教育事業に注力するカシオ
カシオ計算機(6952)というと、誰もが思い浮かべるのが耐衝撃性に優れた時計の「Gショック」だと思いますが、最近同社が注力しているのが教育関連事業です。
8月31日付けの日本経済新聞によると、同社は2019年3月期に主力の時計事業の営業利益を500億円(2016年3月期対比1.3倍)と見込む一方で、電卓や電子辞書などの教育関連事業の営業利益を150億円(同1.5倍)と、時計に次ぐ収益源に育てると報じられています。
主力は新興市場、だが国内にもまだ成長可能性が
正確な統計データはありませんが、各種報道によると同社の電卓や電子辞書は国内で既に8割程度の高シェアを確保しています。このため、教育関連事業の伸び代として最も期待が持てるのは新興国の学校向け関数電卓等です。
とはいえ、国内についてもあきらめたわけではありません。知恵を絞ることで、なお成長が期待できるからです。こうした観点で注目できる動きが、8月25日に発表されたニュースです。その内容は、カシオと旺文社、毎日新聞の3社が、外国人への“おもてなし英語力”を磨く「英語応対能力検定」を立ち上げることで基本合意したというものです。
「英語応対能力検定」の狙いとは
“おもてなし英語力”というのは、まだ聞きなれない言葉ですが、これは受験英語や、通訳を目指すための体系的で網羅的な高度な英語力ではなく、日本に訪れる外国人との最低限のコミュニケーションを円滑に行うための英語力です。
2015年の訪日外国人は1,973万人に達しましたが、政府はこれを2020年に4,000万人、2030年には6,000万人まで増加させることを目指しています。こうなると、外国人と接する機会は今よりも格段に増えることになります。
しかし、学校教育での英語が苦手であった人にとって、社会人になってから英語を学習することは苦痛以外の何ものでもないかもしれません。そうした悩みを解消するのが、この「英語応対能力検定」の狙いです。
目的は日常生活における英語力の強化
具体的には、この検定は、販売、宿泊、飲食、鉄道、タクシーという現場に対応した「業種別試験」と、「一般向け試験」という普段の生活で応対に困らない英語力の向上を目指す2種類の試験に分かれています。
検定方法は、パソコン、タブレットを使ったiBT(internet based testing)と呼ばれる方式が採用されているため、特定の試験会場に行かずに自宅や職場で受けることが可能です。また、スマホでの受験も検討中とのことです(現時点では詳細未定)。
試験には文法は含まれず、リスニングと会話の技術だけが評価されます。さらに、結果も合格・不合格ではなく、正答率に基づいた到達率で評価されるなど、学習意欲を持続させる配慮も取り入れられています。
ちなみに、第1回の検定は2017年3月に予定されています。発表資料によると、協賛企業には高島屋(8233)、ビックカメラ(3048)、ラオックス(8202)、セコム(9735)、ヒト・コミュニケーションズ(3654)など27企業・団体が挙げられています。
発表によると受験者数の目標は3年目で年間10万人、5年間で累計100万人とのことですので、協賛企業に勤めている方は当然として、それ以外の会社の方も今後“おもてなし英語”の習得を会社から求められる可能性が高いと推察されます。
ただし、上述のように学習意欲を持続させる配慮が取り入れられているため、試験に過度な警戒感を持つ必要はないでしょう。
まとめ
同社は、電子辞書をベースにした公認学習機器の開発・販売を行い、検定問題作成および公認教材を開発・販売する旺文社や、発行媒体と連動した普及・広報を担う毎日新聞とともに、この事業を推進していく計画です。
少子高齢化の影響で日本の学生の数は減少の一途ですが、こうした取り組みによって、国内の教育関連ビジネスを活性化できるか、大いに注目したいと思います。
和泉 美治