本記事の3つのポイント

  • ソフトバンク出身の林氏が設立したロボットベンチャー企業、GROOVE Xが業界内で注目を浴びている
  • ソニーの「アイボ」より大きく、ペッパーより小さいロボットを開発中、18年末までに製品発表を予定
  • ベンチャーキャピタルなどから、ベンチャー企業として異例の大規模出資を獲得しており、同社に対する期待度は非常に高い

 

 「GROOVE X(グルーブエックス)ってどんな会社ですか」――、最近この質問を複数の人から受けた。簡単に言えば、元ソフトバンクロボティクスの林要氏が立ち上げた家庭用ロボットベンチャー企業であるが、1月下旬にその林氏とソフトバンクロボティクスの間でちょっとした騒動が起こった。ソフトバンクロボティクスからマスコミ各社に異例の書面が送られてきたためだ。(以下、一部引用)

"元弊社社員であり、GROOVE X株式会社の代表取締役である林要氏についての報道において、林氏をPepperの「父」「生みの親」「(元)開発者」「(元)開発責任者」「(元)開発リーダー」などと呼称することで、あたかも林氏が弊社在籍当時Pepperの技術開発の責任者又は中心的存在であったかのような印象を与える表現が散見されます。

しかしながら、林氏が弊社又はソフトバンク株式会社に在籍中に、Pepperに関して、企画・コンセプト作りやハード又はソフトの技術開発等、いかなる点においても主導的役割を果たしたり、Pepperに関する特許を発明したという事実はございません。また、事実として、当社またはソフトバンク株式会社のロボット事業において「開発リーダー」という役職や役割が存在したことはありません。

(中略)

メディアの皆様におかれましては、今後林氏について報道される際は、「Pepperプロジェクトの(元)プロジェクトメンバー」など、Pepperの技術開発の責任者又は中心的存在であったかのような印象を与えない呼称を使用していただきますようお願い申し上げます。"

 この書面をきっかけに複数のメディアで「Pepper(ペッパー)の親権問題」として、ソフトバンクロボティクスが上記のような依頼を行った理由について考察している(ちなみに電子デバイス産業新聞ではソフトバンクロボティクス時代の林氏にインタビューしており、開発リーダーという表現を使っているが、当時ソフトバンクロボティクスから表現についての訂正依頼などはなかった)。

(参考)
電子デバイス産業新聞 特別インタビュー第107回 2015年2月6日 ソフトバンクロボティクス(株) プロダクト本部 PMO室室長 林要氏

 その一方で、GROOVE Xがどのようなロボット開発を進めているのかを報じているものは少ない。はっきり言って謎が多いからである。そこで本稿ではそのGROOVE Xについて取り上げてみたい。

トヨタ、ソフトバンクを経て起業

 まずGROOVE Xの創業者で代表取締役を務める林氏であるが、ソフトバンクロボティクスの前はトヨタ自動車に在籍し、空力関連のエンジニアとしてF1開発などに従事していた経験も持つ。その林氏は11年にソフトバンクグルーブの孫正義社長が開く後継者育成機関「ソフトバンクアカデミア」に第1期外部生として参加。その後、12年に孫社長から誘いを受けてソフトバンクに入社し、ペッパーのプロジェクトに携わることとなった。

 実は、林氏はソフトバンクに入社しペッパーのプロジェクトに携わる間も、ソフトバンクアカデミアの講義も継続して受け続けていた。そのなかで孫社長の起業家精神を学び、起業したいという気持ちが芽生えていくことになる。そして15年7月のペッパーの一般発売を1つの区切りとし、15年9月にソフトバンクを退職。起業に向けた準備を開始し、15年11月にGROOVE Xを設立することになる。

GROOVE Xの林要氏

"パフォーマンスを上げるロボット"を開発中

 ではGROOVE Xはどんなロボットを開発しているのか。一言でいうと"人のパフォーマンスを上げる家庭用ロボット"である。そのイメージについて林氏は電子デバイス産業新聞のインタビューでこう語っている。

「人は誰しも人生に目的や目標を持って、その実現のために努力し成し遂げようとする。しかし、自分自身の行動をコントロールし、自らを律しながら努力することは非常に難しく、家族、恋人、友人のような、きっかけやモチベーションを与えてくれる存在が大きな助けとなる。我々が目指すロボットも、こういった存在と同様に利用者にきっかけやモチベーションを与え、人の持つ能力を引き出す存在となるものだ」

 ちなみにそのロボットと利用者は言語コミュニケーションでなく、非言語によるサブコンシャス(潜在意識、無意識)でのコミュニケーション、つまりは利用者とロボットが心の潜在的な部分でつながってコミュニケーションをとるという。

 そのロボットについて分かっていることは、ロボットのコンセプトネームが「LOVOT(ラボット、LOVEとROBOTを融合した造語)」で、サイズはソニーの「アイボ」より大きく、ペッパーより小さいという程度だ。

 開発は16年夏に第1期のプロトタイプが完成し、17年夏ごろから量産モデルの開発を進めている。今後は18年末までに開発を完了させて製品発表を行い、19年に出荷を開始する予定だ。

「LOVOT」は18年末の製品発表を予定

約80億円の出資を獲得

 GROOVE Xは一般的にはあまり知られていないかもしれないが、ロボット業界やハードウエアベンチャーからの注目度は非常に高い。ベンチャー投資会社からの出資額も国内ベンチャーとしては大規模なものを実施しており、16年1月ならびに同年9月に未来創生ファンド(スパークス・グループを運営者とし、トヨタ自動車、三井住友銀行を主要投資家とする20社の出資で運用)などから計14億2000万円の出資を獲得。そして17年12月、未来創生ファンドと産業革新機構(INCJ)がそれぞれ14億円を出資し、その他の出資も合わせて総額43億5000万円の資金調達を実施した。さらに一定の充足条件が達成された場合、INCJは上限21億円の追加出資を行う方針を示しており、資金調達額は累計で最大78億7000万円となる見込みだ。

 冒頭に述べた「GROOVE Xってどんな会社ですか」と質問をしてきた人に上記のような話をすると、決まって「本当にそんな製品ができるのですか」という言葉が返ってくる。そこには「そんなことが本当にできるのか」という不安と、「そんなロボットを早く見てみたい」という期待が入り混じっているようにも見える。ただ、プロトタイプを見た出資者の声などを聞くと、その評価は一様に高く、個人的にもGROOVE Xのロボットが筆者のパフォーマンスを上げてくれる日を今や遅しと待っている。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 浮島哲志

まとめにかえて

 日本にはいくつものロボットベンチャーが誕生していますが、そのなかでもGROOVE Xは有力な1社です。ベンチャー企業として異例ともいえる資金調達の額からもそれがうかがえます。「Pepper(ペッパー)の親権問題」と別の部分で注目を集めてしまった点も否定はできませんが、純粋に同社のポテンシャルには正当な評価がなされているのではないでしょうか。現在開発中のロボットはまだベールに包まれていますが、コンセプトを聞くかぎり、これまでの概念を大きく覆すような製品が出てくる予感がします。

 

電子デバイス産業新聞