今年最初のFOMC(米連邦公開市場委員会)が1月31日、2月1日に開かれます。

前回12月の会合で1年ぶりに利上げを再開したばかりですので、市場の関心は金融政策よりもトランプ大統領とイエレン議長がうまくやっていけるのかどうかにあるようです。

トランプ大統領はイエレン議長を再任する考えがない模様ですが、まだ正式に決まったわけではありませんので、今後の金融政策の舵取り次第では再任の目がないとも言い切れません。

トランプ政権はスタートと同時にドル高への懸念を強めていますので、イエレン議長の再任のカギを握るのはドルの行方となるのかもしれません。

ドル高を警戒するなら利上げには慎重に

イエレン議長は1月18日、「政策金利は年数回のペースで引き上げられ、2019年末までには3%になる」との見通しを示しました。3.0%に達するためにには、あと10回の利上げが必要ですので、今後3年間で毎年3回から4回の利上げを見込んでいるわけです。

一方、ECB(欧州中央銀行)は昨年12月に量的緩和の延長を決めており、日本はデフレに逆戻りしていますので、米国以外の主要国で利上げを実施できる状況にある国は見当たらず、世界的に見れば金融は緩和的な状況が維持される見通しです。

したがって、FRBが利上げを継続した場合、ドルと他通貨との金利差が拡大し、ドルが上昇することが見込まれます。

トランプ大統領は就任を目前に控えた1月17日、「ドルは高すぎる」と発言してドル高をけん制しています。FRBの低金利政策を“政治的”として批判していたことから、利上げを支持しているとの見方もありますが、一方で「(利上げで)ドル高となれば、大問題」とも発言しており、実際のところは低金利とドル安を望んでいる模様です。

次期財務長官に指名されたスティーブン・ムニューチン氏がウォール街出身であることから、ドル高政策が採用されるとの期待もありました。しかし、同氏は「長期的には強いドルが重要」とする一方で、「(ドル高は)短期的には悪影響」としており、ドル安を望むトランプ大統領と歩調を合わせる見通しです。

これまでの発言などから、トランプ政権がドル高を望んでいないことは明らかですので、FRBとしてもドル高を招きかねない利上げには慎重にならざるを得ないでしょう。

中国懸念も利上げを抑制か

昨年1月のFOMCでは、年初からのドル高と中国経済の失速懸念から「世界経済と金融動向を注意深く監視する」との文言が声明文に加えられ、米利上げ観測が後退するきっかけとなりました。

中国では、人民元は急落こそ一服していますが、短期金利が急騰するなど金融市場では不安定な動きが続いています。また、昨年の米利上げに前後して中国企業の借入れコストが急騰しており、社債のデフォルトリスクも高まっています。

こうした中で、米商務省は1月23日、中国製の大型タイヤが米国に不当に安く輸出されているとして最大22.57%の反ダンピング税率と同65.46%の相殺関税率を決定しました。

トランプ大統領は以前、中国からの輸出が米国内の雇用を奪っているとして、中国からの輸入品に45%の関税をかけると発言しており、今後も中国を揺さぶり続けることは間違いなさそうです。

ムニューチン氏は「財務長官に承認された場合、中国の為替操作問題を検討したい」としており、中国の為替操作国認定に前向きな姿勢を見せています。

FRBの利上げによりドル高・人民元安を招くことは、対中貿易赤字を問題視するトランプ政権には好ましくないと言えます。また、米利上げは中国発の世界同時株安のきっかけともなりかねず、中国リスクはFRBの利上げ抑制要因となりそうです。

ドル高で米GDPが予想外の急減速、ドル高懸念に拍車も

ドル高は既に実体経済への悪影響も確認されています。10-12月期の米国内総生産(GDP)は前期比年率+1.9%と7-9月期の+3.5%から急減速となり、事前予想の+2.2%も下回りました。

失速の主因は輸出の不振と輸入の増加にあり、ドル高が影響したことは疑う余地がありません。財の輸出が-6.9%と1年ぶりにマイナスに転落した一方で、財の輸入は+10.9%と大きく増加しました。この結果、純輸出の寄与度は-1.7%ポイントとなり、前期の+0.9%ポイントから一転してGDPを大きく押し下げています。

貿易赤字が拡大しても、国内景気が強いのであれば問題はないのかもしれません。ところが、米個人消費を見ると、4-6月期の+4.3%から7-9月期は+3.0%、そして10-12月期は+2.5%と伸びが鈍化しています。個人消費は減速しており、国内景気はそれほど強くないことを示唆しています。

こうした中で、ドル高により輸出が減って輸入が増えていることは、“米国第一主義”のトランプ政権には大問題となりそうです。

ドル高懸念を共有できれは再任の可能性も

トランプ政権では“米国製品を買い、米国人を雇う”ことがすべての政策の出発点となります。米国への輸出は米国内の雇用を奪うと考えられていますので、通貨政策はドル安が望ましいと言えるでしょう。

一方、FRBが予定通りに利上げを実施した場合、ドルが一段と上昇し、トランプ大統領とイエレン議長が衝突する恐れがあります。

したがって、FRBが新政権と良好な関係を築きたいのであれば、ドル高懸念を共有し、利上げに際してはドル高にも配慮する必要がありそうです。FRBが“政治的”にドル高を回避できるのであれば、可能性が低いとはいえ、イエレン議長の再任もあり得るかもしれません。

 

LIMO編集部