日経などの報道で株価は一時、前日比+29%高に

2017年10月4日、ジャパンディスプレイ(6740)の株価は一時、前日比55円(+29%)高の286円にまで急騰しました。

このきっかけとなったのは4日、複数のメディアが同社の持ち分法関連会社であるJOLED(ジェイオーレッド)が有機ELパネル量産のための開発にめどをつけ、第三者割当増資により資金調達を行い、量産に向けた投資を行うと報じたことによります。

ちなみに、会社側は同日のニュースリリースで、8月に発表された中期計画で述べられたように、JOLEDで有機ELの量産に向けた検討が行われていることは事実であるものの、「当該報道の内容は当社が発表したものではございません」というコメントを出しています。

いずれにせよ、4日の株式市場の反応が過剰過ぎるのか、あるいは妥当なのかが気になります。そこで、このニュースを少し深堀りして考えてみたいと思います。

そもそもJOLEDとはどのような会社か?

JOLEDは、テレビ用有機ELパネルの量産に向けて開発を進めていたパナソニック(6752)とソニー(6758)の有機EL事業が、2015年に官民ファンドである産業革新機構(INCJ)の主導で統合され設立された会社です。

発足当初から現在に至るまで、出資比率はINCJが75%、ジャパンディスプレイが15%、ソニーとパナソニックがそれぞれ5%となっており、ジャパンディスプレイにとっては関連会社の位置づけになります。

2016年末には、ジャパンディスプレイがJOLEDに追加投資を行い2017年末までに連結子会社とすることが決められましたが、その後のジャパンディスプレイの業績悪化により、この計画は2017年6月に撤回され、現在、増資を行うかどうかは未定となっています。

なお、今年6月にジャパンディスプレイの代表取締役会長兼CEOに就任した東入來信博氏は、2015年からJOLEDの社長を務めていました。

印刷方式と蒸着方式の違いとは

ところで、9月半ば、アップルの新型アイフォーン(iPhone X)には有機ELパネルが搭載されることが正式発表されました。そのため、今回のニュースもスマホ向けのものと思われた方も多いかと思いますが、実はそうではなく、テレビやパソコンなど大きなサイズの有機ELパネルの量産に関するものです。

ここで理解が必要なのは、有機ELの製造方法には印刷方式と蒸着方式の2種類があるという点です。

有機ELは、ガラスやプラスチックなどの基板上に形成された有機EL材料(EL層)が自ら発光するディスプレイですが、このEL層の作り方は、真空状態で材料を気化させて形成する蒸着方式と、プリンターのように発光素子を塗布して行う印刷方式の2種類に大きく分かれます。

既にスマホ向けなどに小型の有機ELパネルを量産しているサムソン電子は、前者の蒸着方式を採用しています。また、テレビ用の有機ELパネルで先行しているLG電子は、白色有機EL膜を蒸着方式で製造しています(注)

これに対して、今回のニュースで取り上げられた印刷方式については、現時点で量産化に成功しているメーカーはありません。

印刷方式の量産化技術が確立されれば、コスト面で優位になる(特に大型パネルで)とされているため、量産に十分耐えられだけ技術面での課題がクリアされたということであれば、今回のニュースは画期的なものということになります。

注:LG電子のパネルは白赤緑青のWRGBのカラーフィルターと組み合わせた「白色有機EL+カラーフィルター」方式とも呼ばれており、サムソン電子の有機ELパネルとは仕組みが異なるものです。

今後の注目点

今後の注目点としては以下の3点が考えられます。

第1は資金調達です。今回の報道によれば、JOLEDは、ソニー、キヤノン(7751)、富士フイルムホールディングス(4901)、ニコン(7731)、住友化学(4005)などの部材メーカーや製造装置メーカーなどに資金拠出を打診中とのことですが、これらの企業から目論見通りに賛同を得られるのかが注目されます。

第2は今後の量産計画です。ジャパンディスプレイは8月に発表した中期計画において同社の能美工場をJOLEDが活用する考えを表明しており、今回の報道でも2019年から同工場で生産が行われる可能性が報じられています。今後は、同工場でどのようなサイズの製品が、どの程度の規模で生産されることになるのか注視したいと思います。

第3は、最も重要なポイントですが、今後のジャパンディスプレイ本体の動向です。同社では、スマホ用の有機EL(蒸着方式)は本体で、パソコンやテレビ用の有機EL(印刷方式)はJOLEDで行う方針を示しています。今回の報道により、その方向性が一段と明確になったと考えられるものの、肝心の本体の再建はこれからが本番です。

8月の中期計画では、固定費削減のために構造改革を行う一方で、経営資源をモバイル(スマホ用有機ELを含む)、車載事業などの成長分野に投入し、2019年度に営業利益400億円、営業利益率5%を達成する計画を発表しています。

印刷方式と蒸着方式、両方の有機ELという「二兎を追う」戦略が期待通りの成果を示すのか。4日の株価の大幅高に惑わされず、今後の行方を冷静に判断していきたいと思います。

LIMO編集部