国内中堅半導体メーカーのサンケン電気㈱は、取締役上級執行役員の髙橋広氏が新社長に就任する人事を発表した。現社長の和田節氏は退任後、取締役会長に就任予定。同社は一部事業の譲渡や拠点集約などを進めているが、一連の事業構造改革にめどが立ったことから、新体制に移行して成長戦略の実現を目指す。

単体収益改善へ、車載・白物家電に傾注

 社長交代は2021年6月下旬に開催予定の定時株主総会および、その後の取締役会の決議により正式決定する予定。髙橋氏は86年に入社し、技術本部でモーションコントロール分野の開発などに従事。主力分野の白物家電向けに用いられる高圧IPM製品の製品開発に貢献してきた。18年からはデバイス事業本部生産本部長を務めるなど、一貫して開発・生産分野を歩んできた。

 社長交代について、現社長の和田氏は中期の成長戦略に一定の道筋がついてきたとし、「(構造改革の)スピードをさらに加速させるタイミング」として新体制への移行が最適であると判断したという。また、新社長に就任予定の髙橋氏は「アレグロを除いたサンケン電気単体の収益性に問題がある」と指摘。米国子会社のアレグロマイクロシステムズは車載用センサーなどを主力とし、20年10月には米ナスダック市場に上場し、時価総額が親会社のサンケン電気を上回るという事態に直面している。

 和田氏も「アレグロの方が、企業価値が高いという歪な状況を早く解消する」としており、成長戦略の早期実現が求められている。具体的には車載・白物家電分野を主戦場と位置づけ、産業機器ならびに車載市場ではパワーモジュール製品の展開を強化する。

 現在、サンケン電気の上位株主にはシンガポール系のエフィッシモ・キャピタル・マネージメントや、香港系のオアシズ・マネジメントなど、「アクティビスト・ファンド」が名を連ねており、企業価値の早期向上が求められている。なお、2月にはエフィッシモが保有割合を現状の10%から最大30%に引き上げる追加取得を表明。この公開買い付け(TOB)に対して、賛同ではなく「中立」という意見表明を行っている。

パワーモジュールを強化、石川工場に新ライン

 無停電電源装置や通信基地局向け電源装置の生産子会社であるサンケンオプトプロダクツ㈱(SKO、石川県羽昨郡)を、白物家電や自動車、産業機器向けのパワーモジュールの新生産拠点に転換する。これに伴い、拠点運営を効率的に行うことを目的に、SKOと同一敷地内にある石川サンケン㈱を存続会社とするSKOの吸収合併を2021年4月1日に実施する。

 サンケン電気では、これまでパワーモジュール事業においては白物家電向けを中心に事業を展開してきたが、近年は自動車や産業機器向けにも注力。自動車のエアコン用コンプレッサーや電気自動車のメーンモーター向けで受注を獲得するなど、一部で成果を見せている。さらに、欧州半導体大手のSTマイクロエレクトロニクスともパワーモジュール分野で提携を行うことをすでに発表しており、製品ラインアップの拡充と市場拡大に力を入れている。

 生産子会社の石川サンケンは、SKOと同一敷地内に本社機能、自動車や白物家電向けパワーモジュールの生産を担当する堀松工場を有しており、半導体信頼性評価センターや物流センターが隣接している。これにSKOが事業転換することで堀松地区の第2工場として加わり、さらにはSKO工場内に「ものづくり開発センター」の機能を併設することで、国内でも有数のパワーモジュール生産拠点になるとしている。

 現在、SKOでは事業転換に向けた改修工事が21年4月の完了予定で進行中。閉鎖を予定している鹿島サンケン㈱(茨城県神栖市)から、自動車向けパワーモジュールの生産ラインを移管するとともに、複数パッケージを同一ラインで生産できる混流生産対応の次世代生産ラインを新設する予定。これらに必要な工場のクリーンルーム化や付帯・生産設備への初期投資として今後2年間で約35億円を計画している。これら一連の施策により、石川サンケンの生産規模を今後、約1.5倍に増やしていく計画。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳