金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」によると、世帯主の年齢が60歳未満の世帯のうち、老後の生活が「心配である」と回答した世帯の割合は84.5%でした。
昨今の物価高では思うように貯蓄が進まず、ますます不安を募らせることも考えられます。
将来の生活に不安を感じている中で、リタイヤを目前に控えた夫婦の貯蓄はいくらなのでしょうか。
本記事では、定年前の夫婦の貯蓄額と老後に向けた資産形成がなぜ必要なのかをあわせて解説します。
リタイヤ夫婦の貯蓄はいくら?
総務省が公表する「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2021年(令和3年)平均結果-(二人以上の世帯)」によると、65歳以降・無職世帯(二人以上世帯)の貯蓄平均は2342万円でした。
別の調査である金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯・金融資産を保有していない世帯を含む)」によると、60歳代の貯蓄額の平均値は1819万円、中央値は700万円となっています。
しかし、およそ5世帯に1世帯は、金融資産を保有していません。
リタイヤ時期に資産がないリタイヤ夫婦がいる中、なぜ資産形成が必要なのかを確認していきましょう。
老後に向けた資産形成が重要な理由
老後を迎えたリタイヤ夫婦の貯蓄額を見ると、老後に向けた資産形成ができている世帯と、そうでない世帯に分かれています。
では、なぜ老後の資産形成が重要なのでしょうか。
その理由は、老後生活では、以下の項目がリスクとして存在しているからです。
- 理由1:資産寿命ゼロ問題
- 理由2:生活保護受給者の割合
2つのポイントについて、それぞれ確認していきましょう。
1. 資産寿命ゼロ問題
資産寿命ゼロ問題とは、生命寿命を迎える前に、手元の貯蓄や資産をすべて切り崩してしまった状態に陥ることです。
厚生労働省が2022年7月29日に発表した「2021年簡易生命表」によると、男性の平均余命は「81. 47年」で、女性は「87. 57年」となりました。
65歳で仕事を退職してリタイヤ生活に入った場合、老後の期間は男性で約16年、女性で約22年となります。
2000年の平均余命は男性で77.72歳、女性は84.60歳なので、平均余命は徐々に伸びている状況です。
一方で、金融庁が2018年7月3日にまとめた「高齢社会における金融サービスのあり方」では、高齢世帯の金融純資産が、過去20年間ほぼ横ばいと報告しています。
つまり、平均余命は伸びているものの、金融資産の保有額が伸びていません。
そのため、金融資産が老後生活の途中で枯渇してしまい、公的年金での生活をせざるをえなくなります。
資産寿命をどこまで伸ばせるかが、老後の生活のポイントになるでしょう。
2. 生活保護受給者の割合
生活保護の受給者の観点からも、資産形成の重要さがうかがえます。
厚生労働省は2022年6月3日に「生活保護制度の現状について」を発表しました。
生活保護を受給している人は約204万人で、そのうち52%の105万4581人が65歳以上です。
65歳以上の受給者が増え続けている点からも、老後の生活で貯蓄を切り崩し、資産が枯渇した人が増えていて、厳しい生活になっているでしょう。
老後の資産形成で留意すべきポイント
老後の資産形成で注意すべきポイントは、次の3つです。
- ライフプランニングを実施
- 資産形成の有効性を認識
- 少額で安定的な資産形を実施
それぞれのポイントについて確認していきましょう。
1. ライフプランニングの実施
老後に向けて、貯蓄目標をいくらにするのか、今後の生活で必要な貯金額はいくらかといった、具体的なプランを計画しましょう。
まずは、どれくらいの準備期間で何をすべきかを明確にしておくことが大切です。
2. 資産形成の有効性を認識
金利が低い対象にお金を預けるのではなく、お金に働いてもらう資産形成が有効な老後の対策であると認識することも重要です。
「長期投資」「分散投資」を心がければ、より安定的な資産運用が期待できると理解しましょう。
3. 少額で安定的な資産形成を実施
少額で継続的に資産形成を実施します。
NISAやiDeCoといった方法が代表的ではありますが、通常の投資信託を含めて幅広く検討すると良いでしょう。
老後の資産形成は各世帯に応じた対策をしましょう
老後の資産形成は「どのような方法で」「いつまでに」「いくら」準備すべきかを決めましょう。
資産寿命や生活保護の問題など、老後の生活は今後も厳しくなると予想されます。
各世帯の収入状況や生活状況を踏まえて、理想の老後生活が送れるように計画を立ててください。
参考資料
- 金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」
- 厚生労働省「2021年簡易生命表」
- 金融庁「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書」2019年6月3日
- 厚生労働省「生活保護制度の現状について」
- 総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)2021年(令和3年)」
川辺 拓也