本記事の3つのポイント

  •  コロナ禍で宅配・配達ニーズが拡大するなか、人手不足解消のためロボットの活用シーンが増えている
  •  アマゾンは一部地域での配送実証を経て、2つの州で配送サービスを正式に開始。中国でも「京東商城(JD.com)」を運営する京東集団が実用化に向けた取り組みを強化している
  •  日本国内でも検討が進められているが、すでに実用フェーズに入っている米国や中国に比べて取り組みは遅い

 

 コロナ禍の状況が続くなか、インターネット通販の利用がグローバルで増加しているが、それに伴い宅配・配達業への負担増もグローバルで問題となっている。しかも、宅配・配達業はコロナ禍以前より人手不足が深刻化している。かつ感染症対策として非対面ニーズへの対応なども求められており、指定された場所に配達員が荷物を置いて宅配を完了させる「置き配」などが増えているが、セキュリティー面での問題がある。そこで注目度が高まっているのが宅配・配達ロボットで、海外では実証フェーズから実用フェーズに入っているケースも増えている。

アマゾンがロボット配送エリアを拡大

 配達ロボットで世界トップ級の実績を有するのはスターシップ・テクノロジーズ(米カリフォルニア州)。2014年の設立からこれまでに10万回以上の商用配送(56万km以上の移動)に成功しており、100以上の地域で走行を実施。直近は、企業や大学敷地内での商品配送サービスに力を入れており、新型コロナの拡大以降、ワシントンDCで食料品の配達サービスを開始するなど対応エリアを拡大している。

 あまり知られていないが、アマゾン・ドット・コムも配達ロボットの取り組みを進めている。アマゾンは、ロボットベンチャーの米Dispatchを17年に買収し、同社の技術をベースに、配達ロボット「アマゾン・スカウト(Amazon Scout)」を開発。小型のクーラーボックスとほぼ同等サイズのロボットで、歩行者やペット、障害物などを回避しながら歩道を自律走行する。19年にワシントン州スノホミッシュ郡とカリフォルニア州アーバイン地域の一部エリアで配送実証を開始し、現在までに数千回のロボット配送を実施。そして7月ごろからジョージア州アトランタとテネシー州フランクリンの一部エリアでもアマゾン・スカウトによる配達を開始した。

アマゾンは配達ロボットの活用エリアを拡大

 16年設立のベンチャーであるNuro(米カリフォルニア州)は、車道を走行するタイプの大型の配達ロボットを開発しており、18年12月から米アリゾナ州スコッツデールで、一般消費者向けに食料品を配達するサービスも開始。また、19年6月には世界最大のピザ会社であるドミノと、19年12月にはスーパーマーケットチェーン大手のウォルマートとの連携を発表し、テキサス州ヒューストンで実証を進めている。

 配達ロボットベンチャーのリフラクション エーアイ(Refraction AI、米ミシガン州アナーバー)は、ミシガン州のレストランなどと提携しながら、19年12月から実証を開始。新型コロナによる外出制限が始まって以降、利用回数が急速に増えており、1日あたりのロボットの平均走行距離は新型コロナ前の約4倍に拡大。また、食料品などを扱う「The Produce Station」(ミシガン州アナーバー)と4月から提携するなど、利用企業も拡大している。

中国ではJD.comが先行

 宅配・配達ロボットは中国でも実用化が進んでいる。その先頭を走るのが中国の大手インターネット通販サイト「京東商城(JD.com)」を運営する京東集団で、19年1月に中国・長沙市およびフフホト市にて、配達ロボットによる配送所「無人配送車スマート配送ステーション」を開設。20年2月上旬からは武漢第9病院と、同病院から600mの位置にある配送ステーションとのロボット配送も開始している。京東集団は19年2月に楽天㈱(東京都世田谷区)と無人配送ソリューションの領域で連携すると発表しており、楽天は京東集団のロボットを活用し、20年内に公道でのロボット配送サービスを実証する予定だ。

 新興企業では、大型の配達ロボットを手がけるNeolix(新石器、中国・北京市)が3月に約2億元(約30億円)の出資を獲得した。18年設立のベンチャーで、18~19年の2年間で225台を出荷。新型コロナが拡大した20年は1~2月の2カ月間だけで200台を超える配達ロボットを受注したと報じられており、中国の地方自治体は無人配達車の購入で最大60%の補助を出す制度を準備中ともいわれている。

日本は公道実証に向けた検討段階

 日本でも、国や地方の成長戦略を議論する「未来投資会議」の第38回の会合(5月開催)で、宅配・配達ロボットが議題に挙がった。しかし、米国や中国などに比べて、その取り組みは遅いと言わざるをえない。それ以前に、日本では低速かつ小型の無人自動配送ロボット(歩道を走行し時速6km以下のロボット)について、道路運送車両法や道路交通法などで区分ができない状態で、公道での実証どころか、監視・操作者が近くでロボットを見ながら追従する「近接監視・操作」型に限り、歩道走行を含めた公道実証を行うことができる枠組みが4月に整備された段階である。

 安倍首相は会議において「宅配需要の急増に対し、人手を介さない配送ニーズが高まるなか、低速・小型の自動配送ロボットについて、遠隔監視・操作の公道走行実証を年内、可能な限り早期に実行する。関係大臣は具体的に検討を進めていただくようお願いする」と述べたが、すでに実用フェーズに入っている米国や中国に比べて取り組みは遅く、日本で配達ロボットを目にするのはまだまだ先になりそうだ。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 浮島 哲志

まとめにかえて

 コロナをきっかけに、新たなサービスや事業が生まれていますが、接触や移動リスクを軽減する意味でもロボットの活用シーンはどんどん広がっています。こうした環境変化の敏感に察知し、素早く事業につなげることができるのか。事業会社だけでなく、国や政府のバックアップも重要となりそうです。

 

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