも300万円程度少なくなっています。
84歳まで生きると仮定した場合、73歳以降の繰下げは、たとえ増額されても本来の受給総額を下回る可能性が高く、69歳が一番生涯受給総額が多いことがわかりました。
女性の場合はどうでしょうか。
3.2 <繰下げ受給による女性の生涯受給総額(89歳まで生きると仮定)>
89歳まで生きた場合の生涯受給総額は、71歳までは右肩上がりに増えていますが、71歳をピークに72歳以降は徐々に減っています。
ただし、男性と違って75歳まで繰下げても65歳受給の総額は上回っています。
89歳まで生きると仮定すると、72歳以降の繰り下げは、増額された年金を受け取れるにしても、71歳の繰下げよりも受給総額が少なくなるため、あまり意味がない繰下げといえます。
女性の場合、71歳が一番生涯受給総額が多いことがわかりました。
以上のことから、繰下げ受給をするなら、男性は69歳、女性は71歳が平均的に一番得をする受給開始年齢といえます。
ただし、これは理論上の話で、実際は何歳まで生きるかは人それぞれなので、このとおりにはならないことの方が多いでしょう。あくまでも目安として考えてください。