この記事の読みどころ

  • 8月18日に台湾の環球晶円(グローバルウェーハズ)※が米国の半導体ウエハー大手のサンエジソン・セミコンダクターを買収すると発表しました。低コストを武器にする台湾企業の動きが表面化した形です。
  • 翌日の東京市場ではSUMCO(3436)の株価が前日比+11.5%と大幅上昇、信越化学工業(4063)も上昇しました。半導体ウエハー業界を形成する世界的な6社から1社が減ることで、ウエハー価格の支配力が増すと株式市場が判断したためとの解説が目立ちました。
  • しかし、果たしてそうでしょうか。スマホの通信用半導体は高品質なウエハーが不可欠ですが、実質的に供給を行っているのは世界で3社です。それでも価格競争は激烈で、リーマンショック以降、一度も値上げが実現していない状況です。

※ 環球晶円(台湾)は台湾の太陽光パネル向けシリコンウエハーの最大手のシノ・アメリカン・シリコン(SAS)の子会社。SASの事業部が独立する形で2011年に発足し、2012年に旧東芝セラミックスの半導体向けウエハー事業であるコバレントマテリアルを買収した。

突然の買収案件発表に驚きと戸惑い

8月18日に半導体ウエハー業界で世界6位の台湾企業・環球晶円(グローバルウェーハズ)が、同4位の米国サンエジソン・セミコンダクターを6億8,300万ドル(約680億円)で買収すると発表しました。

サンエジソン・セミコンダクター株の買い付け予定価格は1株12ドルで、これは直近30営業日の同社平均株価に+80%のプレミアムを乗せた格好になります。両社の取締役会は合併を支持している模様で、第一印象としてはサプライズですが、事業環境を考えると戸惑いながらも何となくあり得る企業行動というのが筆者の感想です。

本当の理由は中国の国家プロジェクトへの対抗措置?

両社の半導体ウエハーはそれぞれ異なった特色があり、重複する製品は少ないと見られます。顧客面では、環球晶円がサムソン電子やTSMCなど、サンエジソン・セミコンダクターが欧州や韓国企業にそれぞれ強みを持っており、世界的な営業展開に期待が持たれているようです。

また、環球晶円とサンエジソン・セミコンダクター両社を合算した半導体ウエハーのシェアは17%となり、信越半導体(信越化学工業の100%子会社)、SUMCOに次ぐ世界第3位になることが報道等では強調されています。

現在、半導体シリコンウエハー企業は世界で6社にまで統合されています。一方、中国が国家プロジェクトとして半導体とその材料の国産化を推進しているため、今回の合併は台湾企業の環球晶円が危機感を抱いた結果とも解釈できるでしょう。なお、両社は各国の独占禁止法による審査を経て、買収を年内にも完了させたい意向です。

関連銘柄の株価は上昇したが、本当にポジティブなのか

この発表を受け、8月19日のSUMCO株は前日比+11.5%の911円、場中には年初来高値の944円まで上昇しました。信越化学工業も前日比+2.2%の7,298円を付けました。株価を見る限り今回の買収案件は市場でポジティブに受け止められたようです。

確かに世界市場で企業の数が6社から5社に減ることは、対半導体メーカーとの価格交渉には多少有利になるかもしれません。環球晶円の徐秀蘭董事長も、両社の合算シェア17%を20%にまで拡大することを視野に入れていると記者会見で述べています。しかし、事はそう単純ではないのではないでしょうか。

高精細な300mm半導体ウエハーは、信越半導体とSUMCO、独のシルトロニックの3社で、ほぼ世界市場の70~75%を押さえています。また、2016年3月以降の300mmウエハーは過去最高水準の出荷を続けていますが、なぜか値上げには至っていません。

たとえば、どこか1社が為替変動を利用した値下げでシェアを稼いだとしても、それで安心とは言えず、うっかり慢心していると競合にシェアを奪われるのがこの業界の特徴なのです。

8月19日の関連株の動きは、昨今の半導体市場の回復と関連はあると思われます。ただし、市場の寡占化が進んで価格交渉が有利になったとしても、決算内容の改善は簡単には進まないと見ています。この熱は意外と早く冷めるかもしれません。

 

LIMO編集部