サブリースの儲けの仕組みと約束された破綻
今年2月、家賃収入は10年変わらない契約でアパートを建てたのに、6年後に減額されたとして、愛知県の男性があるサブリース大手業者を訴え、同様のトラブルで全国100人以上のオーナーが一斉提訴を検討していると報道され業界に激震が走った、いわゆるサブリース訴訟問題。
なぜ、このようなサブリーストラブルが後を絶たないのか?
実は、そもそも日本でのサブリースという仕組み自体が、長期存続不能な設計になっているからなのです。
家賃保証(サブリース)というシステムができたのは1980年代半ばですが、その数が爆発的に増えたのはバブル以降の1990〜2000年くらいまでの約10年間。この当時はバブル崩壊によって建築費や金利が下がり新築コストが大幅に下がったため、大量にアパマンが供給された時代でした。
一方で、初めてアパマン経営を始める大家さんが多く「誰でもできる賃貸経営のシステム」として、家賃保証が大量に売れた時代だったのです。アパマンを売る業者サイドも、家賃保証をしてもらえば誰でも片手間で不労所得が得られる!とうたいつつ営業するのが常識でした。
当時は、建築コストはもちろん、いかに高い保証率の家賃保証ができるか(または高保証率の保証会社をつけられるか)が受注を左右する時代でした。
募集家賃の90%保証はあたりまえ、そこからどれだけ保証率を高められるかが受注の鍵をにぎっていました。
たとえば、募集家賃が10万円で保証率が90%であれば、1万円を保証料として業者が受け取り、残りの9万円を大家さんが受け取るということです。
この保証率が92%になると、8千円の保証料となり残りの9万2,000円を大家さんは受け取ることになります。しかし、家賃の保証率が92%以上になると、空室率の関係で業者はほとんど儲けはでません。しかし、その分、敷金、礼金、更新料等はすべてサブリース業者の収入になります。
つまりサブリース業者は家賃保証だけではなく、一時金収入も含めたトータルとして利益を出す構造になっているわけです。
サブリース業者儲けのトリック
90年代はアパマンバブルでしたので、サブリース業界への参入も多く、サブリース業者は常に競争させられる存在でした。当然、高い率で保証してしまうと利益が出ません。そこで、彼らは2つのトリックを仕込みます。
1つ目のトリックは、相場家賃より低い募集家賃の設定です。
たとえば、相場家賃より低い募集家賃を大家さんに提示します(相場が10万円のところ9万5,000円など)。
当時は、家賃相場を検索するポータルサイトも充実していませんでしたから、素人の大家さんには家賃相場なんてよくわかりません。一方、家賃保証率の相場は90%が一般的でしたから92%で保証するといえば、一瞬魅力的に見えます。しかし相場より低い家賃設定での募集ですから、実際の家賃相場からすれば90%程度の保証になるわけです。
2つ目のトリックは、実際の募集は相場家賃かそれ以上で募集し、設定家賃との差を稼ぐことです。
先ほどのように9万5,000円の設定家賃だとしても、大家さんとはこの家賃の92%を保証しますよ、と契約しているわけであって、実際の入居募集ではこの設定家賃よりも高く貸すのが常識です。つまり家賃保証の前提になる設定家賃より10%くらい高い家賃で募集し、上積み利益を得るわけです。具体的には次のようになります。
設定家賃9万5,000円 ×(1 − 92%保証)=業者利益7,600円・・・A
募集家賃10万5,000円 − 設定家賃9万5,000円=募集差利益1万円・・・B
A+B=合計利益1万7,600円/戸・月
当時は人口も右肩上がりでしたし、竣工後即満室というアパマンが多かった時代なので、高保証率で契約したサブリース業者も、実際には契約家賃と募集家賃との差益で十分儲けることがでたわけです。さらに、敷金、礼金、更新料等はすべてサブリース業者のものになりますから、これらも重要な収入源になっていました。
しかし、2000年代に入り、次第にサブリース業者の隆盛は衰えていきます。というのも、供給過剰、人口増加の鈍化により空室率は拡大。それにともなって家賃相場が下がり始めてきたためです。
さらに収入の減少、ITバブルの崩壊にともなうリストラで家賃滞納も増加するようになってきます。当然、敷金、礼金もかつてのように取れなくなり、サブリースの旨味がなくなってしまったのです。