液晶パネル用部材メーカーの増産計画が次々に浮上している。背景にあるのは、中国の液晶パネル最大手BOE(京東方科技集団)が安徽省合肥市に稼働した、世界で初めて第10.5世代(10.5G=2940×3370mm)のマザーガラスを用いる液晶パネル工場だ。BOEに続き、今後も10.5G工場が相次いで立ち上がってくると見込まれるため、これに応じた供給体制を整備しようと部材メーカーが増産計画を具体化し始めているのだ。
10.5G工場は世界で6カ所に
10.5Gマザーガラスからは、65インチ液晶パネルが一括で8面取れる。これにより、今後は65インチ液晶パネルの製造コストが大幅に下がり、液晶テレビの大画面化が加速していくと見込まれている。BOEの合肥10.5G工場が2017年末に稼働を始めたこともあって、18年の液晶パネル生産面積は年間で前年比6~8%増加すると予測されており、今後どのようなペースでBOEのラーニングカーブ(量産技術の習熟度)が上がっていくのか注目されている。
BOEに続いて10.5G工場を立ち上げるのが、中国2位の液晶パネルメーカーCSOT(華星光電=チャイナスター)だ。広東省深セン市で建設を進めており、19年初頭から量産を開始する予定だ。
中国2社に続くのが、世界最大のEMS(電子機器の受託生産サービス)企業である台湾の鴻海精密工業(フォックスコン)だ。高い液晶技術を持つシャープを買収した鴻海は現在、中国の広東省広州市で10.5G工場の建設を急いでおり、当初予定していた19年の竣工を18年末に前倒しし、19年半ばには本格稼働させるつもりだ。
これに加えて、17年夏には米ウィスコンシン州にも10.5G工場を建設することを決めた。投資総額は100億ドル。同年11月には同州と総額28.5億ドルの州税控除を受ける契約も結んだ。21年の稼働開始が見込まれている。
ちなみに、BOEとCSOTはそれぞれ2棟目となる10.5G工場の建設も検討している。BOEは3月8日、湖北省武漢市に460億元を投資して2棟目の10.5G工場を建設すると発表した。20年初頭の稼働開始が見込まれる。一方、CSOTは20年後半に新たな10.5G工場を稼働させたい意向だという。
部材需要の増加で増産計画が具体化
このように10.5G工場の建設計画が相次いで具体化していることもあって、調査会社のIHS Markitは液晶の需要面積が22年まで年率平均5%で拡大していくと予想している。これを鑑みて、生産面積に応じた供給が求められる光学フィルムなどの部材では、需要増に対応した増産計画が具体化してきた。
東洋紡は、犬山工場(愛知県犬山市)に液晶用光学フィルムの専用工場を建設する。100億円を投じて20年5月に稼働させ、21年には同フィルムの売上高を現状の2倍に引き上げる。このフィルムは、液晶の表示に不可欠な偏光板の保護フィルムに使われる。
クラレは、液晶の基幹部材である偏光フィルムのベースとなる光学用ポバールフィルムの生産設備を倉敷事業所(岡山県倉敷市)に増設する。投資額は100億円超を見込む。19年末に稼働させ、年産能力を現状の2億3200万㎡から2億6400万㎡に高める。市況を見ながら今後も投資を検討する。
日本ピグメントは、埼玉県神川町に約25億円を投じて液体分散体の新工場を建設することを決めた。19年春の稼働を目指しており、年産能力を現在の4倍にする。液体分散体の主な用途はカラーフィルターであり、韓国や台湾のレジスト(感光材)メーカー向けに今後も需要拡大が見込まれるという。
スマートフォン市場では、液晶から有機ELディスプレーにシフトする動きが活発化しているが、スマートフォンのような小型パネルが液晶の全生産面積に占める割合は2割程度しかない。生産面積の大半を占めるテレビの大型化が継続する限り、液晶はまだまだディスプレーの主役だ。10.5G工場の相次ぐ稼働によって、部材メーカーから新たな増産計画が今後も出てくるだろう。
(津村明宏)
電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏