1月も下旬にさしかかりましたが、下落が続いた2016年とは対照的に、世界の株式市場には比較的落ち着きが見られます。
「トランプ次第」と静観を決め込む市場参加者が多いことに加え、最近発表される経済予想に楽観的な見方が多いことも背景にあるのかもしれません。そこに死角はないのか、以下の3つの記事から考えてみたいと思います。
IMFは2017年、18年の世界経済見通しを据え置き
2017年1月16日、国際通貨基金(IMF)は世界経済見通し(WEO)を発表しました。このWEOは、世界の機関投資家から比較的注目度が高い予想とされています。また、今回はトランプ氏が大統領選を制してから初めての発表であるため、具体的な内容を以下の記事からおさらいしておきたいと思います。
その予想内容ですが、前回の2016年10月時点の予想に対しては、2017年、2018年の世界成長率見通しは、それぞれ+3.4%、+3.6%と、前回予想が据え置かれています。
2017年の地域別予想は、先進国が+1.8%から1.9%へ上方修正された一方で、新興国は+4.6%から+ 4.5%へ下方修正されました。
また、先進国では米国、ユーロ圏、英国、日本が上方修正されていますが、新興国では中国が上方修正された一方で、ブラジル、メキシコ、インドが下方修正、ロシアが据え置きとなっています。
なお、米国については、上方修正はされたものの、「トランプ氏が公約している財政刺激策による米経済の押し上げ効果は小さいと想定するなど慎重な見方」が示されています。
このように、IMFの世界経済に対する見方は、楽観的な内容でありながらも比較的慎重な見通しとなっています。
出所:IMFの世界経済見通し、トランプ効果はどこまで反映されたか?(投信1)
原油価格は安定的な見通し
最近の国際エネルギー機関(IEA)の原油価格見通しからも、目先の株式市場の安定が予想されます。
原油価格は2014年半ばから急落し、これが株式市場の攪乱要因となりました。しかし、2016年前半を底に反騰に転じ、足元では安定的に推移しています。
この記事によると、「2017年には需要の増加も見られることから、年後半には需要超過に転じる見通しであり、減産が合意通りに実施されればさらに需給が引き締まることとなるため、原油価格は堅調に推移する」とIEAは予想しているとのことです。
また、こうした予想を前提にするならば、資源国が2017年の景気を牽引することも期待できそうです。ただし、米国のシェールオイル増産、中国の景気減速、減産合意が反故にされるなどのリスクには注意したいところです。
出所:1月の見通し 期待と現実の狭間で(ピクテ投信投資顧問)
「びっくり予想」にも楽観予想が多い
上の2つの記事を読むと、2017年は穏やかな年になりそうだという気持ちになりますが、毎年ウォール街で話題となるブラックストーン社のバイロン・ウィーン氏の「サプライズ10大予想」も比較的、楽観的(相場に対して前向き)なものが多かったことも注目されます。
今年の同氏予想の経済関連で特に注目されるのは、「トランプ新大統領の政策によって米成長率が3%を超え、物価は3%を超えて米長期金利は4%に近づき、ドル高となるが株価は12%上昇する」という以下の記事で指摘されているポイントです。
この楽観シナリオは、財政出動と規制緩和による経済成長が目論見通りに実現することが前提となりますが、現在の相場は、こうした楽観シナリオを織り込みにいこうとしていると見えてしまうのが悩ましいところです。このまま行くと、バブルに向かう、そんな予感すらもたらす内容だからです。
いずれにせよ、現在のマーケットは全体として、やや「楽観バイアス」がかかった状態にあることは確かなようですが、今さら申し上げるまでもなく2016年から「不確実性」が高まっていること、つまり予想もできなかったことが突然起きることがしばしばあった点には注意が必要です。
そのため、この記事で指摘されているように、「ユーロ崩壊の連鎖、北朝鮮難民問題、10年周期の経済・金融危機、異常気象による食料不足の深刻化」など、”とんでもないことが起こる可能性”についても頭の片隅に入れておきたいと思います。
LIMO編集部