中国が仮想通貨への規制を強める一方で資本流出規制の緩和に動いています。人民元への影響を念頭に置きつつ、これらの動きのポイントを整理してみました。
仮想通貨への規制強化は党大会を控えた危機管理か
中国人民銀行(中央銀行)は4日、仮想通貨を発行して資金を集めるICO(イニシャル・コイン・オファリング)を禁止すると発表しました。続いて、8日には仮想通貨の取引所を当面閉鎖するとの計画が報じられています。
こうした一連の報道を受けて、ビットコインをはじめとするデジタル通貨が急落しています。
仮想通貨を通じた海外への資金流出やマネーロンダリング(資金洗浄)、金融詐欺は中国のみならず世界の金融当局の頭痛の種となっています。
こうした中で、中国では10月に党大会を控えていることから、仮想通貨を巡って多額の詐欺事件などが発生している現状を踏まえて、金融市場に混乱を招きかねない事態を未然に防ぎたいとの思惑が規制強化の動きにつながっている模様です。
フォワード取引の準備金撤廃で資本流出規制を緩和
また、中国人民銀行は11日から人民元のフォワード取引の準備金を撤廃しました。
中国では2015年10月、人民元の下落と海外への資本流出を防ぐことを目的に、ドルを買う際には取引金額の20%を準備金として積み立てることが義務付けられました。
撤廃によりドルを買う際のコストが低下することから、今後はドルは買いやすく、人民元は売りやすくなります。
市場では、今回の規制緩和を人民元と資本逃避に対する中国政府の自信の現れと受け止めて歓迎しています。
人民元は2014年以降、2016年まで3年連続で下落していましたが、2017年は一転して大きく上昇し、現在は2015年以来の人民元高水準となっています。
また、9月8日現在、人民元は年初来で7%上昇していますが、7月以降だけで5%上昇しており、過去10年で最も速いペースでの上昇となっています。規制緩和は急ピッチで進む人民元の上昇を抑制することも視野に入れている可能性がありそうです。
一方、外貨準備高を見ると7月まで6カ月連続で増加しています。中国は人民元の下落を防ぐため“ドル売り・人民元買い”の介入を断続的に実施してきましたので、ここ数年は外貨準備が減少傾向にありました。
外貨準備が増加に転じたことは、人民元を支えるための介入の必要がなくなったこと、国内の資金が海外へ流出する懸念が薄らいだことを示唆しています。
仮想通貨規制と人民元上昇圧力の関係
資本流出規制の緩和は、仮想通貨の規制強化による人民元の上昇圧力を和らげると見られています。
そもそも中国で仮想通貨が人気となっている背景には、為替取引にさまざまな規制を設けて管理フロート制を実施していることが挙げられます。
人民元の下落に備えて、資産をドルに替えたくても自由にはできなかったことから、仮想通貨がその受け皿になったということです。
この場合、人民元と仮想通貨の値動きは逆相関、すなわち人民元が上昇すれは仮想通貨が下落する傾向にあることが見込まれます。
したがって、仮想通貨への規制を強化し、仮想通貨が下落した場合、人民元には上昇圧力が働くことが予想されます。
人民元取引が規制されたままですと、流動性が枯渇して市場が混乱する恐れがあります。仮想通貨への規制強化で行き場を失ったマネーが人民元へと還流した場合、流動性が枯渇していると人民元が急騰してしまう恐れがありますので、規制を緩和して流動性を高めることは理にかなっていると言えそうです。
米中通貨戦争への布石か?
資本流出規制の緩和は中国の懸念が人民元の下落ではなく上昇に転じたことをほのめかしていますので、人民元取引の規制緩和は米中通貨戦争の呼び水となる恐れもありそうです。
中国はこれまで、自国通貨の下落に歯止めをかけることに苦慮していたこと、そして党大会を控えていたことから、米国との争いを回避してきた節があります。
しかし、最近では人民元高による国際競争力の低下やデフレ圧力を懸念する状況へと変化しています。
これまでは人民元安を食い止めたい中国とドル高を懸念する米国とは思惑が一致していましたが、中国が自国通貨安を模索するようですとこの蜜月を維持することは難しくなりそうです。
北朝鮮を巡る対立もあり、10月18日からの党大会に前後して中国が対米強硬路線に舵を切ってもおかしくはありません。
その一方で、トランプ大統領はもともと対中貿易赤字を問題視しており、北朝鮮情勢では中国が期待していた役割を果たしていないことにも不満を募らせています。
中国への風当たりが強まっており、10月中旬に予定されている米為替報告書をきっかけに人民元を巡る論争がヒートアップする可能性も否めないでしょう。
党大会や為替報告書を注視
10月の党大会を目前に控え、金融の安定を脅かすとの考えから中国では仮想通貨への規制が強化されています。
その一方で、資本の流出規制が緩和されており、人民元安の脅威が薄らぎ、むしろ人民元高が懸念され始めたことから中国の人民元安志向への転換を匂わせています。
中国が人民元安を容認した場合、対中貿易赤字を問題視する米国からの非難は激しさを増すことが見込まれます。
10月18日からの党大会や10月中旬の米為替報告書が人民元を巡る論争のきっかけとなるかもしれず、要注意となりそうです。
LIMO編集部