金融庁が2019年に公表した報告書に端を発した「老後2000万円問題」。働き盛りの現役世代にとっては、セカンドライフに向けた資産形成の重要性について考えさせられるものでしたね。

とはいえ、自分がシルバー世代になったとき、どんなことに、どれくらいお金が必要となりそうか、はっきりイメージしにくい、と感じる人も多いでしょう。「ひと月にどのくらい必要か」は、日頃の生活スタイルや、家族構成、健康面などさまざまな要因によって、個人差があるところではないかと思います。受け取れる年金額についても、現役時代の就労状況や年金保険料の納付状況で、これまた個人差があります。

ということで、今回は、60歳以上が、ひと月にどのくらい預貯金を取り崩しているのか、について、内閣府の意識調査の結果をもとに見ていきます。

60歳以上、「預貯金の取り崩し」をしている人はどのくらいいるの?

ここから、内閣府の「令和元年(2019年)度 高齢者の経済生活に関する調査結果(全体版)」より、60歳以上の人の、「預貯金の取り崩し」にフォーカスしていきましょう。

なお、同調査における「預貯金の取り崩し」は、臨時的、突発的な支出ではなく、「日常生活の支出の中で、収入より支出が多くなり、これまでの預貯金を取り崩してまかなうこと」を指しています。(※第3章 調査結果の解説

約半数が「生活費のため」に預貯金を取り崩している

同調査の「日常生活の支出の中で、収入より支出が多くなり、これまでの預貯金を取り崩してまかなうことがありますか。この中から1つ選んでお答えください」という質問では、調査対象全体の1775人のうち、13.5%が「よくある」、34.6%が「時々ある」と回答しています。実に、全体の約半数が、「取り崩しあり」となるわけですね。これを、年齢ごとに見ていきましょう。

「年齢ゾーン別」にみた、ひと月の預貯金の取り崩し額(男女計)

60~64歳(n=258):50.4%
65~69歳(n=391):54.2%
70~74歳(n=402):54.0%
75~79歳(n=344):48.0%
80歳以上(n=360):33.6%

80歳以上では約3割。その他の年齢ゾーンでは約半数が、「取り崩しあり」に該当するようですね。

この「取り崩しあり」と回答した人たちの、「ひと月の取り崩し額」について、次で見ていきたいと思います。

60歳以上、「預貯金の取り崩し」はひと月いくらくらい?

では、同調査中の、「この1年間の取り崩しは、平均して1か月にどのくらいでしょうか」に対する回答をみていきましょう。まずは全体(男女計、N=845)から。

年齢ゾーン別にみた、ひと月の預貯金取り崩し額

60~64歳(n=130)

  • 1万円未満・・・0.8%
  • 1~2万円未満・・・10.0%
  • 2~5万円未満・・・35.4%
  • 5~10万円未満・・・26.2%
  • 10万円以上・・・17.7%
  • 不明・無回答・・・10.0%

 

65~69歳(n=212)

  • 1万円未満・・・0.9%
  • 1~2万円未満・・・10.8%
  • 2~5万円未満・・・37.7%
  • 5~10万円未満・・・24.1%
  • 10万円以上・・・15.1%
  • 不明・無回答・・・11.3%

 

70~74歳(n=217)

  • 1万円未満・・・1.4%
  • 1~2万円未満・・・12.9%
  • 2~5万円未満・・・34.1%
  • 5~10万円未満・・・24.9%
  • 10万円以上・・・16.6%
  • 不明・無回答・・・10.1%

 

75~79歳(n=165)

  • 1万円未満・・・2.4%
  • 1~2万円未満・・・10.3%
  • 2~5万円未満・・・40.0%
  • 5~10万円未満・・・29.1%
  • 10万円以上・・・11.5%
  • 不明・無回答・・・6.7%

 

80歳以上(n=121)

  • 1万円未満・・・1.7%
  • 1~2万円未満・・・18.2%
  • 2~5万円未満・・・38.0%
  • 5~10万円未満・・・19.8%
  • 10万円以上・・・14.9%
  • 不明・無回答・・・7.4%

次は、「未既婚」別にみていきます。こちらは男女別にみていきます。

「未既婚」別にみた、ひと月の預貯金取り崩し額

【男性】結婚したことがない(=n15)

  • 1万円未満・・・―
  • 1~2万円未満・・・6.7%
  • 2~5万円未満・・・46.7%
  • 5~10万円未満・・・20.0%
  • 10万円以上・・・13.3%
  • 不明・無回答・・・13.3%

 

【男性】現在、配偶者がいる(=n347)

  • 1万円未満・・・0.6%
  • 1~2万円未満・・・10.1%
  • 2~5万円未満・・・36.6%
  • 5~10万円未満・・・27.7%
  • 10万円以上・・・15.0%
  • 不明・無回答・・・10.1%

 

【男性】配偶者と死別(=n21)

  • 1万円未満・・・―
  • 1~2万円未満・・・14.3%
  • 2~5万円未満・・・38.1%
  • 5~10万円未満・・・38.1%
  • 10万円以上・・・4.8%
  • 不明・無回答・・・4.8%

 

【男性】配偶者と離別(=n16)

  • 1万円未満・・・6.3%
  • 1~2万円未満・・・12.5%
  • 2~5万円未満・・・18.8%
  • 5~10万円未満・・・25.0%
  • 10万円以上・・・25.0%
  • 不明・無回答・・・12.5%

 

【女性】結婚したことがない(=n12)

  • 1万円未満・・・8.3%
  • 1~2万円未満・・・―
  • 2~5万円未満・・・50.0%
  • 5~10万円未満・・・25.0%
  • 10万円以上・・・16.7%
  • 不明・無回答・・・―

 

【女性】現在、配偶者がいる(=n301)

  • 1万円未満・・・1.3%
  • 1~2万円未満・・・16.3%
  • 2~5万円未満・・・35.9%
  • 5~10万円未満・・・21.9%
  • 10万円以上・・・16.3%
  • 不明・無回答・・・8.3%

 

【女性】配偶者と死別(=n110)

  • 1万円未満・・・3.6
  • 1~2万円未満・・・10.9
  • 2~5万円未満・・・40.0
  • 5~10万円未満・・・24.5
  • 10万円以上・・・10.0
  • 不明・無回答・・・10.9

 

【女性】配偶者と離別(=n23)

  • 1万円未満・・・―
  • 1~2万円未満・・・4.3%
  • 2~5万円未満・・・39.1%
  • 5~10万円未満・・・17.4%
  • 10万円以上・・・30.4%
  • 不明・無回答・・・8.7%

次は、「同居形態」別にみていきます。

「同居形態」別にみた、ひと月の預貯金取り崩し額

単身世帯(=n102)

  • 1万円未満・・・2.0%
  • 1~2万円未満・・・8.8%
  • 2~5万円未満・・・35.3%
  • 5~10万円未満・・・27.5%
  • 10万円以上・・・14.7%
  • 不明・無回答・・・11.8%

 

夫婦のみの世帯(=n366)

  • 1万円未満・・・0.8%
  • 1~2万円未満・・・10.9%
  • 2~5万円未満・・・36.9%
  • 5~10万円未満・・・26.5%
  • 10万円以上・・・14.8%
  • 不明・無回答・・・10.1%

 

二世代世帯(親と同居)(=n28)

  • 1万円未満・・・―
  • 1~2万円未満・・・10.7%
  • 2~5万円未満・・・10.7%
  • 5~10万円未満・・・42.9%
  • 10万円以上・・・25.0%
  • 不明・無回答・・・10.7%

 

二世代世帯(子と同居)(=n223)

  • 1万円未満・・・0.9%
  • 1~2万円未満・・・16.1%
  • 2~5万円未満・・・38.1%
  • 5~10万円未満・・・20.6%
  • 10万円以上・・・15.2%
  • 不明・無回答・・・9.0%

 

三世代世帯(親・子と同居)(=n26)

  • 1万円未満・・・3.8%
  • 1~2万円未満・・・11.5%
  • 2~5万円未満・・・46.2%
  • 5~10万円未満・・・19.2%
  • 10万円以上・・・11.5%
  • 不明・無回答・・・7.7%

 

三世代世帯(子・孫と同居)(=n73)

  • 1万円未満・・・5.5%
  • 1~2万円未満・・・12.3%
  • 2~5万円未満・・・42.5%
  • 5~10万円未満・・・20.5%
  • 10万円以上・・・15.1%
  • 不明・無回答・・・4.1%

 

その他の世帯(=n27)

  • 1万円未満・・・―
  • 1~2万円未満・・・11.1%
  • 2~5万円未満・・・37.0%
  • 5~10万円未満・・・29.6%
  • 10万円以上・・・14.8%
  • 不明・無回答・・・7.4%

次では「住居形態」別に見ていきます。

「住居形態別」別にみた、ひと月の預貯金取り崩し額

持家(住宅ローン返済中)(=n137)

  • 1万円未満・・・1.5%
  • 1~2万円未満・・・10.9%
  • 2~5万円未満・・・40.9%
  • 5~10万円未満・・・22.6%
  • 10万円以上・・・15.3%
  • 不明・無回答・・・8.8%

持家(住宅ローン返済なし)(=n627)

  • 1万円未満・・・1.0%
  • 1~2万円未満・・・12.0%
  • 2~5万円未満・・・36.2%
  • 5~10万円未満・・・26.0%
  • 10万円以上・・・15.3%
  • 不明・無回答・・・9.6%

 

賃貸住宅(=n72)

  • 1万円未満・・・4.2%
  • 1~2万円未満・・・16.7%
  • 2~5万円未満・・・37.5%
  • 5~10万円未満・・・19.4%
  • 10万円以上・・・13.9%
  • 不明・無回答・・・8.3%

 

その他(=n9)

  • 1万円未満・・・11.1%
  • 1~2万円未満・・・11.1%
  • 2~5万円未満・・・22.2%
  • 5~10万円未満・・・33.3%
  • 10万円以上・・・11.1%
  • 不明・無回答・・・11.1%

都市の規模ではどう違うのでしょうか?

「都市規模別」にみた、ひと月の預貯金取り崩し額

大都市(=n198)

  • 1万円未満・・・2.0%
  • 1~2万円未満・・・10.6%
  • 2~5万円未満・・・29.8%
  • 5~10万円未満・・・27.3%
  • 10万円以上・・・23.2%
  • 不明・無回答・・・7.1%

 

中都市(=n345)

  • 1万円未満・・・0.6%
  • 1~2万円未満・・・13.0%
  • 2~5万円未満・・・38.3%
  • 5~10万円未満・・・24.6%
  • 10万円以上・・・13.9%
  • 不明・無回答・・・9.6%

 

小都市(=n205)

  • 1万円未満・・・2.0%
  • 1~2万円未満・・・13.2%
  • 2~5万円未満・・・38.5%
  • 5~10万円未満・・・23.4%
  • 10万円以上・・・10.7%
  • 不明・無回答・・・12.2%

 

町村(=n97)

  • 1万円未満・・・2.1%
  • 1~2万円未満・・・10.3%
  • 2~5万円未満・・・43.3%
  • 5~10万円未満・・・24.7%
  • 10万円以上・・・12.4%
  • 不明・無回答・・・7.2%

さいごに「地域」別にみていきます。

「地域別」にみた、ひと月の預貯金取り崩し額

北海道・東北(=109)

  • 1万円未満・・・3.7%
  • 1~2万円未満・・・11.0%
  • 2~5万円未満・・・38.5%
  • 5~10万円未満・・・28.4%
  • 10万円以上・・・11.0%
  • 不明・無回答・・・7.3%

 

関東(=n243)

  • 1万円未満・・・1.6%
  • 1~2万円未満・・・10.7%
  • 2~5万円未満・・・39.5%
  • 5~10万円未満・・・22.6%
  • 10万円以上・・・17.3%
  • 不明・無回答・・・8.2%

 

中部(北陸・東山・東海)(=n157)

  • 1万円未満・・・0.6%
  • 1~2万円未満・・・12.7%
  • 2~5万円未満・・・26.8%
  • 5~10万円未満・・・29.9%
  • 10万円以上・・・19.1%
  • 不明・無回答・・・10.8%

 

近畿(=n128)

  • 1万円未満・・・―
  • 1~2万円未満・・・12.5%
  • 2~5万円未満・・・39.1%
  • 5~10万円未満・・・23.4%
  • 10万円以上・・・15.6%
  • 不明・無回答・・・9.4%

 

中国・四国(=n94)

  • 1万円未満・・・―
  • 1~2万円未満・・94%
  • 2~5万円未満・・・34.0%
  • 5~10万円未満・・・25.5%
  • 10万円以上・・・13.8%
  • 不明・無回答・・・10.6%

 

九州(=n114)

  • 1万円未満・・・2.6%
  • 1~2万円未満・・・12.3%
  • 2~5万円未満・・・43.9%
  • 5~10万円未満・・・21.1%
  • 10万円以上・・・9.6%
  • 不明・無回答・・・10.5%

さいごに

まさに「人生100年時代」の今。

定年の引き上げ、年金の受給開始時期の繰り下げなども段階的にすすめられています。終息の兆しが見えないコロナ禍ではたらく現役世代のみなさんにとっては、数十年先の老後のことなんて考えている余裕がない、という人も少なくないでしょう。

とはいえ、光陰矢のごとし。すぐに老後はやってきます。リタイヤ後の生活が、少しでも豊かなものになるよう、若い時期から資産形成への意識を高めておきたいものです。

【ご参考】貯蓄とは

総務省の「家計調査報告」[貯蓄・負債編]によると、貯蓄とは、ゆうちょ銀行、郵便貯金・簡易生命保険管理機構(旧郵政公社)、銀行及びその他の金融機関(普通銀行等)への預貯金、生命保険及び積立型損害保険の掛金(加入してからの掛金の払込総額)並びに株式、債券、投資信託、金銭信託などの有価証券(株式及び投資信託については調査時点の時価、債券及び貸付信託・金銭信託については額面)といった金融機関への貯蓄と、社内預金、勤め先の共済組合などの金融機関外への貯蓄の合計をいいます。

【参考】
令和元年度 高齢者の経済生活に関する調査結果(全体版)」内閣府
同調査「第3章 調査結果の解説」

池上 翠