2つのポジティブなニュースで株価は急騰

2017年3月14日、決算再延期の可能性が伝えられた東芝がザラ場で大幅安となったのとは対照的に、三菱重工(7011)の株価は一時、前日比8%の大幅高となりました。

時価総額が1.6兆円もある三菱重工のような大型株としては異例の株価上昇率ですが、今回は2つのニュースが好感されたと考えられます。

米国原子力訴訟で三菱重工の主張が認められる

第1のニュースは、14日寄り付き前の8時40分に「米国サンオノフレ原子力発電所に係る仲裁裁定受領に関するお知らせ」と題する適時開示を発表し、同社の主張が国際商業会議所(ICC、本部フランス)に認められたと明らかにされたことです。

訴訟内容は、2012年に米カリフォルニア州サンオノフレ原子力発電所で、同社が納入した蒸気発生器から放射性物質を含む水が漏えいした事故に関するものです。

同原子力発電所は1980年代前半にスイスに本社を置く多国籍企業のABB(注)により建設されたPWR型の発電設備であり、三菱重工は老朽化した既設品の置き換えとして当該の蒸気発生器だけを納入していました。

注:ABBは1990年代後半に原発事業から撤退し、同事業は英BNFL社を経てウエスチングハウスに統合されています。

当初は交換工事での対処が検討されましたが、その後、周辺住民からの反対運動などにより廃炉が決定したため、同社は同原発を運営する電力会社等から66億6,700万ドル(1ドル113円換算で約7,500億円)もの巨額の損害賠償請求を受けていました。

これに対して同社は、契約時点での責任上限は約1億3,700万ドル(約155億円)と決まっているため訴えは無効であるとしてICCに仲裁を求めていました。今回、同社の主張が認められ、既に支払った費用や金利等が勘案され最終的には1億2,500万ドル(約140億円)の支払いで解決することになりました。

株式市場では、三菱重工の訴えが認められなかった場合、7,500億円という巨額の賠償が発生するだけではなく、同社の今後の海外インフラビジネス全般に悪影響が及ぶことを懸念していました。そのため、ICCの決定は素直に好感されたと考えられます。

なお、ICCの決定は日本に例えれば最高裁判所の決定にも相当するものとされていますので、今後この決定が覆される可能性は極めて低いと考えられます。

造船事業の改革が進展、分社化時期の具体化も

第2のニュースは、2017年3月14日付けの日本経済新聞で、造船事業について2019年3月期に三菱重工本体からの分社化とアライアンスパートナー(今治造船、大島造船、名村造船)からの出資受け入れを検討していると報じられたことです。

同社の造船事業は、客船世界最大手カーニバル傘下のドイツのアイーダ・クルーズから2011年に受注した2隻の大型客船建造における大幅な納期遅れのために、2016年3月期末までに累計で2,000億円を超える大幅な損失を計上しています。

今年2月に開催された決算説明会でも、同事業の抜本的な改革を行う考えが表明されていました。今回の記事では分社化の具体的な時期が示唆されたため、株式市場では改革への取り組みが進展しているとして好感されたと考えられます。

懸案も残る今後の注目点

上述の2つのニュースは極めてポジティブに受け止められますが、まだ大きな懸案は残っています。具体的には、日立製作所と南アフリカで建設中の火力発電事業における係争とMRJの開発遅れです。

とはいえ、これまで4つもあった大きな懸案が2つに減ったという変化にも注目したいと思います。今回のICCによる仲裁決定によりバランスシートの大幅な悪化リスクが回避できたため、今後も同社は航空機や海外インフラなど長期間にわたるビジネスに腰を据えて取り組むことが可能になります。

また、客船事業の改革が進展することで、これまで同事業の問題解決に奔走していた優秀なエンジニアやプロジェクトマネージャーをMRJの立ち上げに振り向けることも期待できるでしょう。

いずれにせよ、今回の2つの朗報を活かして、同社の収益改善への取り組みが加速していくか注視していきたいと思います。

三菱重工の過去1年間の株価推移

和泉 美治