この記事の読みどころ
米大統領選挙の民主、共和両党候補による第1回テレビ討論会が2016年9月26日(現地時間、日本は27日)行われました。民主党ヒラリー・クリントン氏と共和党ドナルド・トランプ氏により貿易や経済政策、人種問題、外交政策などをめぐる論戦が展開されました。第1回TV討論会はどちらの候補がポイントを稼いだかと問われれば、市場の反応を見る限りクリントン優勢であったと見られますが、どの点が印象的だったかをお伝えします。
なお、TV討論会の第2回目は10月9日、第3回目は10月19日の合計3回の開催が予定されています。
米大統領選TV討論会:クリントン、トランプ両氏の討論会が注目された理由
今回のTV討論会が注目を集めた理由は、次の3点です。
- 8月月初にはクリントン氏が支持率で8ポイント程度リードしていたものの、足元ではクリントン氏の健康問題が浮上したことなどもあり両候補者の支持率が僅差であること
- クリントン、トランプという良くも悪くもマスコミで有名な両候補の一騎打ちという役者が揃った討論会であったこと
- 現時点でどちらの候補者に投票するか態度未定が2割程度という調査(通常この時期は1割以下)もあること
このように、TV討論会の内容によっては今後の大統領選が大きく左右される可能性もあると見られていたためです。
どこに注目すべきか:テレビ討論会、市場の反応、健康問題、選挙人動向
今回のTV討論会は日本時間午前10時に始まったことから、市場の反応を確認しながら討論の優劣を判断することができる機会となりました。たとえば、日本の株式市場はクリントン氏が優勢なら上昇、反対にトランプ氏が優勢となると下落という反応が見られました。
為替市場では、ドル円についてはクリントン氏が優勢なら円安、反対にトランプ氏が優勢なら円高という反応でした。トランプ氏の貿易政策などを考慮して為替市場がこのように反応したと思われます。ただし、クリントン氏の政策が円安・ドル高を明確に示唆しているか判断に迷うところです。また、ドイツの銀行問題などリスク回避姿勢が高まる中、円が買われやすい環境であることから円の反応の程度(為替の振れ幅)は小幅でした。
むしろ、分かりやすかったのはメキシコペソです。国境に壁を建設すると豪語するトランプ氏が大統領となればペソ安が懸念される通貨だけに高い感応度(トランプ氏優勢ならペソ安)を示しました。討論会の間にペソ高が進行したことから、市場の見方はクリントン氏優勢と判断したと思われます。
次に、討論会の中で印象に残った点を述べます。
1点目は、健康問題が不安視されたクリントン氏ですが、不安は感じさせない受け答えであった点が印象的です。健康不安説が懸念された当時のテレビでの姿からはすっかり回復した様子です。討論終盤、トランプ氏がクリントン氏には大統領に必要な「スタミナがない」と指摘したことに対し、クリントン氏は自分が国務長官時代に経験した多忙なスケジュールをトランプ氏がこなすことができて初めて、スタミナについて語る資格があると反論、健康と同時に経験の有無にも触れています。
2点目はクリントン氏のメール問題ですが、今回、失点とはならなかったという印象です。クリントン氏がメール問題は自分のミスだったと認めた時間帯も市場の反応は落ち着いていました。ただ、クリントン氏はトランプ氏が納税申告書を公表していない理由をただしたのに対し、トランプ氏はクリントン氏が電子メールを公表すれば納税申告書を公開すると反撃するなど火種は両者に残っていると思われます。今後の展開には、注視が必要です。
最後に、政策についてはキャンペーン中に示してきた従来の立場を繰り返すにとどまり、新たな提言は見受けられなかった印象です。たとえば、法人税減税はクリントン氏が現実的ではあるが緩やかな減税を主張したのに対し、トランプ氏は大胆ながら実現性に疑問が残る主張となっています。
大統領選挙の選挙人の獲得予想を各種調査で見てみると、民主党が獲得する見込みの選挙人が共和党を上回っている模様です。フロリダやオハイオなど激戦州(優劣が拮抗している州)をすべて落とすことでもなければ、民主党のクリントン氏が選挙人の数で共和党のトランプ氏を、現時点では、勝るとの分析結果が見られます。
もっとも、TV討論会はまだ2回予定されているなど、最終結果は予断を許しませんが、少なくとも今回の討論会ではクリントン氏優勢が維持されたと思われます。