年初から上昇が続く金価格。2月に入っても年初来の高値を更新しており、「押し目待ちに押し目なし」の状況ですので、買いのタイミングを逸してしまったと頭を抱える投資家もいるかもしれません。

そこで、「今から買っても大丈夫なのか?」という素朴な疑問に対する参考として、専門家の見方を中心にポイントをまとめてみました。

2017年の予想金価格は1,244ドル、はずれるリスクは昨年と同じ?

LBMA(ロンドン貴金属市場協会)が1月31日に公表したリポートによると、2017年の金価格見通しは1,244ドル(1オンス当たり、以下同)となっています。この数字は23名の専門家の予想をまとめたものです。

1月前半の平均価格1,181ドルから5.3%上昇する見通しとなっていますが、2016年の平均価格が1,251ドルでしたので、通年で見るとやや弱気な予想となっています。

最も警戒されているのはドル高であり、背景には米利上げがあります。FRB(米連邦準備理事会)は2017年に3回の利上げを実施する見通しとなっており、金利上昇によるドル高で金価格は下落すると考えられています。

ただし、このシナリオは昨年と同じです。昨年のリポートでも、2016年の金価格は1,103ドルと2015年の1,160ドルからの下落が予想されており、理由は今年とまったく同じでFRBが利上げをするからでした。

FRBは2015年12月に10年ぶりの利上げに踏み切り、2016年は年4回の利上げが見込まれていました。実際には2016年12月の1度しか利上げが実施されなかったことが、予想を大きくはずした理由といえます。

金価格は、2月8日に1,240ドル台まで上昇していますので、既に通年での平均予想価格に近くなっています。とはいえ、FRBの利上げ回数が3回未満となるのではあれば、見通し自体が上方修正となり、上値余地もあると言えるでしょう。

GFMSは1,259ドル、需要不足を懸念

LBMAの見通しで、ドル高に次いで懸念されているのが需要の弱さです。

GFMS(ゴールド・フィールズ・ミネラル・サービシズ)は、1月26日に公表した報告書で2017年の平均金価格見通しを1,259ドルとしています。

少なくとも2017年上半期中はドル高が逆風となること、アジアでの金需要に回復の兆しが伺えないことを懸念しています。一方、欧米での政治リスクが金価格をサポートするとしています。

この報告書で気になるのは圧倒的な需要の弱さです。2016年の供給は前年比2.7%増の4,525トンと小幅な増加にとどまりましたが、実需は20.0%減の3,349トンと急減しました。柱となる宝飾品需要の21.8%減が足かせとなっています。

宝飾品需要の落ち込みは世界最大の宝飾品需要国である中国と第2位のインドで顕著です。WGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)が2月3日に公表したリポートによると、中国の2016年の宝飾品需要は前年比17%減の629トン、インドは22%減の514トンとなっています。

供給から実需を引くと、1,176トンの供給過剰となります。ETFの買いや在庫の増加を加味した最終的な需給バランスでも569トンの供給過剰となっており、ETFが大量に買い越されたとしても供給過剰を解消することは難しい状況にあります。

このように、ファンダメンタルズ面での圧倒的な需要不足には警戒が必要となりそうです。

テべス氏が金価格に強気なワケ

2016年のLBMA見通しで最も近い予想をしたのはUBSのアナリスト、ジョニ・テべス氏でした。テべス氏の昨年の予想価格は1,225ドルで参加者中の最高値でしたが、2017年も1,350ドルと超強気です。

彼女の主張で特徴的なのは、投資家のポートフォリオに視点を置いていることです。昨年はテールリスク、すなわち起こる確率は低いが起こった場合の影響が大きいリスクに対処するために、保有ポートフォリオに金を加えることを正当化していました。

今年は、比較的低い金利やそれほど高くない成長率、政治リスクの高まりを考慮すれば多様な投資家がポートフォリオの一部として金を保有することを正当化できると述べています。要するに、何か特別なイベントが実際には発生しなくても、投資家がポートフォリオを多様化することで、金への投資需要は堅調を維持すると見ているわけです。

ドラッケンミラー氏、金を買い戻す

LBMAとは関係ないのですが、著名投資家のスタンリー・ドラッケンミラー氏が金を買い戻しています。同氏は、1992年のポンド危機の際にジョージ・ソロス氏とともにポンドを売って巨額の利益を得たことで知られています。

ドラッケンミラー氏は米大統領選挙の当日夜、保有していた金をすべて売却していました。トランプ政権でのメリット(規制緩和や税制改革)とデメリット(保護主義的な貿易政策)を比べるとメリットが上回るというのが主な理由でした。

しかし、その後はトランプノミクスが過大評価されているとの懸念が台頭する一方で、保護主義的な貿易政策のリスクが大きくなり、プラス面とマイナス面を足し合わせると、現状ではネガティブとの判断に至ったとのことです。

結局はドルの鏡、政治イベントを注視

専門家の見通しをまとめると、結局のところドルが重要であり、ポイントはFRBが握っていると言えそうです。

利上げが予定通り年3回となれば、現在の値位置(1,230ドル近辺)からの上値余地は乏しいかもしれません。ただし、昨年同様、利上げが先送りとなれば上値余地は残されていると考えてもよさそうです。

こうした中で、政治的イベントが波乱要因となり、一時的に金価格が急騰する場面が見られるかもしれません。LBMA見通しでは、2017年の最高値は平均で1,379ドルとなっており、イベントが発生すればこのレベルまでの上昇が期待できそうです。したがって、短期的な利ザヤを稼ぐのであれば、今から買っても決して遅いということはないでしょう。

2017年も欧州を中心に政治的に重要なイベントが続きますので、テべス氏が指摘するように、ポートフォリオの一部に金を取り入れる動きが正当化されるかもしれません。

トランプ政権の政策評価は専門家でも難しいのですが、当面は期待と懸念の綱引きが予想されます。期待が上回るのであれば金には逆風、懸念が上回るのでれば金には追い風と考えてよさそうです。

長期的な投資を考えるのであれば、中国やインドでの需要回復を待ち、需給バランスの改善を確認するべきかもしれません。ファンダメンタルズに変化がないのであれば、2017年の金投資はドル安に賭けていることと大きな違いが見られない恐れがあります。

 

LIMO編集部