魚の美味しい季節が到来

秋も終盤に差しかかり、冬が到来しつつあります。季節が変わると旬の食材も変わりますが、晩秋から初冬にかけては、魚が一番美味しい時期とも言われています。

もちろん、魚は1年を通して旬なものが多いのですが、この時期は特にその種類が多いようです。

ハマチ、イナダ、フクラギの区別は?

晩秋から初冬にかけて脂が乗り、刺身で食べると美味しい魚が、ハマチ、イナダ、フクラギなどでしょう。ところで、読者の皆さんは、この3つの魚の区別がつくでしょうか?

皆さんの住む地域にもよりますが、“ハマチ以外は聞いたことがない”という人が多いかもしれません。また、少数派かもしれませんが、“イナダなら知っている”とか“フクラギは知っている”という人もいると思われます。

実はこの3つは、呼び方が違うだけで同じ魚なのです。いずれも鰤(以下、ブリ)の子供(幼魚)の呼称です。

正確な定義があるわけではありませんが、成魚であるブリの体長80~90cmに対して、35~60cmくらいの幼魚を指しています。なお、60~80cmのものをメジロとかワラサと呼んでいます。

ブリは「出世魚」の代表格

このように、同じ魚で成魚と幼魚で呼び名が異なるのは「出世魚」だからです。出世魚とは、稚魚から幼魚を経て成魚まで、魚の成長に応じて異なる名前で呼ばれる魚を言います。

ブリはその代表格ですが、他にもスズキ、ボラ、マイワシなどが知られています。中でも、刺身で食するケースが多いという観点からは、ブリが最も有名と言えましょう。

また、鰆(サワラ)やカンパチも出世魚とする見解もありますが、まだ一般的とは言えません。なお、地域によって幼魚の呼称が若干異なるマグロは出世魚とは見なされていません。

ブリの幼魚の呼び方は全国各地でさまざま

話をブリに戻しましょう。出世魚としてのブリの特徴は、稚魚や幼魚の呼称の違いが広い地域にわたっていることです。スズキやボラも、その幼魚の呼称は地域によって異なります。しかし、ザックリ言えば、関東と関西くらいの分類でしかありません。

ところが、ブリの場合は関東、関西、東北、北陸、山陰、四国、九州等で異なっており、ここに全て列挙できないくらい多種にわたっています。

上で紹介した幼魚(35~60cm)で言うと、「ハマチ」は関西、四国、九州で、「イナダ」は関東、東北、「フクラギ」は北陸や北海道で主に使われています。ただ、同じ北陸でも、隣接する新潟(イナダ)と富山(フクラギ)で異なっているなど、その明確な区分けは薄れつつあるようです。

実際、関東でもハマチの方が一般的になっていると見られていますが、イナダで売っている魚屋さんやスーパーもめずらしくありません。

ハマチとフクラギは価値に違いあり?

また、その“価値”に関しても地域ごとで違いが見られます。ハマチは西日本では相応の高級魚の1つです。しかし、フクラギとなると、安価な魚の1つと見られています。

これは札幌の寿司店で聞いたのですが、一昔前まで北海道では多くの板前さんが、出刃の練習(注:魚をさばく訓練)のために使っていた魚がフクラギだったようです。毎日毎日フクラギを練習台にしていたということですから、かなり安価だったのでしょう。

幼魚の呼称は違っても「味」は一つ

近年、こうした出世魚の幼魚の呼称を徐々に統合していく動きが見られているようです。

これは、ブリという成魚の価格が全国で概ね同等なのに対して、前述したような幼魚の価格帯にバラつきがあることで、漁業への影響、とりわけ、養殖事業に偏りが生じるためです。また、増加の一途を辿る訪日外国人客が理解し難いという問題もあるようです。

しかし、呼称が違っても変わらないものがあります。それは「味」です。ハマチもイナダもフクラギも、味は同じです。

晩秋近い10月下旬、筆者が富山で食したフクラギの刺身(冒頭の写真)は、プリプリッとした食感が最高の美味で、なおかつ、値段は380円という安さでした。都心の店で食したら相当な値段のはずです。

これからは、全国どこでも旬の魚を安く食べられるような仕組みができることを願います。

 

LIMO編集部