受験勉強を頑張り、志望大学に入学し、就職活動も希望通りの会社に入社することができても、意外に見落とされがちなのは給与が業種によって大きく異なる点です。学生時代に就職活動をする際には、あまり意識していないかもしれませんが、社会人として経験を積むと意外にその差に悩むものです。

今回は、厚生労働省のデータをもとに、どの産業の賃金が高いのかについて見ていきましょう。

はじめに

今回の厚労省の調査は2017年2月22日に公表された「平成28年賃金構造基本統計調査の概況」をもとにしています。ここでいう賃金とは、平成28年6月分の「所定内給与額」を指しています。

また「所定内給与額」とは、労働契約などであらかじめ定められている支給条件、算出方法により6月分として支給された現金給与額のうち、時間外勤務手当、深夜勤務手当、休日出勤手当、宿日直手当、交替手当などの超過労働給与額などを差し引いた額で、所得税等を控除する前の額となります。

厚労省による産業分類とは

今回の厚労省のデータでは、産業を以下のように分類しています。

「工業・採石業、砂利採取業」、「建設業」、「製造業」、「電気・ガス・熱供給・水道業」、「情報通信業」、「運輸業、郵便業」、「卸売業、小売業」、「金融業、保険業」、「不動産業、物品賃貸業」、「学術研究、専門・技術サービス業」、「宿泊業、飲食サービス業」、「生活関連サービス業、娯楽業」、「教育、学習支援業」、「医療、福祉」、「複合サービス業」、「サービス業(他に分類されないもの)」

賃金が一番高い産業はどこか。意外な産業の賃金が高い

上の業種を見渡して「一番賃金が高い業種はどこか」と聞かれたら、「金融業か不動産業ではないのか?」と思う方が多いのではないでしょうか。

正解は、意外かもしれませんが「電気・ガス・熱供給・水道業」です。

主な産業別ですべての年齢階級(20から69歳まで)および男女計、企業規模計でいうと「電気・ガス・熱供給・水道業」の賃金は41.05万円となり、第1位となります。

「電気・ガス・熱供給・水道業」は、業種としてはインフラに関わる安定した印象のある産業ですが、賃金も恵まれているというデータ結果です。

では、第2位、第3位はどの産業でしょうか。

第2位は「教育、学習支援業」で、賃金は37.57万円です。また、第3位が「情報通信業」で、賃金は37.14万円となっています。上位3産業はいずれも内需関連産業といえます。

では、多くの方が頭に浮かべたかもしれない「金融業・保険業」はどうでしょうか。

「金融業・保険業」は皆さんの予想通り上位にランクインしています。賃金は36.98万円で、「情報通信業」には及ばないもの、ほぼ同水準です。

一方、賃金の低い産業は何でしょうか。

データ上では「宿泊業・飲食サービス業」の24.15万円となっています。

次いで低いのが「サービス業(他に分類されないもの)」が25.51万円。また、「生活関連サービス業、娯楽業」が25.53万円、「運輸業・郵便業」が27.70万円となっています。

ただ、これらの産業は、現在求人で苦戦している企業も多く、人手不足に直面している産業ともいえます。今後は労働力調達の困難さからくる人件費の上昇があるかもしれません。

65から69歳で賃金が上昇する産業とは?

多くの産業では、50から54歳、55から59歳の年齢階級をピークにその後は賃金が下落していきます。ところが、例外的に異なる傾向が見られる産業があります。

「医療・福祉」は55から59歳に31.89万円で、60から64歳に28.41万円に下がり、65から69歳には32.84万円と上昇します。資格が必要な産業という特性はあるものの、特殊な動きといえます。

まとめにかえて

業種ごとに賃金の差はあり、また賃金が最も高くなる年齢階級も異なることが分かります。業界ごとに収益性は異なるでしょうし、特に規制業種では収益性が高くなる傾向はあるでしょう。そして、収益性が高い産業や企業であれば、従業員への賃金の支払いも高くなるといえるのではないでしょうか。

賃金は労働者の付加価値が源泉ということは言うまでもありませんが、産業や企業の収益性が賃金に大きく影響せざるを得ないというのも事実でしょう。

当然、仕事は賃金だけで選ぶものではありませんが、産業ごとの特徴を理解したうえで就職や転職活動をするのも大切ではないでしょうか。

青山 諭志