米経済は実はそれほど強くない? 雇用増の大半は高齢者

「雇用統計大幅増でも景気は減速」の理由を考える

2月の米雇用統計は2カ月連続でのポジティブ・サプライズとなりました。ただ、雇用者数が増勢を強めている一方で、米景気の拡大ペースは鈍化しています。賃金が伸び悩んでいることもあり、マーケットは気迷いムードです。

なぜ雇用の大幅な増加が景気拡大や賃金上昇につながっていないのか、雇用統計の数字を確認しながらちょっと大胆に探ってみましょう。

雇用の増勢加速は実体経済の動きに逆行

まず実体経済の動きを数字で確認すると、米GDP成長率は2015年の2.6%から2016年は1.6%へと低下しています。

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四半期ごとの動きでは2016年7-9月期の3.5%から10-12月期は1.9%へと低下。1-3月期の見通しは3月8日現在のGDPナウが1.2%、バークレイズも7日現在で1.6%と予想しており、今年に入っても成長は鈍化している模様です。

一方、米雇用者数の増減を12カ月平均で見ると、2015年2月の26.1万人増をピークに2016年12月には18.7万人増まで増加幅を縮小しています。また、昨年12月までの3カ月平均では14.8万人増でしたので、過去2年間のトレンドは20万人を超える増加から15万人程度まで増勢が鈍化していたことを示しています。

しかし、2017年に入ると、1月の23.8万人増に続き、2月も23.5万人増となり、それまでのトレンドから一変して増勢を加速させています。

なぜ雇用と景気の動きは方向性が一致していないのでしょうか?

雇用増加のほとんどが高齢者

まず目につくのは雇用増加のほとんどが高齢者である点です。

家計調査によると、2月までの1年間で就労者数は148.5万人増加しましたが、このうち69.2万人(47%)が55歳以上とほぼ半分を占めています。最近2カ月間では、全体の41.7万人増に対し55歳以上は31.0万増と74%を占めています。

また、2月の65歳以上の労働参加率は24.4%と1年前の23.9%から上昇しています。

高齢者の雇用拡大の背景には、退職に備えた貯蓄の不足があると考えられます。リタイアしたくてもできない高齢者が就業を継続している場合、そもそも貯蓄が不足しているわけですから活発な消費は期待できないのかもしれません。

”こっそり副業”が増加している?

経済的理由以外でのパートタイムの増加も気になるところです。

2月の雇用統計では、経済的理由でパートをしている人が前月から13.6万人減少した一方で、経済的理由以外でパートをしている人が28.6万人増加しています。

“経済的理由”とはフルタイムを希望しているにもかかわらず、パートタイムでしか雇用が見つからないということです。経済的理由以外でパートをしているということは、最初からパートを探していることを示唆しています。

また、仕事を掛け持ちしている人が増加傾向にあり、2月は前月比で26.0万人も増加しています。季節調整前の数字では、複数の仕事に就いている人の数は1年前と比べて52.6万人増加しています。

このうち、フルタイムで働きながらパートをしている人が52.4万人増加とほぼ100%を占めており、パートを掛け持ちしている人が増えているわけではないことがわかります。要するに、正社員として働きながら、空いた時間に副業をしているイメージとなります。

事業所調査では、複数の企業で働いている場合、同一人物であっても重複してカウントされます。雇用者数は給与明細書の発行に基づいて集計されていますので、2つの会社から別々に給与が支払われている場合、実際には1人でも“雇用されている人数”は2人になるということです。

ただ、パートタイマーの数は家計調査で把握されていますので、事業所調査の雇用者数と必ずしも一致するわけではありません。

こうした状況を踏まえると、雇用者数の大幅な増加は、老後に不安を抱えた高齢者がリタイアに備えてこっそりと副業に励んでいるだけなのかもしれません。高齢者がリタイアを遅らせ、空いた時間でバイトをしているのであれば、平均賃金や消費が伸びないこととも整合的と言えそうです。

働き盛りでの失業率が上昇

失業率が低下傾向にある中で、年齢別では35-44歳の階層で失業率が上昇しています。

35-44歳の2月の失業率は4.1%と前月比で0.2%ポイント、前年同月比で0.3%ポイントそれぞれ上昇しており、年齢別で失業率が上昇しているのはこの階層のみです。たとえば、16-19歳は前年同月比0.6%ポイント、20-24歳も同0.6%ポイント、55歳以上では同0.4%ポイントそれぞれ低下しており、若年層や高齢者ほど失業率は大きく低下しています。

相対的に賃金が高く、消費も活発であると考えられる中間年齢層での失業率上昇は、堅調な雇用情勢にもかかわらず、賃金の伸びが抑制され、消費も振るわない背景となっているのかもしれません。

不法労働者の取り締まり強化

トランプ政権では不法移民の取り締まりを強化しており、不法移民への依存が高いとされている農業、食品、建設、住宅などの業種では影響があるかもしれません。

建設業の雇用者数を見ると、2月は5.8万人増と1月の4.0万人増に続いて好調となっており、不法移民の取り締まり強化で建設現場での労働力不足が深刻化している現状を反映している可能性がありそうです。ただ、建設業が堅調な背景には暖冬の影響もあると言われています。

人種別の失業率を見ると、2月はラテン系が5.6%と前月比0.3%ポイント低下、アジア系も3.4%と同0.3%ポイント低下とそれぞれ大きく改善しており、この辺りにも不法移民の取り締まり強化の影響がうかがえます。

不法移民が合法な労働者へと置き換わった場合、雇用の増加は統計上での話となり、実質的には増えていない恐れがあります。また、不法移民は低賃金であることが多いので、低賃金労働者の割合が増え、平均賃金の上昇を抑制するとも考えられます。

同様に、実質的には“増加”ではなく“入れ替え”となりますので、統計上での雇用が増加している割に消費が伸びてこない可能性もありそうです。

雇用の増加が示すほどには米経済は強くない?

米国では雇用者数の増勢が加速している一方で景気の拡大スピードが鈍化しています。

注意点としては、雇用増加の大半が高齢者であること、消費を担う中間年齢層で失業率が上昇していること、フルタイム労働者による副業が増加していること、不法移民の取り締まりが強化されていること、などが挙げられます。

以上から判断すると、米経済には雇用者数の増加が示すほどの力強さはないのかもしれません。

LIMO編集部

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