投信1編集部による本記事の注目点
- 国土交通省によると、2016年度における宅配便の荷物数は前年度比7.3%増の40億1861万個(うちトラック運送は39億7780万個)に達し、2年連続で過去最高を更新しています。
- 配達ロボットでは英国のロボットベンチャーであるスターシップ・テクノロジーズの取り組みが目立ち、欧州最大級の食品配達会社である英ジャストイート(Just-Eat)では、同社の配達ロボットを活用したサービスが16年末から本格的に展開されています。
- ドイツのスーパーマーケット大手であるMETROグループ、大手ピザチェーンのドミノピザ、中国ではアリババに次ぐ規模を誇るインターネット通販企業のJD.comなども配達ロボット活用に取り組んでいます。
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最近、宅配荷物量の増加による配達員の業務負担増が大きな問題となっている。国土交通省によると、2016年度における宅配便の荷物数は前年度比7.3%増の40億1861万個(うちトラック運送は39億7780万個)に達し、2年連続で過去最高を更新。インターネット通販市場の拡大により、17年度以降も増加傾向は続くと見られている。こういった状況を受け、国内の運送企業からは配達員の労働環境の改善、指定時間配送の見直し、配送料金の値上げといった話が次々と出てきている。
配達業務の増加は日本に限った話ではなく、世界中で問題となっている。ただ、日本と違うのは配達におけるエレクトロニクス技術の活用、特に配達ロボットの実証が海外で急速に増えているということだ。
ラストワンマイルをロボットが配達
配達ロボットとは、店舗や運送企業の最終中継拠点から消費者までの商品配達、いわゆる「ラストワンマイル」の配達を行うロボットで、目的地を入力するとロボットが最適なルートを考え、歩道を時速4~5kmのスピードで、信号を判別し歩行者を回避しながら自律的に移動する。1回の充電で5km程度走行できるものが多く、1台あたり5~10kgの荷物を運ぶことができる。
大まかな利用の流れとしては、消費者がオンラインで商品や料理を注文し、店舗スタッフなどがロボット内の荷物スペースに注文品をセット。その荷物をロボットが消費者の家まで運び、スマートフォンなどに送られたアクセスコードを到着時に入力することで消費者は注文品を受け取れるというシステムだ。
海外で実証・導入相次ぐ
配達ロボットを手がける企業としては、英国のロボットベンチャーであるスターシップ・テクノロジーズの取り組みが目立つ。同社はロンドン、デュッセルドルフ、ベルンなど50以上の地域で実証を実施し、欧州最大級の食品配達会社である英ジャストイート(Just-Eat)は、スターシップ・テクノロジーの配達ロボットを活用したサービスを16年末から本格的に展開している。
そのほか、ドイツの配達会社であるHermes、同じくドイツのスーパーマーケット大手であるMETROグループなども配達ロボットを活用したサービスを進めている。さらに大手ピザチェーンのドミノピザも、ドイツならびにオランダにある店舗で、ロボットによるピザの配達を計画。中国ではアリババに次ぐ規模を誇るインターネット通販企業、JD.comが配達ロボットによる商品の配送実証を6月に実施するなど、世界各地で配達ロボットに関する取り組みが進んでいる。
自治体による法整備も進んでおり、米バージニア州では自律移動型ロボットによる荷物配送業務が7月より認可され、配達ロボットだけで歩道を通行させたり、横断歩道を渡らせたりすることが可能となった。また現在、同様の法案が米アイダホ州や米ウィスコンシン州でも検討されている。
日本でも「銀のさら」が実証へ
日本でも、7月に宅配寿司「銀のさら」を展開する(株)ライドオン・エクスプレス(東京都港区)が、ロボットや自動運転技術を開発する(株)ZMP(東京都文京区)と連携し、配達ロボットのプロトタイプを開発した。8月下旬から私有地内での実証実験を開始し、最終的には歩道での走行を目指す。
ただ、日本にはロボットが歩道を自動走行することを想定した法制度は存在しない。それどころか配達ロボットが道路運送車両法においてどのカテゴリーに区分するのかも決まっていないのが現状だ。
配達ロボットが電動シニアカーなどと同じ領域で区分されれば歩道走行が可能となるが、もし小型特殊自動車へ区分されると歩道を走行できない。ライドオン・エクスプレスならびにZMPの関係者も「できるだけ早期に実用化したいが、規制緩和との兼ね合いになる」としており、技術面より規制面でクリアすべきハードルが多い状況だ。
ドローンは救援物資輸送
配達作業の代替手段としてはドローンを挙げる声もある。確かにドローンは配達ロボットに比べ速度が優れており、Amazon.comが16年末にドローンによる配達を英国で実施した例もある。
ただ、ロボットやドローンの関連企業に話を聞いたところ、ドローンでの商品配達に肯定的な意見はほとんど聞かれなかった。理由は大きく分けて2つあり、1つはドローンで持ち運べる荷物量が大きくないこと。地上を走行する配達ロボットは1回に10kg前後の荷物を運べるが、ドローンで10kgの荷物を運ぶ場合、機体がかなりの大型になり配達コストが高くなってしまう。
そしてもう1つの理由が安全性。配達ロボットの場合、走行中にバッテリー切れなどの問題が発生しても、ロボットが歩道で止まるだけで、仮に横転しても危険度はそれほど高くない。ただ、ドローンは飛行中に問題が発生した場合、空から機体が落ちてくることになり、危険性は配達ロボットの比ではない。
では、ドローンの配達が完全に駄目かというと、そうではない。救援物資を届けるといった災害時の輸送手段としては非常に有効である。例えば、豪雨により川が氾濫し「陸の孤島」となった地域に対し、物資を届けるといった際にはドローンの飛行性能が活かされる。
「ロボットショーケース」は海外が先行
日本政府などの試算によると、日本の生産年齢人口(15~64歳)は、今後20年あまりの間に1000万人減少すると見られている。こういった人口減少社会を見据え、現在、様々な分野でロボットが人間の作業を代替する検証・実証実験が行われており、配達分野に関してもライドオン・エクスプレスのような事例が出てきた。しかし、世界に目を移すと「ロボットで配達を代替できるかどうか」という段階ではなく、「ロボットを配達に本格的に導入するかどうか」の段階に入っている。
日本政府は、20年の東京オリンピック・パラリンピックを1つのめどに、日本が世界に先駆けて、様々な分野でロボットが実用化される「ロボット社会のショーケース」となることを目指している。しかし少なくとも配達ロボットに関して、現状のままでは「ショーケース」となる可能性は非常に低いと言わざるを得ない。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 浮島哲志
投信1編集部からのコメント
配達におけるロボットの活用は、本記事で紹介されているように各国で進んでいます。その特徴は、主導しているのがロボットメーカーというより、物流や小売り業など何かを効率的に運ぶインセンティブのある企業だという点です。日本でもハードウェアの強みだけで物流ロボットを推し進めるのは難しいでしょう。今後どの企業が主体的に動き出すのかが注目されます。
電子デバイス産業新聞×投信1編集部
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